28人が犠牲になった静岡県熱海市の土石流災害から、2023年2月で1年7カ月だ。土石流が流れ下った川の河口で、漁業者やダイバーが使うシャワー室が完成した。被災建物を再建して使う初めてのケースだ。ただ、警戒区域は今も立入禁止で多くの被災住宅が放置され、住民235人の避難生活は続く。
土石流被災の建物が初めて復活

2月4日 熱海市の伊豆山港に完成した新しい建物。漁師やダイビング客が利用する「シャワー室」だ。
2021年7月の土石流で全壊したものの、漁師たちの「伊豆山漁業会」が、クラウドファンディングによる支援や県や市などの補助金で再建した。土石流で壊れた施設が復活した初めてのケースだ。

伊豆山漁業会・松本 早人 代表:
クラウドファンディングで約束した第一弾としてシャワー室が完成して、ダイビングのお客さんや漁業者が潜った帰りに着替える場所が確保できた。漁業も壊れたシャワー室も両方とも改善されていくので良かった

シャワー室には10台のシャワーとトイレが完備され、12日から利用が始まった。シャワー室の完成で、中断していた伊豆山港周辺でのダイビングも約1年7カ月ぶりに再開された。

伊豆山漁業会・松本 早人 代表:
被災され亡くなった方々のためにも、自分たちのように被害を受けた人にとっても、被災した建物を再建して活動するという、大きな一歩を踏めたと思うので良かった
土石流の再発防止工事は着々と
復興に向けた動きは、他にもある。

土石流が流れた逢初川(あいぞめがわ)の上流部では、国の直轄事業で土砂の流出を抑える砂防堰堤(えんてい)の新設工事が24時間体制で進められている。2023年3月中にも完成する予定だ。

落ち残った土砂は、静岡県が行政代執行により撤去を進めている。
土砂を搬出するための道路の造成工事が始まり、県は2023年5月頃までには完了させたい考えだ。

また、逢初川の改修工事に向けて2月8日、安全祈願式が行われた。道路の下を流れている川にコンクリート製の水路を設置し、まずは道路を迂回させる工事に着手する。
県熱海土木事務所・杉本 文和 所長:
復興・復旧には現地で工事をしている状況がないと、被災者のみなさんの気運も沈んでしまう。この工事を早くやりたいと思っていたので、始められて安心しています
進まぬ被災住宅の解体 避難住民「何も変わらない」
一方で、警戒区域の建物の解体は進んでいない。

警戒区域の住民132世帯235人(2022年8月調べ)は、今も市内のアパートなどで避難生活をしいられている。

解体費用の全額が公費で補助される半壊以上は89棟で、このうち63棟が解体を申請した。市は2023年1月中に解体を終える予定だったが、解体できたのは21棟だけだ。
申請はしたものの、着手の時期を決めかねている人もいるそうだ。

変わらない被災地の景色に、被災者から不安の声が上がっている。
被災者・太田 かおりさん:
ここへ来て被災地を見ると何も変わらない。何も進まないのは、やはりつらいです。本当に(元に)戻るのだろうか。でも自分たち被災した人間があきらめてしまったら、もう(伊豆山には)戻ってこないと思います。最後の一人になっても(伊豆山の復興を)あきらめないようにと、いつも自分に言い聞かせています

解体するか揺れる思いの被災者もいる。
被災者・小松 こづ江さん:
70年私が住んできた家で、母と父がいた家。それを壊すと、今までの思い出の場所が何もなくなってしまうので、まだ悩んでもう少し待ってみようと思います。いつも一時帰宅して、「何も変わっていない」と思うのです。変わっているのは、家が少しずつおかしくなっていることだけ
警戒区域は目標通り解除できる?

土石流が流れ下った逢初川の改修や道路整備についても用地交渉が進んでいない。2023年夏の終わりを見据えた警戒区域の解除への影響が心配される。
熱海市まちづくり課・渋谷 義男 課長:
(被災者が)自宅に戻っていただくために、自宅までの道路やライフラインの復旧が必要となります。市が予定をしている警戒区域の解除に向けて、ライフラインの復旧のための調査や設計などを(事業者に)進めていもらっています
熱海市は、警戒区域解除の条件として、「砂防堰堤の完成」と「落ち残った土砂の撤去」をあげている。そのふたつは早ければ2023年5月にも条件がそろう。

熱海市・斉藤 栄 市長:
(進捗状況は)順調というか、一日でも早くという思いに変わりはない。しっかりと一歩ずつ進めているという認識です

災害関連死を含め28人が犠牲となった土石流災害から、2023年2月で1年7カ月。
復旧・復興に向けた動きを速め、一日も早く被災者がもとの生活に戻れるよう取り組んでいくことが求められている。
(テレビ静岡)