笑顔で写真に写る女性。川野美樹さん(当時38)は1月16日、福岡市のJR博多駅前で男に刃物で十数カ所を刺され死亡した。


この事件で逮捕・起訴されたのは川野さんの元交際相手、寺内進被告(31)。その犯行動機はあまりに身勝手なものだった。

「復縁を求めたが、かなわなかったので刺した」
川野さんは2022年10月、警察に「携帯電話を取られた。相手とも別れたい」などと相談。警察は警告を行った。

しかし、その後も川野さんの職場で待ち伏せをしたり、何度も電話をかけるなど、いわゆるストーカー行為はエスカレート。そのため、警察は2022年11月、ストーカー規制法に基づくつきまといの禁止命令を出した。

しかし、その禁止命令から51日後、事件は起きてしまった。一体なぜ、事件を防ぐことができなかったのか…。
今回の事件を受け、取材班はある男性の元を訪ねた。
女子大生を襲ったストーカーたち 執拗な嫌がらせも
埼玉県に住む、猪野憲一さん(72)。

猪野憲一さん:
やはりストーカー殺人が起きましたよっていう話を聞けば、うちの事件の時はそうだったなと、思い起こさざるを得ないですね。

猪野さんは、24年前に起きた桶川ストーカー殺人事件で娘・詩織さんの命を奪われた被害者遺族。
その凄惨な事件は当時、大きく社会を揺るがし、ストーカー行為を法律で規制するきっかけとなった。

1999年10月26日、埼玉県桶川市。当時21歳の大学生だった猪野詩織さんが、自宅近くの駅前で、元交際相手を含むストーカーグループに刃物で刺され死亡。日本中を震撼させた。

詩織さんは事件前、加害者グループから執拗な嫌がらせを受けていたという。

猪野憲一さん:
嫌がらせ電話が、もう何十回もかかってきた。「かわいい弟がいるんだよな」って。「もう明日には、その子の顔が見られなくなっちゃうね。かわいそうだな」とか。

詩織さんや家族に毎日、かかってきたという脅迫まがいの電話。さらに…。

猪野憲一さん:
このあたりにずーっと、選挙のビラみたいような形で貼ってあったんですね。詩織の電話番号とか顔写真。いかにも犯罪者を捜すような、「この顔にピンときたら警察にお知らせください」みたいな書き方。

詩織さんを中傷する内容が書かれたビラが自宅近くの壁に貼られ、近所の家の郵便受けにもばらまかれていたという。

取材班:
(両親)2人で回収されたんですか?
猪野憲一さん:
2人ですよ、手分けして。私が剥がしたり、女房は各家庭を回って回収したり。
警察は「完全な逃げ腰だった」 事件を機に法規制
エスカレートする嫌がらせに、猪野さん家族は警察へ相談にも行ったという。ところが…。

猪野憲一さん:
「男と女の痴話ゲンカに警察は入らないよ。民事不介入だよ」って。初めから、もう完全な逃げ腰だったのは確かですね。

助けを求めても、警察は聞く耳を持たなかったという。そして、その約4カ月後に事件が起きた。
事件発生の一報を会社で連絡を受けたという憲一さん。


猪野憲一さん:
人を殺すっていうことっていうのは、ちょっと想像してなかったんで。最後には警察が動いてくれるんじゃないか、という期待感はありましたね。

当時、連日マスコミに報じられ、警察が対応を怠ったことなどが問題視されるなど、大きな社会問題に。それをきっかけにストーカー規制法が成立し、その年に施行された。

しかし、その後もストーカーによる被害は後を絶たず、3度に渡って法改正が行われてきた。
それでも起きてしまった博多のストーカー殺人事件。一体どうすれば、ストーカー犯罪を押さえ込むことができるのか…。
「現行法では限界」専門家が警鐘 遺族は厳刑訴え
ストーカー対策に詳しい専門家は、現在の規制法では限界があると話す。


立命館大学 廣井亮一教授:
禁止命令などの法的な対応で相手(被害者)との関係を完全に切られると、(加害者は)不安やおびえを強めていくんです。そして過激な攻撃とか、こういう犯罪に及んでしまう。したがって、法的な対応をしたら、それと同時にストーカー(加害者)の不安やおびえを受け止めて、ストーカーをケアするという加害者臨床的な関わりが求められると思います。

さらに、法的に押さえつけるだけでなく、犯罪に発展しかねないストーカーの不安などを治療によってケアする必要があるという。

立命館大学 廣井亮一教授:
本人が治療に同意すればそれにつなげていく、というような仕組みを構築していくこと。これが必要になる。
一方で猪野さんは、加害者にもっと踏み込んだストーカー対策の必要性を強く訴える。

猪野憲一さん:
刑罰を厳しくする。例えば、GPSを加害者に付けさせる。一歩、加害者に踏み込んで「お前のことは見てるんだよ」というチェックをしていくべき。
二度とストーカー事件の被害者を出さないためにも、実効性のある早急な対応が求められる。
(「イット!」2月20日放送)