世界で1万人以上が死亡した「エボラ出血熱」とよく似た感染症の、「マールブルグ病」がアフリカ中部の赤道ギニアで確認され、WHO・世界保健機関は9人が死亡したと発表した。

感染した場合、1週間程度で死亡するケースもあるという未知なるウイルスの日本への影響について、長崎大学高度感染症研究センター・安田二郎教授に聞いた。

致死率は20~90%

ーー「マールブルグ病」はどういった病気?
マールブルグウイルスという、エボラウイルスと同じ仲間のウイルスによる病気で、症状もエボラ出血熱と非常によく似ています。

エボラとの違いはそれほどありませんが、エボラの方が頻繁にアウトブレイク、感染流行が起きています。

長崎大学高度感染症研究センター・安田二郎教授
長崎大学高度感染症研究センター・安田二郎教授
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ーー人に感染するとどんな症状が出る?
人に感染した場合の致死率は、だいたい20~90%で、エボラウイルス感染症と同じように、初期症状としては、発熱・倦怠感・悪寒といった症状が出ます。

そして重症化すると、粘膜面からの出血傾向が現れて、最終的には肝臓や腎臓など様々な臓器が不全状態に陥り、多臓器不全で亡くなるケースが多いです。

マールブルグウイルス
マールブルグウイルス

ーー感染ルートと潜伏期間は?
感染の主なルートは“接触感染”です。

感染した人の“体液”や“血液”などに触れることによって、傷口や結膜など粘膜面からウイルスが入ってきて感染、伝播が成立するのが一般的です。

感染した場合の致死率は非常に高いですが、感染力、感染率自体は、エボラでも言われていますが、空気感染・エアロゾル感染の報告はほとんどないので、弱いです。

感染してから発症するまでの潜伏期間は、エボラと同じように、2日~21日と言われています。
全ての人が発症するわけではないですが、発症してから亡くなるまでは、数日の方もいますが、だいたい1~2週間の方が多いです。

コウモリから人に感染か

マールブルグウイルスの主な感染ルートは“接触感染”で、自然宿主の1つであるコウモリから人間への伝播が起こっている可能性があると考えられている。

ーー治療薬やワクチンはある?
承認された治療薬やワクチンはありませんが、臨床試験の段階の治療薬やワクチンはあります。しかし承認されてないので、普通に使えるようなものではありません。

ただ、承認されていない治療法を使うことはあります。

例えば回復した方の血清を使うとか、一般的な方法としてインターフェロンを使う方法、それから重要なのが、主に対症療法となりますが、電解質管理とか輸血などの治療法もあります。

ーーなぜアフリカでの感染が多い?
自然宿主の1つがコウモリだろうと言われています。

自然宿主から時々散発的に人への感染が起きて、大規模ではありませんが、感染流行が起きてしまうのが現状だと思います。

実際に2008年に、オランダ人とアメリカ人がマールブルグ病を発症していて、その2人はウガンダの洞窟でコウモリと接触して、感染したと言われています。

ただマールブルグウイルスもエボラウイルスも、人とコウモリだけではなく、いろんな動物に感染するので、そうした動物との接触によっても人は感染します。

“早期発見、隔離対策”は出来ている

マールブルグ病を予防するワクチンがない中、今後感染が拡大する恐れはあるのか。

安田教授は、陽性者の早期発見・隔離が出来ているので、封じ込めは可能だと話す。

ーー最悪なケースは何が想定される?
過去に1番大きいのは、2004年から2005年にかけてアンゴラで発生したマールブルグ病のアウトブレイクです。

252人が感染して、227人が亡くなっています。致死率は約90%でした。

こういった流行は感染力から考えて起きないと思いますが、今回は初期段階で見付けているので、きちんと対応を取れば、そんなに拡大するような感染症ではないと思います。

ーーなぜエボラはあんなに広がった?
今までエボラの感染流行の経験がない国は、対応が後手後手に回って、都市部に感染症が入ってきてしまい、人口密度が高く、人の動きも活発な環境で、たくさんの人が感染してしまいました。

今回は9人亡くなって、感染者は16人ぐらいと報告されているので、この段階できちんと隔離して、感染伝播を抑えることができれば、そんなに広く感染が拡大することはないと思います。

ーー今後、国外に広がる可能性はある?
現地の対応次第だと思います。

エボラの大規模流行は、ギニア・シエラレオネ・リベリアの3国を中心に感染が拡大しましたが、どの国も対応がまずかった。今回は、セネガルのパストゥール研究所が、すでに現地に入って検査体制を整えているということなので、きちんと検査して陽性者を隔離すれば、封じ込めることができると思っています。

新型コロナウイルスで経験していると思いますが、感染症対策で一番重要なのは、早期に見つけて、隔離して、感染を拡大させないということです。

今回のマールブルグ病の対策ではそれができていると感じるので、それほど拡大しないと思います。