ヒグマ 本州進出の可能性は?

撮影:視聴者 (知床に出没したヒグマ)
撮影:視聴者 (知床に出没したヒグマ)
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連日ヒグマの出没が相次ぐ北海道。

ウシ66頭を襲ったOSO18が駆除され酪農家もひと安心だが、北海道ではクマに襲われ死傷者が出ているほか、札幌など市街地でも出没が相次いでいて、住民の不安は続いている。

そんな中視聴者からある質問が寄せられた。

「ヒグマが本州に進出する可能性は?」

日本の動物界で最強の身体能力を持つヒグマ。

果たして海を渡ることは可能なのだろうか。

湖を泳ぐ2頭のクマ

2023年7月に撮影されたヒグマの画像。

湖を泳ぐ2頭のクマ
湖を泳ぐ2頭のクマ

水面から2頭が顔をのぞかせ、悠々と縦一直線になって湖を泳いでいる。

根室市春国岱と別海町にまたがる風蓮湖で、2頭のヒグマが湖を行き来する姿が目撃された。

映像には先頭を泳いでいた1頭が水しぶきをあげ豪快に走る姿も捉えられていた。

走る姿も目撃
走る姿も目撃

根室市によると、2頭のヒグマは9日北の方向に泳ぎ、11日には逆方向へ、さらに12日にはまた北の方向へと湖を何度も往復したのが確認されている。 

実は、湖を泳ぐクマの目撃は今回だけでない。

泳ぎながら威嚇するヒグマ

黒い影はヒグマ うなり声をあげ威嚇
黒い影はヒグマ うなり声をあげ威嚇

3年前には、同じ風蓮湖で、体長2メートルほどのヒグマが泳ぐ姿が捉えられた。

クマはうなり声をあげながら漁船に接近。

威嚇する様子が撮影された。

そのスピード感のある泳ぎから、驚異的な身体能力がうかがえる。

ヒグマが津軽海峡を渡る可能性は?

そんな泳ぎが得意なヒグマについて、テレビの視聴者やニュースのコメント欄からは、こんな声も寄せられている。

「ヒグマが泳いで北海道から本州に渡ることはあるの?」

これほどまでに泳ぎを得意とするヒグマであれば、津軽海峡を渡って本州に上陸することも可能なのではないかと思ってしまうのも当然かもしれない。

利尻島に2度上陸したヒグマ

利尻島に現れたヒグマ(提供:宗谷総合振興局)
利尻島に現れたヒグマ(提供:宗谷総合振興局)

実はヒグマが海を渡って離島にたどり着いたというケースがあった。

2018年6月、北海道北部の利尻島に突然クマが現れ、島は大騒ぎとなった。

クマの生態に詳しい北海道野生動物研究所所長の門﨑允昭さんによると、利尻島と北海道間の最短距離は19キロ。

利尻島に現れたクマは、交尾のためメスを探して海を渡ったとみられる。

メスがいなかったせいか、クマはまた泳いで島から去っていったという。

利尻島にヒグマが現れたのはこれだけではない。

1912年にも、体長2.4メートル、体重300キロの巨大なオスのクマが現れた。

しかし上陸寸前に漁師たちにみつかり、斧で撃退されて上陸は阻止された。

利尻島アフトロマナイで殺獲されたヒグマ(明治45年、寺島豊次郎撮影、利尻富士教育委員会所蔵)
利尻島アフトロマナイで殺獲されたヒグマ(明治45年、寺島豊次郎撮影、利尻富士教育委員会所蔵)

ヒグマは津軽海峡を泳ぎ切ることができるのか?

20Km近くの海を軽々と泳ぎ渡ることができる泳力を持つヒグマ。

津軽海峡も制覇してしまう恐れはないのか。

最短距離だけみると、実は利尻島~北海道本島の距離とそう違いはない

北海道本島との最短距離は、利尻島が約20km。

一方、津軽海峡は北海道の汐首岬から青森県の大間崎まで最短で約21km。

北海道の白神岬から青森県の龍飛崎だと約20kmの距離だ。

最短距離だけで考えれば十分泳ぎ切る可能性はありそうだが…

ヒグマが津軽海峡を泳いで、本州にたどり着くことは可能なのか。

ヒグマの生態に詳しい北海道大学大学院獣医学研究院 野生動物学教室の坪田敏男教授は、距離だけで考えると津軽海峡を渡って本州に行けるかもしれないとした上で、潮の流れや風の向きなども関係し、そう簡単ではないと指摘する。

実際、ヒグマが津軽海峡を渡って本州にたどり着いたという話は聞いたことがない。

過去にも例がないヒグマの津軽海峡縦断。

たしかに津軽海峡の間には、生物学的な境界といえる「ブラキストンライン」が存在している。

かつて本州にもヒグマはいた

さらに、ヒグマの生息を本州と北海道で隔てているのは単に距離的な問題だけではないという。

坪田教授によると、実は進化の過程で海面が低かった時代にヒグマは一度本州に渡来していて、本州でヒグマの化石も見つかっているという。

しかし本州にいたヒグマはすべて絶滅してしまった。

環境に適応していたツキノワグマとの生存競争に敗れたのかもしれない。

ツキノワグマとの交配の可能性は?

撮影:視聴者 知床に出没したヒグマ
撮影:視聴者 知床に出没したヒグマ

ところで、利尻島に渡ったクマはいずれも繁殖のため、メスを求めていた単独のオスのクマだった。

この点について、視聴者からはこんな疑問も寄せられた。

Q:ヒグマがつがいで渡ることは無理だが、オス1頭だけが偶然にも本州にたどりつき、現地のツキノワグマと交配する可能性はないのか?

ツキノワグマ (提供:「くまくま園」)
ツキノワグマ (提供:「くまくま園」)

この点についても、ヒグマの生態に詳しい坪田教授は繁殖は難しいと話す。

ヒグマとツキノワグマは種レベルで違うので繁殖の可能性は極めて低く、これまで交配できたという報告もないというのだ。

また、北海道野生動物研究所所長の門﨑さんは、たとえ複数のヒグマが渡り切り繁殖できたとしても「もはや本州は気候が暖かすぎるためヒグマには合わない」と指摘する。

OSO18 (提供:標茶町)
OSO18 (提供:標茶町)

地球温暖化などの影響のせいか、夏には災害級の猛暑が続く本州はヒグマの生息には向いていないのかもしれない。

本州にヒグマが突如現れる…?

物理的にも気候的にも厳しいことから、今のところ杞憂に終わりそうだ。

北海道文化放送
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