体重2500g未満で、体の機能が未熟なまま生まれる「低出生体重児」。出生数に対する割合は増え、2010年からは全出生の9%を超えている。低出生体重児が不自由なく元気に成長できる環境とは…。体重570gで生まれた赤ちゃんの家族を取材した。

低出生体重児の写真展 成長した姿に「励まされた」

お母さんに抱っこされて、にっこりほほえむ赤ちゃんに、ご飯をおいしそうに食べる赤ちゃん。無邪気な表情からは、あふれんばかりの幸せを感じる。しかし…

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長谷川珠子アナウンサー:
実はこれらの写真に写っている子たちは皆、体重2500g未満で生まれた低出生体重児でした。生まれた当時の大きさは、私の両手と同じくらいの大きさでとても小さいです

小さな体で、体の機能が未熟なまま生まれる「低出生体重児」。この写真展を主催したのは、新潟県内の低出生体重児とその家族からなるサークル「こめっこくらぶ」だ。

双子の低出生体重児の母:
同じくらい小さく生まれた子たちが、これだけ頑張っているのを見て励まされたし、大きくなっている写真を見て安心した。頑張っている先輩たちがいっぱいいるので、この子たちも後に続いてくれたら

(Q.どんなときに大きくなったと感じる?)
双子の低出生体重児の兄:

ミルクを飲んだとき

こめっこくらぶ代表 倉嶋里歩さん:
小さい赤ちゃんも、その子、その子のペースがあるけど、ゆっくりでも大きくなる。子どもの可能性はすごい

今は元気いっぱいの子どもたちだが、その笑顔の裏には、命がけで乗り越えた過去がある。

「生きられるのかなと…」 570gで誕生した超低出生体重児

松浦あかねさん:
これが生まれた直後の写真。帝王切開して、生まれてすぐ、パパが撮ってくれた写真

(Q.大きさはどのくらい?)
こめっこくらぶ代表​ 松浦あかねさん:

大きさは570g

こう話すのは、こめっこくらぶの代表で、魚沼市に住む松浦あかねさん。

2023年2月、2歳を迎える娘・のぞみちゃんは、予定より4カ月早く、体重570gで生まれた「超低出生体重児」だった。

松浦さんの娘・のぞみちゃん
松浦さんの娘・のぞみちゃん

松浦あかねさん:
会いに行った時、輸血もしていたし、全身管だらけ。思っていたよりも小さくて、生きられるのかなというのはあった

また、松浦さんは助産師をしていて、人より出産に関する知識はあった。

松浦あかねさん:
知っているのと、経験するのは違うなと思った。ちょっと知識があるからこそ、これからどうなるのか何となく分かって。だからこそ不安で怖かった

肺が弱かったのぞみちゃんは、半年間の入院を余儀なくされたが、医師の懸命な治療もあり、無事に退院。ゆっくりではあるが成長し、2022年4月からは保育園にも通っている。

松浦あかねさん:
保育園でも、おもちゃの取り合いとかするようになったみたいで、けっこうケンカしているみたい(笑)

増加する低出生体重児 健康支える「母乳バンク」の現状

医療の進歩で助かる命が増え、低出生体重児が生まれる割合は年々増加しているという。

新潟市民病院 永山善久 医師:
出生に対する割合は増えていて、全出生の9%を超えている。私が医者になった頃、35年前は全出生に対する低出生体重児の出生率は5%くらいだったので、もう倍近くに増えている

新潟市民病院 永山善久 医師
新潟市民病院 永山善久 医師

成長期の偏った食事や晩婚化による高齢出産の増加などをその要因に挙げるのは、新潟市民病院総合周産期母子医療センターの永山善久医師。

県内では、新潟市民病院・長岡赤十字病院・新潟大学医歯学総合病院の3つに、総合周産期母子医療センターがあり、低出生体重児はセンター内のNICU(新生児特定集中治療室)で治療を受ける。

永山医師はこうした医療体制を整えても、低出生体重児を支えるためには「多くの協力が必要」だと話す。

新潟市民病院 永山善久 医師:
赤ちゃんを育てるために、お母さんの母乳というのは必要不可欠な治療法。一つ、壊死性腸炎という合併症がある。これは、起こると命に関わるような重篤な合併症で、そのリスクを下げるための一番のポイントは母乳栄養

腸管が未熟な低出生体重児にとって、母乳はまさに命綱。そこで新潟市民病院が2022年2月に始めたのが「母乳バンク」。

新潟市民病院 永山善久 医師:
クール宅急便で来る母乳バンクから届いたミルク。もう、カチカチ。-20℃以上で凍っているので

母乳バンクから届いたミルク
母乳バンクから届いたミルク

(Q.殺菌したものも、そのままの鮮度で?)
新潟市民病院 永山善久 医師:
成分もほとんど変わらないで維持できる

母乳バンクは、十分な量の母乳が出ないお母さんに寄付された母乳・ドナーミルクを提供する仕組みで、県内では唯一、新潟市民病院が導入している。

しかし現在、母乳バンクの拠点は国内に2カ所のみ。

新潟市民病院 永山善久 医師:
諸外国において、歴史的には30年以上、母乳バンクというのは発達しているが、国内においては、整備が遅れているのが現実

整備遅れる母乳バンク
整備遅れる母乳バンク

感染症予防のための低温殺菌処理などに費用がかかり、財政的な厳しさは拭えないという。

新潟市民病院 永山善久 医師:
低出生体重児のお母さんたちでも、一時期、母乳バンクの力を借りて、その後、母乳育児を楽しめるようなことができればいいのかなと思う

自らの体験生かし 母子手帳の「サブブック」制作

母乳バンクの普及を願い、病院への働きかけを行う松浦さんは、他にも低出生体重児を支える環境づくりに取り組んでいる。

松浦あかねさん:
これが暫定版の、いま配布している新潟の「リトルベビーハンドブック」。小さく生まれた子向けの母子手帳のサブブックみたいなもの

2023年4月の配布に向け、県とともに新潟県版の作成を進めている松浦さん。その背景にはあったのは、のぞみちゃんの体重や身長を母子手帳に記録できなかったことだった。

松浦あかねさん:
一応書いてあるけど、目盛り外からスタートしている。身長も29cmで生まれたので、枠を書き足して、ここからスタートみたいな感じで

のぞみちゃんの母子手帳
のぞみちゃんの母子手帳

リトルベビーハンドブックは、身長や体重の目盛りを0から設定。

「リトルベビーハンドブック」
「リトルベビーハンドブック」

また、寝返りやお座りなども月齢によって「できた」・「できない」を比較するのではなく、その子のペースで成長を記録できるようになっている。

松浦あかねさん:
ママと赤ちゃんにとって、母子手帳は大事だけど、それを見ることで、悲しい気持ちになるのはつらいと思うので、その気持ちがちょっとでも軽くなればいい

自らの体験をもとに、子育てしやすい環境を考える松浦さんは“周囲の理解”も重要だと考えている。

松浦あかねさん:
痛いこともいっぱいしてきたし、生まれた時から何回も針を刺されたり、呼吸器に入ったりとか、すごくつらかったけど、そういうつらい治療を乗り越えてきた、すごく強い子だなと思う。「かわいそうなだけじゃない」と知ってもらいたい

県や病院と手を取り合って、小さな成長を喜び合える環境を…。低出生体重児の明るい未来のため、理解の輪を広げる活動が続く。

(NST新潟総合テレビ)

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NST新潟総合テレビ
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