救急隊が患者の受け入れを病院に4回以上連絡し30分以上現場に留まったケースを、「救急搬送困難事案」という。浜松市では2023年1月上旬までの1カ月間に、前年同期比の12倍と急増した。新型コロナによる医療ひっ迫が原因で、救急隊員は「患者の容態悪化が不安」と訴える。
全国2例目の「対策強化宣言」

静岡県・川勝 平太 知事:
医療ひっ迫防止対策強化宣言を発令することになった
2023年1月13日、静岡県は「医療ひっ迫防止対策強化宣言」を出した。新型コロナの新規感染者が急増し、コロナ専用病床の使用率が80%を超えたためだ。

感染症法に基づき医療機関に軽症患者の入院を抑えることなどを要請し、病床の確保を呼び掛けた。川勝知事は「今回のお願いは医者と看護師を救うため。最後の砦が悲鳴を上げている」と県民に理解を求めた。
国が定める「医療ひっ迫防止対策の強化宣言」を出したのは、岐阜県に続き全国で2例目だった。
「救急搬送困難事案」が前年同期比12倍
ケガをした人や病気になった人を、いち早く医療機関まで搬送する救急隊。医療体制のひっ迫によって、「救急搬送困難事案」が急増した。

浜松市消防局 中消防署・岡田 聡 消防司令補:
私自身、2時間近く病院が決まらずに現場に滞在したことを経験しています。以前も病態によっては決まらないことが時々はありましたが、それが今はもう日々起きてしまっているという現状です

救急搬送困難事案とは、搬送の際 医療機関に4回以上受け入れ可能かどうか連絡し、救急隊が30分以上現場にとどまったケースを指す。
浜松市消防局管内では、2022年12月12日から2023年1月8日までの4週間で290件。これは前年の同じ時期の23件に対し、12倍以上だ。
浜松市から周辺の磐田市や掛川市に、さらには愛知県豊橋市など県外へ搬送したこともあったそうだ。
救急搬送先すぐに決まらず…
ただでさえ救急搬送が増える冬。救急隊の活動を定点カメラで撮影した。

救急車に患者が運び込まれる。
救急隊員:
はい、いいよ、よし。名前を言ってください、生年月日は?
救急車に患者を乗せた後、電話で搬送先の医療機関を探す。スムーズに搬送先が決まることもあるが、この日は違った。

病院に連絡する救急隊員:
現在 発熱が37.5℃。はい、わかりました。また よろしくお願いします
病院の回答を車内の同僚に伝える。
救急隊員:
今 ベッドが満床で、病院が診れないということなんで、もう一つ近くの病院をあたります
発熱がある場合は新型コロナが疑われるため、搬送先が決まらないことが多くあるという。
救急要請は過去最多 適切な利用を呼びかけ
2022年度に浜松市消防局では、傷病者を救急車に乗せてから約3時間20分にわたって動けず、25回にわたり医療機関に問い合わせたケースもあったという。

岡田 聡 消防司令補:
容態が悪化することへの不安、時間経過とともに変化することもあるので。搬送先の病院が決まらないと、その不安がありますね

2022年に浜松市では救急要請の件数が4万1000件を超え、過去最多となった。不要不急の救急要請も含まれていて、浜松市消防局は総務省の救急受診ガイドを確認するなど、適切な利用を呼び掛けている。
感染拡大で医療スタッフも不足
感染症が専門で浜松医療センターの矢野邦夫医師は、救急搬送を受け入れられない理由は、患者が増えたことだけではないと指摘している。

浜松医療センター・矢野邦夫 医師:
スタッフが家庭で感染したり濃厚接触したりして、病院に来ることができなくなってマンパワーが足りず、現場がものすごく忙しくて救急車を受け入れることができないことが頻発しました
新型コロナの新規感染者数は、今後も変異株などのよって爆発的に増加する可能性も考えられる。矢野医師は入院患者を減らしていくためにも、ワクチン接種などで重症化を防いでほしいと呼びかけている。

浜松医療センター・矢野邦夫 医師:
新型コロナに感染したからすぐに病院に来るのではなく、基礎疾患のない若い方の場合は自宅で過ごし、経過を見てほしい。重症化すると、どうしても救急外来に来たり入院したりする人が出てしまう。それを減らすためにもオミクロン対応ワクチンの接種をお願いしたい。医療はひっ迫しているし、救急車を受け入れられないということはぜひとも避けたいわけで、その余裕を作らないといけないので、市民・県民の協力が必要になると思います
医療体制のひっ迫で急増した「救急搬送困難事案」。
救える命が救えなくなる状況を避けるためにも、まずは医療の負担軽減を図る一人一人の行動が求められそうだ。
(テレビ静岡)