癒しの場として地域に根ざしてきた銭湯。しかし、銭湯業界を取り巻く環境は厳しさを増している。魅力を伝えるため…新潟市内の銭湯のイラストを描き、本を自費出版した女子大生の思いに迫った。

銭湯の“かわいらしさ”をイラストに!

2023年1月、新潟市中央区のギャラリー「スタックボード」で開かれた「A4展」。

A4展(新潟市中央区・スタックボード)
A4展(新潟市中央区・スタックボード)
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スタックボード 長北美佐子さん:
13組の作家による、A4サイズに限定した作品展

限られた大きさの世界に自由な表現を目指した、複数のアーティストによる作品。見た人の会話が弾んでいたのは、新潟市内にある10軒の銭湯を同じ構図で描いた絵。

作品を見た人:
かわいい

作品を見た人:
銭湯に行きたくなった

銭湯のイラスト
銭湯のイラスト

小さな絵の中に、銭湯の情報を詰め込んだ優しいタッチの水彩画は、大学4年生のナナオさんが描いた作品だ。

ナナオさん:
大学で建築を学んでいて、新潟県内で素敵なタイルが見られる所を探したときに銭湯があった。職人さんの技。こんなきれいに並べられるのはすごい

銭湯の絵を描くナナオさん
銭湯の絵を描くナナオさん

この日、描いていたのは、新潟市中央区けやき通りの近くにある「みどり湯」。

ナナオさん:
みどり湯さんみたいな、大きなモザイクタイルは芸術鑑賞をしているような気分になる

みどり湯(新潟市中央区)
みどり湯(新潟市中央区)

ナナオさんは、2年前に銭湯を描き始めるまで、銭湯を利用したことがほとんどなかったという。

ナナオさん:
初めて銭湯に行ったとき、レトロでかわいい空間にタイムスリップしたようで感動した

ナナオさんが「銭湯を描く際に欠かせない」と話すのは、長さを図る巻尺。

ナナオさん:
かわいいのはなぜなんだろうと、突き詰めたくて。タイルの大きさと目地の幅のバランスがかわいさの理由だと思って測っている

見た人が空間を立体的に理解しやすい建築の作図技法を構図に用いて、できるだけ正確に、それでも遊び心は忘れない絵を心がけている。

みどり湯の3代目・坂井和博さんは銭湯業界の現状をこう話す。

みどり湯 坂井和博さん:
銭湯に来る人が少なくなって、運営は少しずつ厳しくなっている

大きな湯船に飲食や休憩スペースでくつろげるスーパー銭湯が人気を集める中、地域に根差した銭湯は住宅に風呂が普及したことなどにより、数が減ってきている。

タイルをきっかけに、銭湯を利用するようになったナナオさん。

ナナオさんが描いた「みどり湯」
ナナオさんが描いた「みどり湯」

ナナオさん:
もっとたくさんの人に銭湯のかわいさという部分に注目してもらい、「行ってみたい」と思ってほしい

「魅力を広めたい」イラストを自費出版

ある日、店主こだわりの本が並ぶ「北書店」を訪れたナナオさん。

店主に手渡したのは、2022年12月に完成した、新潟市内で営業する全ての銭湯の絵を一冊にまとめた「新潟銭湯ずかん」。

北書店(新潟市中央区)
北書店(新潟市中央区)

ナナオさんが「より大勢に銭湯の魅力を広められたら」と、自費出版した。

新潟銭湯ずかん
新潟銭湯ずかん

北書店 佐藤雄一さん:
新潟市内の銭湯だけを一冊にした本はなかった。このような本を販売できるのは、書店としてうれしい

ナナオさん:
いつまでも銭湯が残ってくれたらうれしいので、本などの広報活動で銭湯に行くお客が増えたらいい

銭湯を元気づけるナナオさんのイラスト

看板ネコを描き込んだ銭湯は、新潟市東区にある小松湯。

小松湯の神田真由子さんは、つらい銭湯の現状を話してくれた。

看板ネコもイラストに
看板ネコもイラストに

小松湯 神田真由子さん:
原料高騰に客数も減ってきている

逆風にさらされる銭湯に「新潟銭湯ずかん」は?

小松湯 神田真由子さん:
すごくうれしい。頑張らなきゃと思う

ナナオさんの銭湯の絵も展示されているA4展。1月初旬、ギャラリーに絵を搬入したときに、ナナオさんはこんな話をしていた。

ナナオさん:
絵の展示と本の制作はやりたいことリストに入っていたので、どちらも達成できてうれしい

年の初めに夢を叶えたナナオさん。春には大学を卒業して社会人になるが、銭湯の絵は描き続けるという。

ナナオさん:
新潟県内の全ての銭湯をイラスト化する

湯船で癒されるだけではもったいない。レトロでかわいい銭湯の世界だ。

(NST新潟総合テレビ)

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NST新潟総合テレビ
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