新型コロナウイルスの感染拡大で、私たちの生活、国や企業のかたちは大きく変わろうとしている。連載企画「withコロナで変わる国のかたちと新しい日常」の第20回は、俳優であり社会活動家、教育者でもある伊勢谷友介氏に、アフターコロナの社会、芸術文化から、教育のあり方までインタビューを行った。

僕は「利己をやれば利他になる」とよくいうんです

――伊勢谷さんが代表取締役を務めている株式会社リバースプロジェクトでは、新型コロナウイルスに対する医療支援プロジェクトをしていますね。

伊勢谷さん:
リバースプロジェクトは、社会課題をビジネスで解決するクリエイティブカンパニーです。医療従事者が使うマスクが無いということで、「サバイバルディスタンス」というプロジェクトを行っています。僕らのマスクを1枚購入してもらうと、マスク10枚、Tシャツだと30枚が医療関係者に届くもので、いまのところ20万枚のマスクを医療関係者に届けることができました。

伊勢谷友介氏は、医療支援プロジェクト「サバイバルディスタンス」を行っている
伊勢谷友介氏は、医療支援プロジェクト「サバイバルディスタンス」を行っている
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――今回コロナの感染拡大に対して、世界全体が社会・経済活動をストップしました。これをどう見ましたか?

伊勢谷さん:
コロナは人類全体に影響したと思いますが、中でも自分を守ることが他の人を守ることになると気づかせたと思うんですよね。僕はよくいうのですけど、利他をやれば利己になる、その逆の利己をやれば利他になると。多くの人が生きられるように何かをするのは、人間だからできるわけで、これをやらなかったら人間じゃないと。まあ、それが出来ない人が、検察庁にも市議にもいたという話ですけどね(笑)。

個人的にオフラインですることは「生活」と関係ないことです

――伊勢谷さんは、外出自粛時のリモートワークや生活をどう感じていたのですか?

伊勢谷さん:
僕は会議をオンラインにしたり、オフィスが無くてもいいと以前から考えていました。やっと皆がこの考えにたどり着いてくれたわけで、いまは変革の機会だろうなと思います。打ち合わせやスケジューリングはオンラインで可能だし、雑談が入るよりも意思疎通が早い気がするんですよね。フィジカルな仕事は別として、いまオンラインでできる仕事が増えていると思います。そしてオンラインで仕事している人たちは、時間に余裕が生まれてきました。ということは、以前はこの時間で無駄なことをしていたことになりますよね。

――一方でオンラインではできないものもありますね。

伊勢谷さん:
個人的にオフラインですることは、ほとんど「生活」とは関係ないことなんです。フィジカルな感動、たとえば人と会ったり触れたりとか、スノーボードとかスキーとか。みな不要不急なんですよね。スキーなんて下から登って降りて登って・・無駄じゃ無いですか(笑)。

だけど、このフィジカルで得られるものが、実は人生の中でとても大事だとわかってくる。そうなると、次の社会がどうなるかが見えてくる。

「僕はオフィスが無くてもいいと以前から考えていました」取材は自宅にてオンラインで行った。
「僕はオフィスが無くてもいいと以前から考えていました」取材は自宅にてオンラインで行った。

タレントは自ら発信しないと厳しい状況になってくる

――コロナ禍では芸術文化も大打撃を受けていますね。

伊勢谷さん:
不要不急だから、要らないんじゃないですか(笑)。僕は、人が使わないのに文化と呼んでいるものは少し苦手なんです。たとえば、いまの時代に刀が大事だといっているのと、同じだと思うんですよね。アートも、本当にアートと呼ばれているものは、ほとんどビジネスの中にあるものですね。必要無いものは要らないと思うし、精査されるべきだと思います。

――映画界も今回、撮影も上映も出来ない状態が続きました。

伊勢谷さん:
コロナ前からテレビではなく配信を観るようになり、YouTubeがコンテンツ化して、かなりの変化があったと思うんですが、コロナになってから「映画館なんて行かない」というのもリアルな話になりました。そうなった時に、何がメインのエンターテインメントになり得るか。

我々エンターテイナーとすれば、YouTubeで面白いヒットを出せば、変わってくることも今回同時に分かってきたので、タレントにはよりクリエイティブさが求められ、自ら発信しないと厳しい状況になってくるだろうと思います。

教育は日本が後進国だと今回分かりました

――次は教育の話を伺います。伊勢谷さんはLoohcs高等学院(以下ルークス)の学長でもありますが、休校中はどうされていましたか。

伊勢谷さん:
もう2月にはオンライン授業に切り替えていました。僕の世代は日本が先進国だと思って生まれました。ただ教育については、日本は後進国だということが今回わかりました。というのも双方向でオンライン授業をできているのは5%です(4月21日文科省公表)。教育は毎日の積み重ねの中で理解を深めていくもので、オンラインができるかどうかで圧倒的な差があるわけです。日本が後進国的な教育を提供している限り、先進国に置いていかれているのは目に見えています。すでに活用できるオンラインがあるにも関わらず、いまを生きる大人が以前のことに固執し、前例がないからトライしない。トライしないから失敗は無いけれど、やらないことこそが最大の失敗だと思います。

――文科省では今年から子どもたちに「1人1台」端末の配布を始めたところで、オンライン授業はまだまだこれからです。

伊勢谷さん:
教育をオンラインで始めれば、オンラインだから受け入れ可能なものもあるし、フィジカルな部分は別に担保すればいいと思うんですよね。一般的な授業に関しては、いままでのように先生が教えて生徒たちが画面にいるなら十分だと思っています。ルークスは、普通の学校では教えていない分野も教えるので、そこに関しては対面で無いと伝わらないのかもしれないですが、オンラインも試してみたいなと思っています。

コロナ禍で伊勢谷さんは「学びを止めないプロジェクト」を立ち上げた 写真撮影2019年5月
コロナ禍で伊勢谷さんは「学びを止めないプロジェクト」を立ち上げた 写真撮影2019年5月

――伊勢谷さんはコロナ禍で「学びを止めないプロジェクト」を始めましたね。

伊勢谷さん:
僕らが調べたところでは、高校生の約7割がオンライン授業を受けておらず、1割は十分なネット環境にいませんでした。そこでルークスでは、経済的に厳しい環境の高校生100人にルークスのオンラインゼミを1年間無償提供し、そのために使うWi-Fi環境とPCをクラウドファンディングでお願いしています。

経済を主軸にする生活から変わってもいいと思います

――伊勢谷さんは環境問題についても積極的に活動していますが、今回世界では経済活動の停滞で大気汚染が改善されていると。これについてどう思われますか?

伊勢谷さん:
お金は世界中で繋がっているので、リーマンショックのようにどこかが窮地になると全部窮地になりますね。だから経済圏を分離しろとはいわないまでも、経済を主軸にする生活から変わってもいいのではと思います。生きることはお金を稼ぐことでは無いので、これまでの生活から脱却出来たらいいなと思っています。

もちろん僕ら映画関係者はお金がないと苦しいですし、環境活動にしてもお金がなかったら出来ないということもあって、その不安はあるのですが。

――リバースプロジェクトでは、4月に三陽商会と環境に優しい衣料ブランドを立ち上げましたね。

伊勢谷さん:
僕らは衣食住とカテゴリーで分け、その業態にとって最もベターに変革するポイントは何かと考えます。そういう視点から見ると、アパレル製品の染色工程では大量の水が使用されて環境負荷を高めているので、シンプルに染めないというプロジェクトをやろうよと。ということで染めない衣服を提供しています。

「選挙は絶対にオンラインにすべきですね」と伊勢谷さん 
「選挙は絶対にオンラインにすべきですね」と伊勢谷さん 

選挙は絶対にオンラインにすべきですね

――最後に、伊勢谷さんはアフターコロナに何を期待しますか?

伊勢谷さん:
希望的観測もかなり含めていうと、選挙は絶対にオンラインにすべきですね。いままでずっと投票率を上げようとやってきましたが、いまの仕組みだと絶対に無理です。なぜなら、僕らの思いは政治に届かないことがわかっているからです。

僕らが人にどう影響するか感じられるようになれば、良いことが起きるだろうし、良いことにしなくちゃいけないと思います。

――ありがとうございました。(取材日5月21日)

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。