韓国政府は1月12日、いわゆる元徴用工問題をめぐる公開討論会を開き、韓国最高裁が日本企業に命じた賠償金の支払いを韓国の財団が肩代わりする新たな解決案を示した。だが、一部原告側が強く反発する場面もあり、会場は大荒れとなった。根強い反日感情が残る中、尹錫悦政権は本当に問題を解決できるのか。

BSフジLIVE「プライムニュース」では櫻井よしこ氏、黒田勝弘氏、李泳采(イ・ヨンチェ)氏をゲストに迎え議論した。

いわゆる元徴用工問題 韓国提案の「肩代わり」解決案は成り立つか

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長野美郷キャスター:
いわゆる元徴用工問題をめぐるこれまでの経緯。2018年、韓国最高裁が元徴用工への賠償を日本企業に命じる判決を出し、被告企業の新日鉄住金(現・日本製鉄)と三菱重工に賠償金が課せられた。2021年には韓国の地裁が両社の資産の売却を命令し、日韓関係が悪化。膠着状態が続く中、2022年以降の麻生自民党副総裁や岸田総理が尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領と会談。1月12日に韓国で公開討論会が開かれて以降、事態が動き始めたようにも見える。まず櫻井さん、会場が荒れる場面もあった公開討論会をどうご覧に。

櫻井よしこ 国家基本問題研究所理事長:
韓国の大統領が頼んでも日本政府は誠意を見せなかったと言っているが、そもそもの出発点は2018年の韓国の大法院の判決で、36年に渡る日本の統治が不法であったとする不法統治論が基本となっている。これは国際法や日韓の過去の経緯から考えても、とんでもない間違い。日本政府もそれに従えというが、原告の要求が全て却下されたのが我が国の法的な結論。日本と韓国の法秩序が真正面からぶつかっており、国の根幹にかかわる。尹政権は安全保障問題などに非常に積極的で、北朝鮮の手先のようだった文在寅(ムン・ジェイン)政権と全く違う点は評価する。だが、歴史問題ではやはり尹大統領も不法統治論に立っており、これは我が国としても国際的にも受け入れられない。

長野美郷キャスター:
公開討論会で提示された新しい解決案の枠組みは、いわゆる元徴用工訴訟の原告への賠償金の支払いを、韓国企業からの寄付を原資に政府傘下の財団が肩代わりするもの。

李泳采 恵泉女学園大学大学院教授:
結局、日本政府・企業には何も求めず韓国側が肩代わりするという、韓国が全部引き受ける内容になってしまった。韓国では、韓国政府が日本政府の代弁者として進めているイメージで受け止められている。日本企業が謝罪もしない、お金も出さない、韓国が勝手にしなさいとなると、韓国政府は国民を説得できるだろうか。また今回、強制徴用被害者支援団体が第三者として弁済するということだが、当事者はそれを認めない。日本が何もしないとなれば、まさにこの案は破綻するというイメージ。

韓国・公開討論会 朴鴻圭(パク・ホンギュ)高麗大学教授
韓国・公開討論会 朴鴻圭(パク・ホンギュ)高麗大学教授

黒田勝弘 産経新聞ソウル駐在客員論説委員:
今回、個々のアイデアについてそれぞれ具体的に報道があり、韓国世論では方向性についての予想がある程度ついていた。また今の雰囲気として、日韓関係がこのままでいいのかという非常に強い不安が世論にあり、積極的に日韓関係を改善しようとする尹大統領にいい反応がある。その中で政権が解決案を提示した。否定的な反応はそんなに強くない。韓国側からすれば画期的な決断。日本側からすれば過去の協定で解決済みというのが基本で、補償は韓国側が責任を持ってやるのが原則。今回、尹政権がそれに踏み切り、プラスアルファで何か日本もしてくれることはないですか、という構造になっている。これは高く評価すべきで、日本側も積極的に受けとめて歩調を合わせる必要がある。

李泳采 恵泉女学園大学大学院教授:
財団が払った後の日本企業の参加に関して強制力がなく、韓国政府は説得していくという言い方。ここで「併存的債務引受」という言葉を使っている。日本側の何らかの行動がない限り、この解決案は画期的にはならない。

櫻井よしこ 国家基本問題研究所理事長:
併存的というのは、日本企業が今でなくとも将来において入らなければならず、お金も出してくださいということ。日本の企業が自分たちに債務があると認めることになり、絶対に引き受けられない。債務はもう完全にない。

喫緊の安全保障問題と日韓併合以来の歴史認識問題は切り分け可能か

反町理キャスター:
この話の根っこは、日韓併合が法的に適切なものであったかどうか、適正なプロセスを経たかという議論になる。この議論は今、韓国の中でどういう状況にあるか。

黒田勝弘 産経新聞ソウル駐在客員論説委員:
韓国側の主流は、進歩史観、反日史観が圧倒的。韓国では、1910年の日韓併合条約をそれ自体「条約」と言ってはいけないらしい。だがこれが今、外交的課題になっているか。いわゆる元徴用工問題は端的に言えば外交問題。確かに根本的解決は併合条約の是非となるが、今必要なのは外交的な解決による日韓関係の改善。その際に100年前に戻ると話が進まない。

櫻井よしこ 国家基本問題研究所理事長
櫻井よしこ 国家基本問題研究所理事長

櫻井よしこ 国家基本問題研究所理事長:
そのご意見もわかるが、やはり不法統治論を言われてしまい、日韓併合条約について条約という言葉さえも使えないことは、近代的な法治国家ではあってはならない。当時の国際社会で、日韓併合条約は全部認められている。現在、日米韓の関係の中で緊密に情報交換をして協力しなければならないのはそのとおり。だが、国家間の法秩序の戦いを犠牲にして行うのは無理。日米韓の連携を進めながら、この問題は横に置いて別に考える必要がある。

反町理キャスター:
安保は安保、歴史は歴史と別で考えなければいけないと。一方、韓国側は歴史問題と安全保障問題の同時決着を目指しているのか。

黒田勝弘 産経新聞ソウル駐在客員論説委員:
今回の解決案含め、歴史認識問題が背景にある部分はチラチラ見える。だが日米韓協力体制の強化を固い意志で今推進しようとする中、その過程で歴史認識問題をできるだけ関与させたくないというのが尹大統領の考え。尹大統領はある意味では「脱反日」を模索している印象を持つ。我々にとってありがたい話で、何とか彼の思いを実現するようにしてあげたいと私は思う。

黒田勝弘 産経新聞ソウル駐在客員論説委員
黒田勝弘 産経新聞ソウル駐在客員論説委員

反町理キャスター:
李さん、尹大統領は脱反日だという見方については。

李泳采 恵泉女学園大学大学院教授:
尹大統領がどれほど日韓関係の歴史、問題の深さを知っているかは疑問。日韓関係の問題はいろんな形で解決できると言っているが、今回の討論会を見てもそんなに簡単ではない。支持率も約35%という中で実際にこの問題を解決できるか。

長野美郷キャスター:
公開討論会で示した新たな解決案について、韓国外務省当局者の発言。「国内世論もあり、被害者側の説得のためにも、呼応措置があればこそ韓国政府も解決策を発表できると日本側に伝えた」。呼応措置とは何を指すか。

李泳采 恵泉女学園大学大学院教授:
韓国に進出している日本企業からの募金。もうひとつはたぶん、徴用工問題に関して韓国が措置を取ると、日本が輸出規制措置を撤回して韓国をホワイトリストに入れるということも報道にある。だがそれは周縁的なことで、当事者たちはお金ではなく日本企業からの謝罪を訴えている。謝罪を受けるかどうかは別として、企業と当事者を会わせたいというのが韓国の一般世論だと思う。

反町理キャスター:
「謝罪を求めているが、当事者がそれを受けるかどうかわからない」? じゃあ、謝罪は誰が求めているのか。誰が求めているかもわからず、拒否するかもしれないという呼応措置に、日本側はたぶん乗れないですよ。

李泳采 恵泉女学園大学大学院教授:
今、企業と当事者が一回も会っていない。それさえできれば進むところがあるということ。尹政権は、その最小限のことを日本がすれば進めていく意思を持っている政権。

櫻井よしこ 国家基本問題研究所理事長:
何のために会わせるのかというと、企業から謝罪させること以外の大きな意味がない。結局、日本側に謝罪をさせることが大事だと言っている。それは必要ない。

政権交代で左翼政権成立の恐れも 尹大統領にどれだけ肩入れすべきか

長野美郷キャスター:
尹政権は脱反日を掲げているとか、いわゆる元徴用工問題の解決に動いているという話がある一方、次の政権が進歩派の政権になってしまうリスクも。岸田政権は現政権にどの程度肩入れをして、解決に向け足並みを揃えていくべきか。

黒田勝弘 産経新聞ソウル駐在客員論説委員:
次はどうなるかわからないが、今我々が懸念しているように、次に文在寅政権のような左翼政権が出ないように尹さんをバックアップすることではないか。尹大統領は歴史にこだわりたくないと言っており、懸案の解決についても歩調を合わせ、少しずつ処理解決していけばいい。

李泳采 恵泉女学園大学大学院教授
李泳采 恵泉女学園大学大学院教授

李泳采 恵泉女学園大学大学院教授:
日本が動くと追い風になるだろうが、動かないなら尹政権が孤立すると思う。2024年が総選挙だが、政権支持率が35%の尹さんが多数党になるのは難しい。だから今動きたい。日本の呼応が大事。もう一つは5月のG7。日米韓の新しい軍事協力にとても重要な時期で、そこに尹政権は入りたい。

櫻井よしこ 国家基本問題研究所理事長:
この前の大統領選でも、尹大統領は本当にわずかの差で勝った。韓国の世論は二分される中、次にまた左翼政権ができないという保証はない。私は脱反日を掲げる尹政権をとても前向きに捉えているが、日本国の国益をちゃんと守らなければいけない。私たちは慰安婦問題などで妥協して大変苦しい時期を過ごし、国益も損ねた。妥協すべきでないところは断じて妥協してはならない。

(BSフジLIVE「プライムニュース」1月19日放送)