地域の食を支えつづける市場(いちば)。年末年始に向けて一層活気づくが、今、ある市場をめぐって土地を所有する会社と店が真っ向から対立している。
永井商店 永井浩さん:
ある日、突然に「出て行ってくれたら、立ち退き料を払う」と…。
訴状には「建物を明け渡せ」と書かれていた。市民の台所を直撃する危機を取材した。
“耐震性に問題”で土地売却案 利用客も困惑
大阪市生野区にある「鶴橋鮮魚市場」。その歴史は1940年代、終戦直後の闇市から始まったとされている。
この記事の画像(29枚)遠方で獲れた新鮮な魚を大阪まで運ぶ「鮮魚列車」の運行により発展し、今日に至る。
鮮魚店を営んでいる永井浩さん(54)。父親の代から60年以上、この場所で商売を続けてきたという。しかし…。
永井商店 永井浩さん:
老朽化で退去してくれ、ということで。(話し合っても)きりがないから、「とりあえず一回出ていけ」と。「再建計画は出ていってから考える」と。
この建物を所有している会社の調査で、建築から60年以上がたち、耐震性に問題があるという結果が出たのだ。
永井商店 永井浩さん:
建て替えるという意見には、別に反対ではなかった。コンクリートの耐用年数はだいぶ過ぎているので、多少、雨漏りすることもある。
しかし、再建期間中の営業場所などをめぐって折り合いがつかず、建物会社は300万円を支払う代わりに、店舗側に立ち退くことを要求。立ち退いた後は、不動産業者に土地を売却するという計画だった。
店舗側も黙ってはいられない。
永井商店 永井浩さん:
鶴橋市場はどうなるんですか?僕らの生活もあるし、仕入れに来てくれるお客さんのニーズもあるし。「そういうことはどうなるんですか?」と言っても、(会社側は)そういうことも一切考えない。
永井商店 永井浩さん:
お客さんは、魚もあればマグロもあって、野菜もあって肉もあって、鶴橋に来たら全部仕入れられると。これがぼく一軒になって、個人商店、町の中の魚屋さん一軒になったら、どうしても集客力も弱くなるし、売り上げもダウンする。
市場の利用客は、この状況についてどう思っているのか。
男性客:
割烹料理屋をやっています。毎日来ています。40年以上、親父の代からここで仕入れやっているんで、なくなったら困る。
女性客:
私、おすし屋さんです。(市場がなくなったら)困る。
折り合いがつかないまま、2020年には建物会社側が裁判所に提訴。店舗側に立ち退きを求めたのだ。現在も法廷で争いが続いている。
売却価格が9億円から5億円に 「足元見られてる」店側怒り
そして、ここにきて、土地の売買を巡り大きな転機が…。
これはFNNが取材で独自に入手した資料だ。2022年11月、建物会社が送った臨時株主総会実施の案内。
議題は、「土地建物の売買契約について」となっている。
案内と共に送られてきたのは、売買契約書(案)。
そこには、大阪の不動産業者A社に9億円で売却するとある。しかし、その後には気になる一文が…。
「土地の引き渡しまでに店舗側との訴訟などが解決しない場合、4億1000万円を値引きして売却する」と記載されている。
解決のめどはたっていないため、実際には4億9000万円での売却案となっていたのだ。
永井商店 永井浩さん:
最初は「嘘かな」と。(売却価格は)かなり安いと思います。足元を見られているというか…。いろんな方が会社に「何で?」と聞きに行っても、かたくなに「もう遅いんや」とか「いまさら何言うてんねん」とかで断られる。(売る)理由が分からないので疑心暗鬼。
市場でマグロを扱う 藤田伸司さん(65):
みんなが損する。株主も配当も損する、店舗側も店がなくなる。将来、真っ暗けじゃないですか。
どういった経緯で、このような事態になったのか?建物会社の社長が、撮影しないことを条件に取材に応じた。
建物会社社長:
市場を再建する案を、当初は考えていた。しかし、店舗側は「再建中の代替地がないと応じられない」の一点張りだった。このあたりで、そんなまとまった土地はない。交渉の不調が続くうちに、会社の資金繰りが悪化して、売却を早く進めないと倒産してしまう危機に陥った。老朽化の問題は深刻で、会社としては営業をずっと続けてもらうわけにもいかない。
再建にも前向きなB社を探し出すが…社長「もういいですとは言えない」
この売却案を知った店舗側も対策を打った。
市場の土地を9億円で買い取ってくれて、再建にも前向きなB社を探し出してきたのだ。
値引きの条件などもなく、最終的には大手不動産会社が買い取るということで話がまとまっている。
永井商店 永井浩さん:
誰がどう比較しても、なんでこっち(の案)を取らないの?と思う。
こうした店舗側の売却案について、建物会社の社長は…。
建物会社社長:
4億9000万円で売りたいわけではない。けど、これまでの関係性などもあるし、「A社さん、高く買ってくれるところ見つかったんで、もういいです」とは言えません。株主総会では、A社の案を株主の皆さんに問いたいと思っている。不動産業者との変なつながりは絶対にない。
取材の最後に、社長は「立ち退きのお願いを店舗側にすることになったことは申し訳ない。力不足です」とも話した。
その後、2022年12月に開かれた臨時株主総会では、投票の結果、建物会社側の売却案は否決された。
70年以上続く市場の行く末はどうなるのか。今後、店舗側の提案した売却案について協議を行っていくという。
(「イット!」12月16日放送)