新型コロナウイルスの感染拡大で、私たちの生活、国や企業のかたちは大きく変わろうとしている。これは同時に、これまで放置されてきた東京への一極集中、政治の不透明な意思決定、ペーパレス化の遅れ、学校教育のIT活用の遅れなど、日本社会の様々な課題を浮き彫りにした。

連載企画「Withコロナで変わる国のかたちと新しい日常」の第16回は、コロナ禍に苦しんでいる外食産業だ。アフターコロナに向けて立ち上がる飲食店の取り組みを取材した。

4月の外食売り上げは最大の下げ幅

「先日、Zoomで農業生産者も含む飲食関係者30人くらいで会合をしました。小さいお店の経営者からは、『苦しくて5月末で限界だ』という話もありました」

WIRED CAFEなど、国内外で約100店舗の飲食店を手がけるカフェ・カンパニー株式会社代表取締役社長の楠本修二郎氏は、飲食店業界の現状をこう語った。

カフェ・カンパニーの楠本修二郎社長(5月12日、オンライン取材)

日本フードサービス協会によると、4月の外食全体の売り上げは前年同月比で約6割と、調査開始以来最大の下げ幅となった。緊急事態宣言による休業や時短営業で客数が大幅に減少したためで、なかでも居酒屋やパブは一桁台、ディナーレストランは16.0%、喫茶は27.6%と壊滅的な打撃を受けた。

アメリカの飲食店従業員の半分が失業

飲食店が壊滅的な状態なのは日本だけに留まらない。アメリカではロックダウンによって、4月の飲食店の売り上げが35年ぶりの低水準に落ち込んだ。コロナ禍が表面化していなかった2月に比べると、3兆5000億円の売り上げが吹き飛んだかたちで(アメリカ国勢調査局)、ロックダウン以来、職を失った飲食店従業員は600万人。つまり、アメリカの飲食店従業員の約半分が失業したことになる。

「日本はアメリカのロックダウンより長く休業要請を続けています。インバウンドも期待できない中、500万人の飲食店従事者のうち、一体どのくらいの人が職を失うのかと危惧しています」(楠本氏)

小さな飲食店には無理な助成金申請

政府は中小企業への支援策として、政策金融公庫などからの無利子無担保の融資や一律200万円の持続化給付金、雇用調整助成金を打ち出したほか、家賃補助についても検討中だ。しかし、雇用調整助成金は、小さな飲食店にとっては手続きの煩雑さが厚い壁となっている。

「確かに手厚い支援策ですが、雇用調整助成金については、小さな飲食店の仲間は『僕らには無理です』と申請を諦めています。彼らは1人で店を切り盛りしながら、提出書類の準備をしなければいけません。しかし申請の手続きが煩雑で、たとえば就業規則や雇用契約がないと、どんどん突き返される。私も経験がありますが、起業したばかりの時は、就業規則を作っていないところが多いのです」(楠本氏)

雇用調整助成金の申請は、5月22日時点で3万9185件、支給決定は1万9435件(厚労省速報値)。しかし、問い合わせや相談に対して窓口が対応しきれず、オンライン申請でトラブルも発生しているので、実際にはどれだけの人が助成金を求めているか、はっきりわからないのが現状だ。

「まるで行政は『諦めた人は仕方ない』という姿勢にさえ見えます。今は戦時に匹敵するといわれているのに、行政のオペレーションは平時のままです」(楠本氏)

さらに、持続化給付金についてもカフェ・カンパニーのような店舗を複数持つ中堅企業にとっては、まさに「焼け石に水」となっている。

Withコロナ時代のオンラインデモ

そこで、政府の支援に頼ることができないとして、楠本氏らを発起人に新しい動きが始まった。4月、飲食事業者の有志が集まり始動した「おいしいデモ」プロジェクトだ。

デモといっても屋外のデモ活動ではなく、SNSを活用して飲食店や食に関わる人々を応援するプロジェクトだ。「#おいしいデモ」のハッシュタグと、大好きな店の写真とエールをSNSにアップする。飲食店を守る政策提言のオンライン署名活動に参加する。さらには政策実現に努める政治家、官僚、自治体の人々を応援する。まさにwithコロナ時代のオンラインな取り組みだ。

「おいしいデモプロジェクト」

この狙いについて、楠本氏は「ちょっと可愛く、おいしくデモをやろうということですね」と語る。

「4月下旬に仲間と話している時、『あ、もうすぐメーデーじゃないか』と。今回のメーデーは外出自粛で何も動かないだろうから、オンラインでデモをやろうという話になりました」

「おいしいデモ」には東北の生産者も参加している。彼らは、「9年前の東日本大震災の際は僕らが助けてもらった。今回は感染被害の少ない僕らが皆を助けたい」と語っているという。

自粛明けが最も大変な時期になる

緊急事態宣言の全面解除を受け、東京都では午後8時までとなっていた飲食店の営業時間の短縮要請が、5月26日から午後10時までに延長された。楠本氏は次のように語る。

「午後10時まで営業時間が伸びることは大変喜ばしいことです。午後8時までの営業というのは、実質的に夜の営業を全く獲得できない基準となっていました。ただ、多くの飲食店にとって、午後10時の閉店では客単価が伸びなかったり、本来は2回転をしていた営業が不可能であったりします。一刻も早く、せめて午前0時までの営業を認めていただきたいと思っています」

さらに、楠本氏は「自粛明けが、実は飲食店にとって最も大変な時期だ」という。

「緊急事態宣言が解除されても、コロナの前に比べると売り上げはよくても8割程度だと思います。さらに家賃の問題もあります。緊急事態宣言の時は減免措置を認める大家さんもいましたが、解除されたら『営業はできているから支払ってほしい』となるでしょう。5月末に店を閉めるところも多いと思います」

提供:カフェ・カンパニー

アフターコロナこそ求められる場所

緊急事態宣言が解除されたからといっても、感染リスクがゼロになったわけではない。むしろ飲食店にとっては、これまで以上に感染予防に気を遣う日々となる。

カフェ・カンパニーでも、感染症対策について社内基準を独自に設けて、社内教育プログラムを急ピッチで進めているところだ。各店舗では、消毒液の設置と客へのアテンド、従業員の衛生管理プログラムの徹底、客席レイアウトの見直しや変更など、デベロッパーと連携し合いながら進めているという。

飲食店の一部は、コロナ禍でテイクアウトやデリバリーにも新たな活路を見出そうとしている。しかし、楠本氏は「人と人との出会いをつくってきたのが飲食店だ」という。

「その出会いが、文化や絆やクリエイティビティーを生み出してきました。街を元気にしてきた飲食店が日本にはいっぱいあるので、灯を消したくないと思います」

日本の食と文化を支えてきた外食産業。人の出会いや街の元気をつくる飲食店は、アフターコロナこそ人々から求められるはずだ。

「おいしいデモプロジェクト」

(サムネイル画像:カフェ・カンパニー提供)

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】