オードリー・ヘップバーンのコスプレ?
韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の妻、金建希(キム・ゴンヒ)氏の外遊先での行動が物議を醸している。
尹大統領は東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議とG20サミット(主要20カ国地域首脳会議)出席のため、11月11~16日、カンボジアとインドネシアを訪問した。妻の金建希氏も同行した。
表舞台に登場するたび、そのファッションから一挙手一投足に至るまで注目される金建希氏だが、今回も例外ではなかった。
中でも物議を醸したのが、金建希氏がカンボジアのプノンペンで心臓疾患を患っている14歳の少年の家を訪問したことだ。
11日にヘブロン病院を訪問した金建希氏は、同病院で過去に心臓手術を受けた少年が、健康状態が原因で病院の行事に参加できなかったことを知り、翌日の首脳配偶者日程への参加を取消して少年の自宅を訪問したという。
日程は非公開で取材陣は同行せず、大統領室が写真を公開した。

そこには金建希氏が少年を膝に乗せて話しかけたり、家族らの手を握って励ましたりする様子などが映し出されていた。

オンライン上では金建希氏が少年を抱いている姿が、1992年に飢餓に苦しむアフリカ東部ソマリアを訪れた女優のオードリー・ヘップバーンさんの写真に似ていると指摘された。ユニセフ親善大使を務めていたヘップバーンさんの写真は、ポロシャツにパンツ姿で栄養失調の子供を抱き、戸外に立っていた。

金建希氏は室内で座っている点は違うが、黒い半そでシャツに白いパンツ姿でヘプバーンさんに似ていると言えなくもない。

「オードリー・ヘプバーンのコスプレをした」
「カンボジアのためではなく、金建希氏自身のイメージを刷新するための行動」
野党「共に民主党」は金建希氏が首脳配偶者のためのプログラム、アンコールワット寺院の訪問をキャンセルしたことも問題視した。
さらに、野党議員が「キム氏の貧困ポルノ画報撮影が騒動になっている」と批判すると、与野党間の対立に火がついた。
「貧困ポルノ」とは、募金集めなどのため貧困や飢餓に苦しむ人々を刺激的に描写して、同情を呼び起こす映像や写真を意味する。
与党「国民の力」側は、「共に民主党は韓国政治史に類例のない『大統領夫人ストーキング』政党になった」「文在寅(ムン・ジェイン)前大統領の妻、金正淑(キム・ジョンスク)氏がすれば善行で、金建希がすれば惨事とはこじつけにも程がある」などと反発。
貧困ポルノ発言をした議員を国会倫理特別委員会に提訴する構えを見せるなど、攻防が激化している。
ジャクリーン・ケネディのコスプレ?
バイデン米大統領との記念撮影も槍玉にあげられた。
この写真は12日に開催されたカンボジア主催の晩餐会で、尹大統領夫妻とバイデン大統領が歓談した際に撮られたもので、両大統領はカンボジアの伝統衣装のシャツを着用、金建希氏は白地に黒い花模様のワンピースに黒いジャケット姿だった。

この時、金建希氏はバイデン大統領と腕を組んで写真撮影し親密度をアピールした。
この様子を与党側は「復元された米韓同盟の象徴」と評価したが、野党側は「外交的欠礼」と批判した。
さらには、カンボジアでの同胞懇談会で金建希氏が着たドレスが、ケネディ元大統領の妻ジャクリーン氏のファッションに似ていたとして、「ジャクリーンコスプレ」と噛みつくほどだ。

野党側がファッションまで問題視して金建希氏攻撃に力を注ぐのは、金建希氏を尹政権のアキレス腱と見ているためだ。
金建希氏をめぐっては、大統領選挙期間中から学歴詐称や論文盗作など疑惑が相次いで提起された。このため、野党支持層や中道層の一部には根強い反感がある。
野党側は「仕事はせず、外見だけを飾る」というフレームで金建希氏を批判し続けることで、否定的なイメージを定着させる狙いがある。
ファーストレディーとしての存在感
金建希氏への批判は注目度の裏返しとも言える。
様々なファッションを優雅に着こなし、海外の首脳配偶者の中でもその存在感は抜きんでている。
インドネシアのバリで開催されたG20首脳会議の配偶者プログラムでは、中国の習近平国家主席の妻、彭麗媛氏と並んで常に行事の中心だった。
最後の記念撮影でジョコ大統領の妻イリアナ氏の両隣を占めたのも彭麗媛氏と金建希氏だった。

インドネシア側関係者からは「インドネシア国民が金建希氏をとても気に入り、関心が高くて検索が多い」と伝えられたという。韓流ドラマはインドネシアでも人気で、人々は金建希氏を韓流スターと同様に歓迎したのだ。
金建希氏はこれまで尹大統領に同行する以外、単独での公開活動は極力控えてきた。自身に対する批判を意識して「静かな内助」に専念するとし、非公開での活動も社会的弱者への支援や、慰労に重点を置いている。
水害復旧現場やホームレスの施設で身分を明かさずにボランティア活動に取り組んだり、福祉保護を受けられずに死亡した人たちの葬儀に非公式に参列したりしてきた。そのほとんどが非公開で大統領室でも把握しておらず、後から明らかになったケースも多い。
金建希氏が政治的イメージアップを図ろうとしているかはともかく、海外での公式活動を政争の具にするのはいかがなものか。韓国の政治家は「貧困ポルノ」論争に明け暮れるより、まず韓国社会のひずみをただすことに注力すべきではないか。
【執筆:フジテレビ客員解説委員 鴨下ひろみ】