2013年12月に起こった「餃子の王将」の大東社長(当時)が銃殺された事件。

2022年10月28日、殺人などの疑いで、特定危険指定暴力団・工藤会系の組幹部、田中幸雄容疑者(56)が逮捕されるという、急展開を迎えた。

「9年後の急展開」の理由

京都府警の最重要課題といわれていたこの事件。直接的な証拠や有力情報が乏しく、捜査関係者は「厳しい、時間がかかる事件」としていた。

なぜ、9年たった今、事態が急展開を迎えたのか。その理由の1つに、田中容疑者とDNA型が一致した「たばこの吸い殻」についての、新たな鑑定結果がある。

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たばこの吸い殻は、大東さんが銃撃された現場から10メートルほど離れた場所で見つかった。事件から2年後の2015年にこの吸い殻から田中容疑者のDNAが検出され、田中容疑者が捜査線上に浮上したが、それだけでは第三者が現場に捨てた可能性を排除できなかった。

京都府警は事件当時、現場では雨が降っていて、路面がぬれていたことに注目。

吸い殻の状態について燃焼実験を行い、最近になって、「雨で路面がぬれていた現場で消されたたばこということで矛盾はない」との専門家の鑑定結果が得られた。その鑑定結果によって、警察は田中容疑者が事件に関与したという見方を強めた。

捜査関係者は、「新しい証拠が出てきたということではなく、客観的な状況証拠を積み重ねた結果だ」としている。

元・大阪地検検事「9年後の逮捕」を解説 

2013年12月に起こった今回の事件。現場に残された「たばこの吸い殻」から検出されたDNA型が、九州の暴力団関係者と一致したのは2015年。盗難オートバイからの火薬成分検出や、九州ナンバーの不審な車の存在など、証拠は積み重ねられていました。

事件から約9年を経ての逮捕について、元大阪地検検事の亀井正貴弁護士に詳しく解説してもらった。

(Q.これまでにさまざまな証拠があったにも関わらず、逮捕が今になったのはなぜなんでしょうか?)
元・大阪地検検事 亀井正貴弁護士:

これまでの証拠だけでは起訴は無理でした。たばこの吸い殻にしても、「そこにいた」というだけでは起訴は難しい。今回は、より精度の高い鑑定ができたんだと思います

(Q.田中容疑者が吸ったたばこだということは分かっていたけれど、他の人が現場に捨てた可能性も排除できないから、実験を行ったと?)
元・大阪地検検事 亀井正貴弁護士:

そうですね。当時の乾燥具合などの鑑定条件に加え、鑑定能力も高くなってきています。それらを踏まえて、「この時間帯に田中容疑者がいた可能性が高い」といった判断になったんだと思います

「そろった証拠」

複数の捜査関係者は、状況証拠の積み重ねで逮捕に踏み切ったことについて、「全員が首を縦に振ることはない」と話していて、捜査当局の中で逮捕に消極的な意見もあったということだ。しかし最近になって、逮捕に積極的な意見が強まったという。

亀井弁護士はその理由の1つ目を、「逮捕できる証拠がそろったから」と指摘した。

「工藤会のヒットマン」とされる田中容疑者。福岡・大手ゼネコン社員の車が2008年に銃撃された事件の実行役として、2018年に逮捕。現在は服役中だ。

(Q.この事件の捜査の中で、いろいろな情報が集まったということですか?)
元・大阪地検検事 亀井正貴弁護士:
はい。非常に手慣れた犯行なので、ヒットマンとしての役割、ヒットマンとしての行動パターン、凶器の入手関係、事件後の生活状況など、田中容疑者の属性情報というのがある程度入ってきたと考えられます

トップの死刑判決から弱体化した工藤会

逮捕に積極的な意見が強まった理由の2つ目として、亀井弁護士は「工藤会の弱体化」を挙げている。

工藤会は九州最大の暴力団で、福岡県内の勢力は370人。市民にも危害を加える恐れがあるとして、国内唯一の「特定危険指定暴力団」に指定されている。2021年、トップの野村被告に死刑、ナンバー2の田上被告に無期懲役の判決が出された。亀井弁護士はこのことから、「情報を漏らした関係者がいてもおかしくない」と指摘する。

(Q.工藤会から情報が出たということですか?)
元・大阪地検検事 亀井正貴弁護士:
以前、工藤会に所属していた元組員やその周辺の人なども、多少は話しやすい環境になっているはずです。昔の“鉄の結束”だったら、何も言えなかったと思います

自白はなくても大丈夫なのか?

服役していた福岡刑務所から、捜査本部のある京都府山科警察署へ移送される田中容疑者。
特定危険指定暴力団の幹部であることから、捜査関係者は「護送中に一般人が巻き込まれるような事件があってはならない」と、神経をとがらせている。

山科警察署へ到着後は、殺害された大東さんと容疑者の接点などについて、取り調べが行われることになりそうだ。

(Q.今後の捜査はどうなると考えられますか?)
元・大阪地検検事 亀井正貴弁護士:
大事なのは、これから行われる動機や共犯関係の解明です。これによって、この事案が解明されます。もしかしたら、動機解明に関わる関係者の供述は、一定程度得られているかもしれません。田中容疑者の自白はなかなか難しいと思いますが、依頼者と共犯者の間の人物やその周りの人から、動機に関係するつながりや共犯関係の話が得られる可能性もあります

(Q.本人からの自白はなくても大丈夫なんですか?)
元・大阪地検検事 亀井正貴弁護士:
状況証拠だけでも有罪を取れると判断して、逮捕に踏み切ったものと思われます

(関西テレビ「報道ランナー」2022年10月28日放送)

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