内閣府が5月18日に発表した2020年1~3月期のGDP=国内総生産は、実質年率でマイナス3・4%となり、2四半期連続のマイナスとなった。新型コロナウイルスによる外出自粛や休業要請の影響が出たかたちだが、景気が本格的に悪化するのはこれからだ。

一方、18日の日経平均株価は底堅く推移した。すでに株式市場は悪材料を織り込んだのか。マネックス証券のチーフ・ストラテジストである広木隆氏に、今後の市場動向を聞いた。

株式市場は悪材料を織り込み済み

マネックス証券チーフ・ストラテジストの広木隆氏
マネックス証券チーフ・ストラテジストの広木隆氏
この記事の画像(5枚)

ーーまず18日の株式市場ですが、GDPに大きく反応しませんでした。

広木隆氏​:
予想ほど悪くなかったのが理由の1つですが、そもそもこの1~3月期のGDPは、市場にとってそれほど重要ではありませんでした。次に4~6月期のGDPが出てきますが、こちらはマイナス20%という予想も出ているくらいで、今回の比ではありません。日本経済が悪化し始めたのは3月頃からで、緊急事態宣言後の4~5月のほうが厳しい状況ですから、これからもっと深い谷がくるわけです。

ーー4~6月期のGDPまで市場は様子見ですか。

広木隆氏​:
ただ、4~6月期が仮に悪い数字が出てもそちらにも反応しないと思うのです。というのは、市場では3月に底なし沼のような大暴落をやったわけです。つまり市場は、これから出てくる経済指標を既に織り込み済みだと思います。例えば先日、アメリカで4月の雇用統計が発表されましたが、失業者が1ヵ月で2000万人という信じられない数字だったのにもかかわらず、これも市場の予想の範囲内で全く反応しなかったばかりか、逆にダウ平均は450ドルも上がったのです。

市場はV字回復を信じている

ーーこれまでの経済指標はすでに織り込んでいるとするならば、市場はいま何に注目しているのでしょうか?

広木隆氏​:
次はここから先を読むことになります。アメリカは4~6月期のGDPがマイナス40%という予想もありますが、市場は「悪いのは一時的」、つまり「V字回復をする」と思っているんですよね。マスコミに出てくる市場関係者は、ここから景気が回復するのに3年かかるなど悲観的な発言をしていますが、市場はそう思っていません。だからこれだけ株価が回復しているのですね。

ーー市場はV字回復を予想しているのですね。

広木隆氏​:
今回は普通の景気循環と違っていて、供給ショックだと思うのです。需要は無くなったのではなく、あるけれど抑えられている状態です。消費したくても、できないからしないだけ。供給側もロックダウンによって、店舗を開けて売りたくても売れない。従業員が出社できないから、モノを作りたくても作れない。すべてが強制的に止められています。

地震などの災害の場合は、生産設備が破壊されたり、サプライチェーンが分断されたりしますが、今回は単に止められているだけです。ですから、これが収束したら元に戻るのは早い。これを市場もわかっているから、一時的な経済指標の悪化には目をつぶり、V字回復を信じているのだろうと思います。

ロックダウンで人影が消えたNYの街
ロックダウンで人影が消えたNYの街

日本企業は「ノープレイ・ノーエラー」が幸い?

ーー確かにこれまでにない経済状況にあります。

広木隆氏​:
アメリカで2000万人が失業したといいますが、その約8割は一時解雇です。日本の一時帰休に近い。だから、収束すれば彼らは職場に戻ってくるわけで、これもV字回復を予想する根拠となっています。戦後のアメリカの景気後退は11回ありますが、すべてV字回復です。リーマンショックの時が一番長く、底に到達するのに1年半かかりました。しかし、これまで景気後退は平均11ヵ月と1年もありません。

今回は、政治が経済に思いっきりコミットしているので、景気後退は長引かない。金融緩和や財政出動で、ヘリコプターマネーでばらまいている。これでもかというくらいの経済対策を取っています。

ーーとはいえ日本では、これから倒産や失業の時代がやってくるという悲観論が広がっています。

広木隆氏​:
日本企業は、これまで内部留保として現金をため込んできました。これをずっと批判されてきたのですが、いま日本企業はこのおかげで、資金不安で欧米の企業が苦しむ中、持ちこたえています。「ノープレイ・ノーエラー(何もしなければミスしない)」が、逆に幸いしたってことですよね。だからと言って、日本経営が素晴らしいと開き直られるのも困るのですが。

今回はリーマンショック時の金融危機と違って、我々の生活に直結する小売、外食、エンターテイメントなどが苦しんでいます。一方、大企業はそこまで傷んでいないので、株式市場自体への影響は大きくありません。

ただ最近、政府がさらなる企業支援を行うような報道が出ていますが、これをやりすぎるとモラルハザードが起こるので気を付けなければいけません。

ーー最後に今週の注目するべきスケジュールは何でしょう。

広木隆氏​:
22日に中国で全人代=全国人民代表大会が開幕されますね。ここで中国は「次なるメッセージ」を出すでしょうから、否応なしに政策期待が高まります。あとは、21日に残っている8都道府県の緊急事態宣言が解除されるかどうかですね。解除されれば、明るい材料として市場は捉えると思います。

ーーありがとうございました。

【聞き手:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。