あなたは「女性は優しい」「男性は賢い」など性別による固定観念を持っていないだろうか?そんな思い込みのことを「ジェンダーステレオタイプ」と言う。
ジェンダーステレオタイプのある子どもは、イメージに沿うよう普段の振る舞いや職業選択を行うようになり、その結果、ジェンダーギャップが維持される悪循環に陥ることが、様々な研究で指摘されているという。
では、そんなジェンダーステレオタイプはいつ頃からはじまるのか?
京都大学や大阪大学の共同研究グループが調べたところ、「女性は優しい」という思い込みは4歳ごろから、「男性は賢い」という思い込みは7歳頃からみられることが明らかになった。
共同研究グループは、日本の4歳から7歳の子ども220人を集め、まず「賢い人」や「優しい人」の話を聞かせた。例えば「賢い人」の場合は次のような内容だ。
この会社ではたくさんの人が働いています。その中に、特別な人が一人います。この人は本当に本当に賢いんです。この人は、物事のやり方をすぐにわかって、誰よりも早く、誰よりも正しく答えを出してくれます。この人は本当に、本当に賢いのです。
そして話を聞いた子どもに、トイレにあるマークのような男女のピクトグラムを見せ、この賢い人はだれだと思うか選ばせた。
その結果、「女性は優しい」というステレオタイプは4歳ごろから、「男性は賢い」というステレオタイプは7歳ごろからみられた。
アメリカより遅かったのが意外
また、子どもの保護者のジェンダー意識が子どもに影響するかについても調査したが、こちらは無関係だったという。
今回の研究について京都大学の森口佑介准教授は「ジェンダーステレオタイプのルーツは幼児期や児童期にある可能性が示されました。」とのコメントを寄せている。
気になるのは親の意識と無関係なら、なぜ子どもは「女性=優しい」などというジェンダーステレオタイプを持つのかということだろう。そしてこの研究はこれからどう発展していくのか?
森口准教授に聞いた。
――子どものジェンダーステレオタイプを調べようと考えたきっかけは?
わが国は先進国の中でもジェンダーギャップが大きく、それが子どもの進路選択や職業選択に影響する可能性があると思ったためです。
これまで、経済格差などが子どもの将来に影響する可能性があり、私たちも研究してきましたが、ジェンダーおよびそれに付随するステレオタイプも子どもの将来に影響する可能性があると考えました。
早い時期からジェンダーステレオタイプが見られる場合、子育てや教育を通じて、必要に応じて対応する必要があると考えました。
――結果についてはどうなると予想していた?
アメリカの研究が既にあり、「男性=賢い」ステレオタイプは、6歳頃からみられると示されています。
日本はアメリカよりジェンダーギャップが大きいので、アメリカよりも早い時期に出ると予想してましたが、結果はアメリカより遅かったのが意外でした。
また、親の意思と関係があると考えていましたが、結果は関係がなく、これも予想外でした。
――4歳から研究対象にしたのはなぜ?
子どもに直接質問するので、3歳以下では難しいという事情がありました。
――4歳より前から「女性=優しい」と思ってる可能性はある?
ありえます。ただ、上記の通り、質問するというやり方だと難しいので、別の方法を考える必要があります。
「女性=優しい」「男性=賢い」と思い込む原因は?
――子どもが「女性=優しい」「男性=賢い」と思い込む原因はどう思う?
「女性=優しい」については、母親が優しいとか、保育園・幼稚園の先生が女性が多いので、先生が優しいとか、そういうことはあり得ると考えています。
「男性=賢い」は、たとえば、ノーベル賞を男性がとることが多いというニュースなど、文化的な影響もあると考えています。
また、7歳からジェンダーステレオタイプが見られたということは、小学校に入ってからということになるので、その点が関連している可能性があると考えています。
――今後はどんな研究をしていく?
どのように男女差が出てくるのかは今後の課題で、今回は結果が出なかったですが、親の影響、先生のかかわりの影響、友達同士の影響(男のくせに、女のくせになど)を調べたいです。
アメリカとの違いは、学校制度の違いやジェンダー教育の違いもあるので、そういう点から調べてみたいと思います。
――この研究はどんなことに役立てられる?
女性と男性が性別という意味で違うのは事実ですが、実際には女性の中でも色々な人がいますし、男性の中にも色々な人がいます。
「女性だから」「男性だから」のように一くくりにしてしまうのは、社会にとっても不利益ですし、子どもたちが自分の可能性を捨ててしまうことにもつながります。
たとえば、「男性=賢い」のようなステレオタイプをもってしまうと、女児が自分は女性だから賢くないと思い、勉強を避けるようになったりして、科学分野や教育分野の格差にもつながってくる可能性があります。
こういう点を検討して、社会に伝えていければと思います。
世界経済フォーラムが2022年に発表したジェンダーギャップ指数によると、日本は146カ国中116位と先進国の中で最低レベルだった。
ジェンダーステレオタイプはこのような男女間の不平等の一因だと考えられているという。子どもの頃から今回のような思い込みが始まっているならば、男女平等の社会の実現のために、さらなる研究に期待したい。