静岡県の天城路に、名物が戻ってきた。川端康成の名作の舞台を走る、先端が鼻のように突き出たボンネットバス「伊豆の踊子号」だ。製造から58年と還暦が近く、専門業者に修復を依頼していた。エアコンはなく床は木製で、レトロな雰囲気で旅情を楽しめる。
天城路観光で半世紀以上も活躍
円形のヘッドライトに、丸みを帯びたデザイン。オレンジや黄色の、どこか懐かしさを感じる色合い。ボンネットバスの「伊豆の踊子号」だ。

このバスは、伊東市の「東海自動車」が創業105周年の記念事業として整備。2022年8月、天城路に復活した。
東海自動車・金野祥治 社長(「祥」の偏は「示」):
やはり自然の中で、ボンネットバスを見たり乗ったりしていただきたい。そんな思いが強かった

1964年に製造され、1976年には天城路の観光客向けの路線バス「伊豆の踊子号」としてデビューした。出発式には多くの人が集まって祝福し、全国的なボンネットバスブームの火付け役として、半世紀以上にわたり活躍してきた。
しかし…。

東海自動車・金野 社長:
ボンネットバスは日本でも数少なくなっています。我々としては、もっとこのボンネットバスを活用したい、乗っていただきたい。そのためにはやはり修復・修理をして、安全・安心に乗っていただくことが重要だと思いまして

製造から58年。間もなく還暦を迎える車体は、屋根や乗降口、窓などにさびが出ていて、運行できる状態ではなかった。
ひどい箇所は“ミルフィーユ状”に穴が…老朽化した車体を専門業者が修理
2022年2月、バスは、伊豆から約170km離れた愛知県豊田市の工場にあった。還暦近い車体の修復には、専門業者の知識と技術が必要だった。

新明工業・野村久司リーダー:
一番ひどいのは、乗り込み口の横。今はきれいになったが、このあたりは本当にひどくて、穴の開いた状態になっていました。
一番最初に見た時はお菓子で言うと「ミルフィーユ」のような状態で、何層にもサビと塗装と鉄板が重なった感じで、バックリ(穴が)開いていました

ドアや窓・金具やエンブレムなど、外せる部品はすべて外し、窓は一枚一枚を手作業で丁寧に修復していった。破損し、なくなった部品は新しく作るこだわりようだ。

新明工業・野村久司リーダー:
(このレバーは)当時どのような形をしていたのかよく分からないけど、今までやってきた経験の中から「おそらく、こんな形だろう」ということで、レバーを作りました

2022年2月から、約半年間にわたり行われた整備作業。さびて空いた穴をふさぎ、小さな部品を磨き上げ、車体も全面的に塗り直した。
生まれ変わった「伊豆の踊子号」 観光関係者も期待
2022年7月。半年間の整備が終わり、生まれ変わった「伊豆の踊子号」が披露された。

東海自動車 金野 社長:
今回はいろいろありがとうございました
新明工業 野村リーダー:
こちらこそ、ありがとうございました。新明工業の野村と申します
東海自動車 金野 社長:
すごくきれいに直していただいて、本当にありがとうございます
生まれ変わった踊子号に、観光関係者も期待を寄せている。

伊豆市観光協会天城支部・堀江昭二 支部長:
天城は坂が多いので(修理前は)なかなか使いにくかった。今度はこれだけ整備をしてくれてあるので、十分(観光に)使えると思います。大変期待しています
県東部地域局 伊豆観光局・柳川典之 局長:
このようなフォルムで残っているということは大変な財産だと思います。これを起爆剤に、ぜひ多くの人に伊豆に来てもらいたいなと思っております
復活ツアーは予約順調!エアコンなしの還暦バス 風や振動を感じて

8月6日、整備後に初めて運行したのは、修善寺駅を出発し旧天城トンネルを目指すツアーだ。「伊豆の踊子号」が天城路に復活した。
ツアー参加者:
やはり川端康成の「伊豆の踊子」というイメージが大きいですね。バスも昔懐かしいので乗ってみたいなと思いました

別の参加者:
(伊豆の踊子号を)見たことはあったけど実際に乗ったことはなかったので、おもしろそうだと。懐かしい思いもあり、乗ってみたいと思った
東海バス ガイド・間部礼香さん:
予約が早い段階から埋まり始めていたので、皆さん 楽しみにしていたんだなという印象がありますね

エアコンはなく窓は全開で、サスペンションは固く、路面の振動が直接 体に伝わる。

バスガイド:
皆様、本日こちらのボンネットバスは、リニューアルしてから初めてお客様を乗せての運行になります。ご参加いただきまして、誠にありがとうございます。こちらのバスは1964年式で、もう還暦近いバスになっております
製造からまもなく60年。
振動が伝わる乗り心地だが、参加者はそれぞれの思いでツアーを楽しんだ。

ツアー参加者:
(振動で)砂利の感触を味わえて、逆に楽しい感じですね
別の参加者:
ちょっと(車内は)狭かったけど、昔のバスに乗れてよかった

別の参加者:
すごく楽しかったですね、感激しました。このバスの雰囲気、それに崖のところはすごくスリルがありました
東海自動車・金野 社長:
末永く、大事に使いながら直していきたい。そして多くの方に楽しんでいただきたい。
やはり博物館に置いておく物ではありませんので、ぜひこの軽やかなエンジンの音も含めて、楽しんでいただきたいと思います

天城路に復活した「伊豆の踊子号」。
新たなツアーも検討中だという。レトロブームが到来する中、再び注目が集まりそうだ。
(テレビ静岡)