広島のソウルフード・お好み焼きをめぐって、メーカーと生産者の間で新しいSDGsの取り組みが始まっている。
プラスチック容器は”水滴”が課題
広島の戦後復興で庶民に広まったお好み焼き。2016年のお好み焼き店舗数は、県内で約1600店。今では、広島に欠かせない食文化になった。
コロナ禍で宅配需要が増え、自宅で店の味を楽しむ人が多くなる中、宅配や持ち帰りに使われる”容器”もSDGsの流れとともに変わろうとしている。
この日、お好み焼きソースの老舗・オタフクソースを県内のある企業が訪ねた。これまでにないお好み焼き容器を制作中で、お好み焼きのスペシャリストに意見を聞きにきたのだ。
オタフクソース お好み焼館・新本顕三 館長:
お好み焼き容器の最大の問題点は「水滴をどうやって防止するか」です。広島のお好み焼きはキャベツをたっぷり使うので、水分量が多くなります。その水分が容器のふたに付いて水滴になり、お好み焼きがベチャベチャになってしまう…というのが、お好み焼き店の皆さんが困っている課題です
容器にたまる水滴が、お好み焼きの味や食感を変えてしまう。従来のプラスチック容器は乗り越えられない課題を抱えていた。
その課題を解決する新たなお好み焼き容器を作りたい…それには理由があった。
環境にやさしい「バガス」とは?新容器でプラスチックごみ削減へ
広島市中区にある株式会社シンギ。創業90年、さまざまな食品容器を扱う企業だ。
SDGsという言葉が浸透する前から、環境に配慮した商品にも力を注いできた。燃えるごみとして出せるカトラリーなど種類も多彩。
シンギ 広報室・河村伸枝さん:
プラスチックの主原料である化石燃料は限りがあると、前々から言われていました。いずれ、今のように皆さんがSDGsを意識するような時代がやってくると感じておりましたので、いち早く環境へ配慮した商品に着手しました
環境を意識して15年以上のシンギが今、力を注いでいる商品が「バガスモールド」。
シンギ 広報室・河村伸枝さん:
「バガス」とは、サトウキビの搾りかすを原料にした素材です。イメージは「紙すき」に近く、植物の繊維を押し固めて作る容器です。可燃物として処理できるので、分別の手間をかけずに捨てることができます
”廃棄されてきたサトウキビの搾りかす”を活用したバガスモールド。そのお好み焼き容器の制作に取りかかっていた。海外生産で、製造方法は企業秘密だという。
環境に配慮したお好み焼き容器として”紙の容器”も出てきている。
しかし、お好み焼き本来の丸さを生かすものはまだないのが実情。
シンギの調査によると、県内でお好み焼きに使用されるプラスチック容器は年間約240万食分。これを紙やバガスモールドに代えると、年間64.8トンのプラスチックごみ削減につながると試算している。
シンギ 広報室・河村伸枝さん:
プラスチックの方が便利で価格的にも求めやすいという理由で、なかなか市場の理解を得られませんでした。
しかし、昨今のSDGsの機運の高まりもありまして、バガスモールドをより一層広げていくためのきっかけになるような容器が作れないかと。われわれ広島の企業としては、お好み焼きの容器じゃないかと考えました
”吸湿性や強度”にお好み焼き店の反応上々
2022年7月、お好み焼き業界のイベントが開かれた。そこへシンギはブースを出店。
お好み焼き容器の試作品ができて初めての営業活動である。アドバイスをした「お好み焼館」の新本館長も満足の仕上がりに容器は進化していた。
オタフクソース お好み焼館・新本顕三 館長:
非常にうれしく思っています。「肉玉そば」などお好み焼きの種類を、容器に直接マジックで書けるようにでこぼこをなくしたり、改良されています。
プラスチック容器だとふたの強度が弱いので、注文数が多い場合に容器をいくつも重ねられないという課題がありました。
しかしこの容器なら、ちょうどいい強度を保ちながら余分な水分も吸ってくれます。まさに未来のお好み焼き容器だと確信しています
シンギのブースには、容器に関心を持ったお好み焼き店の店主などが次々に訪れる。反応は上々だが、気になるのは…やはりコストの問題。
来場したお好み焼き店の店主:
高いですか?
シンギ 広報室・河村伸枝さん:
海外で生産しているので、為替が高くて…
「これでどれぐらいするん?」
「今は60円から65円ぐらいです」
「若干、容器代が高くなる…」
プラスチックより値段が高くなる上、海外生産のため円安のあおりも大きく受けている。
シンギの河村さんは「環境に対して自分たちができることを一緒にやっていきましょうと、そういった取り組みを、お好み焼き店の方にお伝えできればと思っています」と話す。持続可能な社会のために未来を見据えた投資を…熱心な営業が続いた。
「後々の時代のために…」容器代を値上げしても理想のお好み焼きへ
そして10月。バガスモールドのお好み焼き容器の販売が本格的にスタートした。すでに導入を決めた店がある。県内に5店舗を構える「電光石火」。
全店舗で11月からこの容器に変更することを決断した。決め手になったは、環境への配慮と機能性だ。
電光石火・田中匡 副社長:
かなり画期的ですね。この容器はとても熱に強い。鉄板の上に直接置いても大丈夫なので、僕たちの作業効率がものすごく上がって楽になります。環境面だけでなく、そういった面もメリットだと思います
容器代はお客に負担してもらうことに。苦渋の決断で、最初は現場からの反対も少なくなかったという。
田中副社長は「今だけの話ではなく、先をしっかり見据えて、自分たちにできることは何か…そこがぶれないように話し合いを進めた結果、環境にやさしいことを念頭に置いて導入を決めました」と話す。
また、この容器で全国への販路拡大を目指す店も。竹原市で創業50年のお好み焼き店「御幸」。
親子2代で営むこの店は、コロナ禍の挑戦で始めた冷凍販売にこの容器を利用しようと導入。バガスモールドの容器は冷凍に対応するだけでなく、電子レンジにもそのまま使えることに驚いたという。
御幸・片山修司さん:
容器がいらない水分を吸収してくれるので、レンジにかけた時にふっくらと戻るようになりました。自分たちの理想の冷凍お好み焼きに、すごく近づいたと思います
店と変わらない味を家庭で食べてもらいたい…容器を値上げしてでも、大切なことを消費者と分かち合おうと考えたのだ。片山さんは「業界にとらわれず、後々の時代のためにも今できることをやっていきたい」と話す。
シンギ 広報室・河村伸枝さん:
ちょっとでも地球環境に貢献していければいいと思っています。欲を言えば、広島のどのお好み焼き屋さんにも、この容器があるのが理想です
持続可能な社会のために、メーカー・生産者・消費者の意識改革を促す新しい容器の誕生。お好み焼き業界の常識を変えていけるのか、挑戦が始まった。
(テレビ新広島)