コロナ禍の影響もあり、オンライン会議は今や多くの人が利用していることだろう。
その際に“ビデオON”にしているだろうか。「ネット環境が悪い」「テレワークで自宅を映したくない」などの理由があるかもしれないが、なんとなく“ビデオOFF”にしている人も多いかもしれない。

そんな中で一般社団法人オンラインコミュニケーション協会が、「“ビデオOFF”だと会議時間が延び、意思決定の質も低下する」という調査結果を発表した。

(画像はイメージ)
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同協会は、対面では無意識的に視覚から得られる表情や仕草などの情報が、ビデオOFFで不足する影響を考察するため、オンライン会議ツールのZoomを使い、18~22歳の男女からなる4人ずつの14グループで検証を実施。

それぞれのグループには、「宇宙船が壊れて月面に取り残されたら、どんなアイテムを選んで生き残るか」を考え、対話で意見をまとめるゲームに取り組んでもらい、こうして出た答えを模範解答と比較し、ズレが少ないほど高いスコアを付けた。

左:ビデオOFF、右:ビデオON(実際の実験ではぼかしは入っていない)
左:ビデオOFF、右:ビデオON(実際の実験ではぼかしは入っていない)

なお同協会は、これまで多くの研究で、年齢・性別などが多様なグループは互いに異なる意見を持ちやすくなることが分かっていて、意見が衝突した際は、対立を恐れず協力して全員が納得できるようなアイデアを生み出すことが望ましいとしている。

年齢の多様性が高くても「ビデオOFF」では意見衝突を回避する傾向

しかし検証では、年齢の多様性が高いグループでも、「ビデオOFF」の場合は意見の衝突を回避する傾向が強まり、スコアも悪化した。

(出典:一般社団法人オンラインコミュニケーション協会)
(出典:一般社団法人オンラインコミュニケーション協会)

一方、性別が多様なグループで「ビデオOFF」の場合は合意するまでに多くの時間がかかり、しかし議論は洗練されず、スコアが悪化する結果となった。

(出典:一般社団法人オンラインコミュニケーション協会)
(出典:一般社団法人オンラインコミュニケーション協会)

これに対し、年齢の多様性が高いグループが「ビデオON」で話し合うと、衝突に向き合う傾向が強まり、居心地の良さや信頼の高さが向上していることが今回の検証で確認された。

(出典:一般社団法人オンラインコミュニケーション協会)
(出典:一般社団法人オンラインコミュニケーション協会)

以上の結果を受けて同協会は次のように述べている。

もしビデオをOFFにしても会議の運営や進行に支障が生じていないならば、その会社で行われている会議は、創造性の発揮を目的としたものではなく、全員参加が必須だから参加しているだけの形骸化した「会議」となっている可能性があります。

ネット回線の状態や会議スペースの関係でやむなく「ビデオOFF」にしなければならない場合もあるが、クリエイティブが求められる場面では「ビデオON」にしたほうが良い結果が得られそうだ。

顔出し参加の呼びかけ方は?

だが、プライバシーにも配慮しなければならない昨今、どうやって「ビデオON」を呼びかければいいのだろう?また、意見が対立しても居心地をよく感じるのはなぜなのか?

オンラインコミュニケーション協会代表理事の初谷純さんに聞いてみた。


――意見が対立しても「居心地がいい」のはナゼ?

ここで言う”意見の対立”とは、相手と異なる意見を自由に発言できる、ぶつけ合えるという意味です。”意見の対立”と聞くと、激しく口論しているという印象を持たれるかもしれませんが、そうではありません。

人は自分のアイデアや想い、意見を自由に言える、相手に聞いてもらえることで、居心地が良いと感じます。また、自分の言葉を聞いてくれる相手に対して信頼感を感じます。どこかで聞いたことあるフレーズですが、「言いたいことも言えないこんな世の中じゃ…」という感じです。


――意思決定が必要なときは「ビデオON」にした方がいい?

もしそのミーティングに集まるメンバーの多様性や、創造性を活かしたいという事であれば、「ビデオON」にした方が望ましい結果が出る可能性は高いです。「多様性も創造性も、ウチの組織には必要ありません」という場合は、意思決定であろうと、アイデア出しであろうと、「ビデオOFF」にしていても影響はないでしょう。

多様性や意見対立を軽視、さらには邪魔なものと見なすような組織であれば、必ずしもビデオをONにする必要はなく、ビデオOFFでも大きな問題は生じません。


――プライバシーの問題がある中で、どう顔出し参加を呼びかければいい?

我々もこの問題は非常にセンシティブだと捉えています。アプローチとしては以下のステップが考えられます。

・まずどれくらいの期間、参加者のうちどれくらいの割合のメンバーが「ビデオOFF」にしてきたかを確認します。
(ビデオOFFの期間が長ければ長いほど、メンバーの割合が高ければ高いほど、変えてもらうのが難しい)

・なぜ「ビデオOFF」にしているのか原因を突き止めます。
ネットワーク環境が影響しているのならば、そちらを改善しなければ「ビデオON」にしたくてもできないですし、ただ何となくOFFにしている人と、プライバシーに敏感でOFFにしている人では、アプローチも変わってきます。

・会社、組織全体として「ビデオON」推奨の案内を出すという場合は、メールや文面での連絡でもいいですが、マネージャーやリーダー個人から、メンバーに案内を出す場合は、できれば口頭で伝えるのが良いと思います。
文面だと微妙なニュアンスや、相手の反応が見えないので、誤解を生んだり、場合によってはパワハラ等大きな問題につながりかねません。

・ビデオONをお願いする場合は、理由をしっかりと説明することも重要です。
例えば、今回の調査データを持ち出して、「先日こんな調査データを見つけたんだ。ビデオONの方が会議の時間短くなって、良い結論も出やすいらしいから、次回の会議は一度ビデオONでやってみよう」といった形で、メンバーが納得できる理由を示してあげると良いでしょう。

・それでも、長期間ビデオOFFのスタイルが染みついている組織や人を変えるのはなかなか困難です。
そんな場合に有効なのは、オンライン会議のファシリテーション術を勉強しながら、ビデオOFFの影響についても同時に学ぶというスタイルです。また、一人が知るのではなく、組織全体で同時に学ぶということも、大切だと考えています。

(画像はイメージ)
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会社でのオンライン会議の「ビデオON」率はいかがだろうか? 筆者は、ほとんどの人が音声のみの会議に出たときは「向こうも映してないからいいか」と自分も「ビデオOFF」にすることが多かった。
しかし自分にとって大事な会議には、時間と質を考えると顔出しで参加したほうがよさそうだ。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。