新型コロナの影響を大きく受けてきた百貨店だが、生き残りをかけ、さまざまな手を打ち出している。
そんな中、老舗・髙島屋ではタブーを覆して、ある試みに挑む若手社員がいる。
部署や男女の“垣根”を壊して、時代の波をつかもうとする姿を追いかけた。

老舗百貨店の新たな“挑戦” 正面玄関入ると「メンズコスメ」

大阪・ミナミの地に立つ老舗百貨店・髙島屋。
正面玄関をくぐると、目の前に現れるのは、期間限定でオープンしている“メンズコスメ”コーナーだ。

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フロアでひと際異彩を放っているが、実はこれこそ、髙島屋が社内公募で選び抜いた、“次の時代のため”のチャレンジ事業なのだ。
その発起人が、袁正記さん(33)。

髙島屋大阪店 袁正記さん:
さっきも結構言われて。「こんなん髙島屋さんでやっていいんですね」って

それは、歴史ある百貨店で働く袁さんたちにとって、意義深い、大きな挑戦を経た一歩だった。

チャレンジ企画に賛同して集まったのは…違う売り場の「若き世代」

今回のチャレンジ事業“メンズコスメ”コーナーが出来上がる約1カ月前。
ここは、きらびやかな百貨店の裏側だ。会議室では、「みんな来てくれるかな…」と袁さんが不安そうにしていた。

すると…会議室に続々と集まってきたのは、それぞれ違う売り場で働く社員たち。
袁さんの企画に賛同した仲間が、接客の合間をぬってやってきた。

髙島屋大阪店 袁正記さん:
自分の世代の友達が百貨店に来ていないな、これ大変なことやなと

髙島屋の客層を広げたい。
その思いで目を付けたのが、男性向けの化粧品“メンズコスメ”だ。

実は、日々さまざまなコスメを使いこなしている袁さん。爪の先までピカピカ!

メンズコスメ市場は、リモート会議で自分の顔を見る機会が増えたこともあり、急拡大がみられている。
ただもちろん、コスメ全体をみればまだまだ小さな規模。
それでも「本当は一歩踏み出したい男性がもっといるはず」だと、袁さんは訴える。

髙島屋大阪店 袁正記さん:
男性にも堂々と買える環境を作りたいなと思っております

時代の変化を捉えた提案。
それが、「いまの髙島屋に必要だ」と評価された点だった。

髙島屋大阪店 伊藤桂 副店長:
今までは百貨店というのは、多くのお客様に受け入れてもらえるものをお届けするというのがまずは中心だったんですけれど、たくさんの人じゃないんだけれど、本当に好きなお客さまが何回も繰り返し来ていただけるということであったり、この人から買いたいというような、買い方がすごく多様化しているんですね

だからこそ、初めて扱う商品にも臆せずトライアルをしたいと考えているのだ。

愛用者も初心者も…性別にこだわらず“タブー”乗り越え「勉強会」

社員たちも、コスメ愛用者もいれば、初心者もいる。
性別にこだわらず、コスメ販売の経験が豊富な女性にも協力を仰いだ。
まずはみんなで、コスメの勉強会。コスメを手に取りながら口々に話し合う。

社員たち:
コレめっちゃいいよな、化粧水

社員たち:
どの化粧水使ったらいいか分からん…

社員たち:
じゃあこれ、持って帰って試してみて

一人の男性社員が、眉毛ペンシルを持って描いていた。

社員たち:
全然違いますよ、眉を書いた左側

社員たち:
目力出ますよね

社員たち:
確かにちょっと違うかも

チームの仲間の前のめりな姿勢に、袁さん、うれしそうだ。

髙島屋大阪店 袁正記さん:
こう興味を持ってくれているってことは、お客さまも同じかなって思ってきて。自信にはなりました

髙島屋大阪店 袁正記さん:
シフト2日間やったら足りない?応援もっと来たい?

男性社員:
もっと入りたかったです。でも売り場の方が許してくれないんで

参加を決めた社員はみんな、担当外の商品の販売に協力することになる。
自分の売り場に責任を持って向き合っている百貨店の社員にとって、これは“タブー”ともいえる感覚。想像以上に違和感があるのだそう。

しかし今、髙島屋全館で一致団結しなければという意識が加速している。

髙島屋大阪店 袁正記さん:
男性女性関係なく、ボーダーレスに行きたいというのと一緒の考えで、職場もなるべくボーダレスにすると、そこから得られるもので次、自分の売り場に戻った時に何かに役立つんじゃないかなという思いも含めて、そういう企画を考えました

「肌きれいやな」が自信に “新たな客層”呼び込むには…続く打ち合わせ

そんな袁さんの普段の姿は、広報部員。
以前、は地元の人やお得意さまに向けた広報が主力だったが、SNSに力を入れ、幅広い層を呼び込もうと取り組んでいる。

その日々の活力を、袁さんは毎朝の身支度で生み出しているのだそう。

髙島屋大阪店 袁正記さん:
きょう「肌きれいやな」って言われたことが自分の自信につながったっていうか。学生時代はテニスばっかりしてましたね。そのときなんか、こんなんするとは思ってなかったですけどね。「モテたいん?」みたいなんを結構聞かれるんですけど、いや、ちゃうちゃうちゃう、みたいな。「ちゃんと自分がしっかり仕事するためやで」って、いつも言い返してますけど

さて、この日はブースのデザインを決定すべく施行会社と打ち合わせ。
長年、髙島屋のイベントブースを支えている松田さんも、袁さんの目指す新しい客層の呼び込みに向け知恵を絞る。

施工会社エー・ティー・エー 松田知史さん:
普段だと絶対使わない文字の大きさを、袁さんは「OK、これでいきましょう」って言うのがすごいなと思って。でも、それはそうあるべきだと思うので、ぜひ一緒にいいものを作れたらなと思いますね

髙島屋大阪店 袁正記さん:
本当かな。本当に思ってくださるのかな(笑)

施工会社エー・ティー・エー 松田知史さん:
一緒にやっていて楽しいんですよ

“垣根”壊して「メンズコスメ企画」実現 生まれ変わる百貨店

迎えた当日。
袁さんはブースに商品を並べていた。緊張しているようだ。

袁さん、広報としての仕事もこなす。この日はテレビカメラが4台も集まった。

(Q.きょうはスカーフ巻かないんですか?)
髙島屋大阪店 袁正記さん:
忘れました(笑)もうバタバタしすぎて。「最悪!」と思って(笑)

メディアの注目も集める中、いよいよ開店だ。

平日の朝は、やはり女性客が圧倒的に多い様子だが…目を引く店頭デザインが、人々の足を止め始める。

髙島屋大阪店 袁正記さん:
めっちゃいい反応でした。「こういう売り場要るんやな」って、お客様おっしゃってました

順調な滑り出しを、副店長も見守る。

そんな中、待ち望んだ男性客が…。
店頭のポップを見て、気になっていた目元のクマを思い出したのだそう。

髙島屋大阪店 袁正記さん:
これ、僕も使っていて。気になるところ、クマにくるって塗って。反対がスポンジになっているので伸ばすことができて

袁さんの接客で、初めてのコンシーラー、お買い上げ。

髙島屋大阪店 袁正記さん:
最初は「奥さんに相談してみる」って言ってたんですけど、接客したら「じゃあ1回試してみよっかな」って買ってくれたんで良かった~!
こういう方が増えたらいいですよね。まさに狙ってた通り。
お客さまの考えていることの一歩先、先読みをして、それを我々百貨店が提案するということ。それは昔から変わらないんですけど、先輩方の培ってきたことを我々も学んで、こうやって挑戦していけたらいいかなと思っています

老舗百貨店から発信される、次の時代への提案。
“これまで”を大切にしながら、新たな挑戦は続く。

(カンテレ「報道ランナー」2022年8月26日放送)