“毒親”の一例として、暴言や暴力、過干渉によって子どもを支配し、自分の思い通りに人生を歩ませようとする親が挙げられる。

子どもを持つ人は、自分の言動を振り返り、「毒親かも…」と思ってしまうことがあるかもしれない。とはいえ、子どもを教育することは親の務めだ。

“教育”と“支配”は似て非なるものといえそうだが、明確な差はあるのだろうか。『子どもを攻撃せずにはいられない親』の著者である精神科医・片田珠美さんに、親が施す教育のあり方について聞いた。

「子どものためにもいい教育を」が“支配”のきっかけに

精神科医・片田珠美さん

「“教育”と“支配”は紙一重で、明確な線引きは難しいです。どんな教育にも支配的な要素があります。親が正しいと信じている価値観を子どもに教え込んでいくわけですから」

密接に結びついている“教育”と“支配”。片田医師曰く、「特に、親が『子どものためを思うからこそ、教育に力を入れる』と考えるのは問題」とのこと。

「『いい学校で教育を受け、いい会社に入ることが、子どものため』と考え、親が良しとする教育を押しつけることが、子どもを追い詰めているケースは少なくありません。抑圧された子どもは、ある程度成長してからひきこもりや摂食障害になったり、家庭内暴力や弱い者いじめなどの問題行動を起こしたりする恐れがあります。その怖さを認識してほしいです」

「子どものためにもいい教育を」という発想は、決して珍しいものではないだろう。だからこそ、誰もが“支配する親”になり得るという。

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「子どもを従わせようとする親の心の奥底には、支配したいという欲求が潜んでいます。なぜかというと、支配すると非常にラクだから。子どもが言うことを聞いてくれたらラクなので、『親の言うことを聞く子はいい子』というメッセージを送ってしまうのです。また、人は、誰かを支配することに快感を覚える動物。会社で鬱憤が溜まっていても上司や同僚にぶつけられず、支配できる相手が子どもしかいない場合、快感も相まって従わせようとしがちです」

支配欲求を抱いてしまう動機は、ほかにも考えられるそう。「利得」「自己愛」「攻撃者との同一視」という3つだ。

「『利得』とは、自慢できる学校や企業に子どもを入れたり、高収入の職業に就かせたりして、親がメリットを得ようとすること。『子どもへの投資を無駄にしたくない』という考えから、支配してしまいます。親の『自己愛』が強いと、子どもを利用して、自分が果たせなかった夢を実現しようと考えることもあります。漫画『巨人の星』の星一徹は典型的。プロ野球選手という夢を息子の飛雄馬に託して、スパルタ教育を行う姿は支配といえますよね」

3つ目の「攻撃者との同一視」は、自分が受けた屈辱的な体験と同じことを、子どもにもしてしまう防衛メカニズム。親から支配されて育った人が大人になると、子どもに自分の要求や願望を押しつけやすいとのこと。

“教育”という名の抑圧が、子どもの「復讐願望」を生み出す

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“教育”という名目で親に支配された子どもには、さまざまな影響が出るようだ。

暴言・暴力などで親に攻撃されると、子どもは「自分はダメな子だ」と感じて自己肯定感が低下し、承認欲求や愛情欲求は人一倍強くなることが多い。

親に認めてもらうために極端な“いい子”になり、親から経済的援助を求められると断れず、子ども自身が困窮するケースもあるようだ。

片田医師が先ほど述べたように、ひきこもりや摂食障害、心の病になってしまうこともあれば、家庭内暴力や弱い者いじめといった問題行動を起こすこともある。

「2019年6月、東京都練馬区の自宅で、農林水産省の元事務次官の父親が40代の長男を殺害する事件が起こりました。無職の長男は長年ひきこもり気味の生活を送っていて、両親に暴力をふるうこともあったそうです。とても気の毒な事件ですが、長男が生前に綴っていたTwitterの投稿を見ると、新たな事実が見えてきます」

長男は2017年に「私が勉強を頑張ったのは愚母に玩具を壊されたくなかったからだ」「愚母はエルガイムMK-Ⅱを壊した大罪人だ」とツイートしている。

「どうやら、長男が中学生の頃に実際にあったことのようです。“教育”という大義名分のもとに玩具を壊されたこと、大事なものを奪われたことに対する怒りは、親への復讐願望となって現れることがあります。この長男の場合、ひきこもりや家庭内暴力という形で現れたのではないでしょうか」

コロナ禍の今こそ「支配欲求」を自覚する必要がある

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子どもへの影響を考えれば、支配的な言動は避けたいところだが、まったく教育しないわけにもいかない。親はどのようなスタンスで、子どもに接していけばいいのだろうか。

「支配的な親は『子どものため』と考え、無自覚にプレッシャーをかけていることがほとんど。そうならないためには、親である自身の言動を振り返り、支配欲求を自覚する必要があります。そして、自分が絶対に正しいという思い込みを捨て、親と子どもは別人格だと認識しましょう」

子どもを自分の分身とみなすことは、非常に危険だという。たとえ親が成績優秀だったとしても、DNAを受け継いだ子どもが同じように育つとは限らないからだ。その子なりの適性があることを認め、子どもを尊重するべきだろう。

「親として、勉強に限らずいろいろなことを教えてあげてほしいです。服のたたみ方に炊事や掃除など、子どもの自立に必要なことを教え、子どもが興味を持っていることに触れさせてあげてほしいですね。長い目で見ると、それが子どものためになるのです」

そして、「コロナ禍にある今だからこそ、支配欲求を自覚することが重要」と、片田医師は話す。

「休業を余儀なくされたり、テレワークになったりしている今、親が新型コロナウイルスや社会に対して抱いている怒りが、子どもに向かってしまう場合があります。失業してうまくいかないせいで、子どもに過度に期待してしまうこともあるでしょう。支配欲求に拍車がかかりやすい状況なので、要注意です」

支配欲求を自覚するだけで、自分の言動を冷静に見直せるようになるとのこと。子どもの立場になって、考えてみることも大事だろう。

片田珠美
精神科医。大阪大学医学部卒業、京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。人間・環境学博士(京都大学)。パリ第八大学でラカン派の精神分析を学び、DEA(専門研究課程修了証書)取得。精神科医として臨床に携わり、その経験にもとづいて犯罪心理や心の病の構造を分析。著書に『子どもを攻撃せずにはいられない親』『他人を攻撃せずにはいられない人』など多数。

取材・文=有竹亮介(verb)