岸田首相の会見が変だった

8/22に官邸で行われた首相会見はちょっと変だった。夏休みにコロナ感染した岸田首相は20日に発症したがこの日は「少しセキは出るが平熱に戻った」ということで公邸で自宅療養しながらオンラインで職務に復帰。従って首相は現場におらず、大きなモニターに映っている。おかしいのはそのモニターの前のテーブルの上に録音用のICレコーダーがたくさん置いてあり、その周りを20人位の記者が立って取り囲んでいるのである。

22日に行われたオンライン会見
22日に行われたオンライン会見
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普通に考えると首相がオンラインなら記者もオンラインだろう。記者はマスクをしているがかなり密だ。モニターのスピーカーから出る首相の声をICレコーダーで拾うというのもすさまじくアナログだ。実に「日本的な光景」だった。コロナは社会のデジタル化への大きなきっかけになったが、日本社会ではデジタル化はなかなか進まない事を象徴する映像だった。この件はネット上で相当バカにされていたのだが、24日も同じスタイルで会見をしていたのはある意味スゴイと思った。

さて首相に話を戻すと夏休みからコロナ発症にかけてはこんな感じだった。

15日午後、夏休み入り。本屋で「同志少女よ、敵を撃て」など夏休み用の本を10冊購入。

16日。茨城で家族とゴルフ。

夏休みに就任後初めてのゴルフを楽しんだ岸田首相(16日)
夏休みに就任後初めてのゴルフを楽しんだ岸田首相(16日)

17日。家族と伊豆の温泉へ。2泊3日。

18日。蕎麦屋でランチ、三島大社参拝、大河ドラマ展示鑑賞。

19日。ドライブインで買い物、うなぎ屋でランチ。東京へ。

20日。コロナ発症。

コロナ感染って仮病かと思った

こうして日程を書いてみると、その辺によくいるやや裕福なサラリーマンのオヤジが取りそうなベタな夏休みだ。この夏休み中にどこかで感染したのだろう。実業家のホリエモン氏はTwitterに「なんか平均的日本人の典型的な事象すぎてほほえましくもある」と投稿している。でもこれは実はとても大事なことなのだ。

首相は感染の直前に4回目のワクチン接種をしているのでおそらくこのまま軽症で済む可能性が高い。内外に難問山積なので一日も早い快癒と復帰を願う。ということで敢えて書くと、僕は最初、首相の感染は仮病かと思った。あまりにもタイミングが良すぎるからだ。感染は夏休み中だったので官邸内の感染は考えなくていいし、国会は閉会中なので仕事はオンラインでできる。話が出来過ぎているのだ。

ようやくウィズコロナの時代に

そして政府は今日(8/24)、自治体の判断でコロナの全数検査をやめられるということを発表した。高齢者と基礎疾患がある人のみ調べる。ようやく現行の感染症法上の2類から5類への移行が始まったのかと思ったのだが、記者の質問を聞いていると、どうも全数検査の廃止に反対の人が多いようだった。政府や医療機関は「ウィズコロナ」に踏み出そうとしているのにメディアがストップをかけているのではないかという危惧を持った。日本は世界の先進国の中で唯一、事実上の「ゼロコロナ」政策を取ってきた。いいかげん「ウィズコロナ」に転換しなくてはいけない。

新型コロナ感染者の「全数把握」について、見直す方針をオンライン会見で表明した岸田首相(24日)
新型コロナ感染者の「全数把握」について、見直す方針をオンライン会見で表明した岸田首相(24日)

岸田首相の夏休みのコロナ感染はもちろん仮病ではないだろう。これは「家族と旅行に行きましょう。外食も観光もしましょう。スポーツだってやりましょう。もちろんコロナは感染力が強いから気をつけていても感染してしまいます。でもワクチンをきちんと打っていれば軽症で済むことがほとんどです」という岸田氏から国民へのメッセージではないか。岸田氏があえてリスクを冒して夏休みに旅行に行き、結果的にコロナ感染した。僕が思うに、これは岸田氏のカラダを張ったメッセージなのだ。

【執筆:フジテレビ 上席解説委員 平井文夫】

平井文夫
平井文夫

言わねばならぬことを言う。神は細部に宿る。
フジテレビ報道局上席解説委員。1959年長崎市生まれ。82年フジテレビ入社。ワシントン特派員、編集長、政治部長、専任局長、「新報道2001」キャスター等を経て現職。