3年ぶりに行動制限のない夏休みを迎え、富士登山を楽しむ人も増えている。しかし、疲労やケガで救助を要請する遭難事故が相次いでいる。そんな中、安全に楽しく、富士山の魅力を知ってほしいと奮闘する山小屋を取材した。

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行動制限のない夏…コロナ禍で奮闘する富士山の山小屋

富士登山における4つのルートのうち、最も難しいと言われている御殿場ルート。その7合目付近、標高3090mに山小屋「わらじ館」がある。

山小屋「わらじ館」(御殿場口7合4勺)
山小屋「わらじ館」(御殿場口7合4勺)

2022年8月1日、新型コロナウイルスの第7波が猛威を振るう中、館長を務める橋都彰夫(はじづめ・あきお)さん(64)は、徹底した感染対策に追われていた。

わらじ館・橋都彰夫 館長:
寝室のパーティション、食事のパーティション、寝袋のインナーシーツを毎日交換して、寝袋も除菌します

2021年の富士山の登山客は、開山した年としては最も少ない約7万9000人だった。2022年は回復しつつあるが、食事代や宿泊代で収益を賄う山小屋の経営は依然として厳しいという。

橋都さん「新規予約に比べキャンセルがちょっと多い感じ」
橋都さん「新規予約に比べキャンセルがちょっと多い感じ」

わらじ館・橋都彰夫 館長:
2021年は完全に赤字でしたね。2022年もここにきて感染者が増え、キャンセルと新規予約が拮抗しているような、ちょっとキャンセルのほうが多い感じがします

前年比大幅増の富士山の山岳遭難者

不安は新型コロナだけではない。

2022年の富士山での山岳遭難は、8月15日時点で33人。前年比で19人増えており、2倍以上となっている。

取材に訪れたこの日は、山小屋で宿泊予約をした親子の姿が、夕方になっても見当たらない。

宿泊予約者を待つ橋都さん
宿泊予約者を待つ橋都さん

山小屋スタッフ:
何もなければいいですけど、事故が続いてますからね

橋都さんがスマートフォンで確認すると…

わらじ館・橋都彰夫 館長
ああ…予約取り消しになってる

スタッフ「観光の山の宿命です」
スタッフ「観光の山の宿命です」

山小屋スタッフ:
キャンセル連絡がそもそもないんですよ。午後4時までにってホームページに記載してありますが、連絡がないので安否確認をせざるを得ない。これだけ事故が続いているので心配になります。観光の山の宿命ですね。普通の厳しい山だったら、午後2時~3時にチェックインが当たり前ですからね

新型コロナに収益の悪化、そして相次ぐ山岳遭難。心配事は尽きない。

標高日本一の高座を開催…元警察官の落語家が伝えたいこと

それでも橋都さんは、登山客には富士山の魅力を存分に感じてほしいと考えている。

標高日本一の高座
標高日本一の高座

この日 橋都さんは、元警察官で落語家・にか奴亭三助として活動する渡辺晃人さんを招き、日本一標高の高い高座「富士山de落語」を開催した。

実は橋都さんも元警察官で、2人はかつて寝食を共にした同期だ。

にか奴亭三助(渡辺晃人)さん:
これ短い、“粋な姉ちゃん”これは覚えてもらってもいいと思いますよ。
“お、姉ちゃん、粋だね? 帰りですけど…”

笑いを届けることはもちろん、元警察官として伝えたいことがあった。

渡辺さん「落ちるのは落語だけで」
渡辺さん「落ちるのは落語だけで」

にか奴亭三助(渡辺晃人)さん:
落語家っていうのは皆様を話で落とすのが仕事でございますが、決して落ちないように、落ちるのはここだけ。下りによく事故が多いので、特に下りは気を付けて、決して落ちることのないように。落語だけで結構ですから

素敵な夏の思い出にするために

わらじ館・橋都彰夫 館長:
ご来光に限らず、いろんなものを見て、お客さんが感動する顔を見るのが快感。山でのケガや、命を落とすのはあってはいけないことですが、可能性的には街よりすごく高いし、救急車はすぐには来られない。日程も余裕を持たないと、無理してケガしますから、安全に楽しく登ってもらってなんぼだなと

登山客の安心・安全を願い、夏の素敵な思い出を届けようと奔走する人たち。富士登山の危険性を認識し、十分な装備とゆとりのある日程で登ることが大切だ。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
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