東日本大震災で死者・行方不明者1000人以上の被害がでた岩手県釜石市の市長が、小学生に震災体験を伝える授業を行った。場所は、南海トラフ地震で大きな被害が予想される静岡県の小学校だ。
震災から10年以上が経過し、記憶の風化を懸念していた市長に授業を依頼したのは、防災教育に熱心な女性教師だった。

釜石市長が児童らに伝える“あの日”

大震災から2か月後の釜石市(2011年5月)
大震災から2か月後の釜石市(2011年5月)
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東日本大震災の2カ月後に撮影された、岩手県釜石市の映像には、津波によって多くの建物が壊れ、道路脇にはがれきが積み上げられている。釜石市では最大9.3mの津波が襲い、1000人以上が死亡・行方不明となった。

あれから11年。

リモート授業をする野田市長
リモート授業をする野田市長

釜石市・野田武則 市長
3月11日は釜石では議会中でした。議事堂で議員と意見交換をしている時に地震が起きて、津波がやってきた

野田市長の震災体験を聞く児童
野田市長の震災体験を聞く児童

7月5日、富士宮市立富丘小学校で行われた6年生の社会科の授業。「災害と政治」がテーマだ。釜石市の野田武則市長が、リモートで当時の様子を語った。

大震災から2か月後の釜石市(2011年5月)
大震災から2か月後の釜石市(2011年5月)

釜石市・野田武則 市長
たくさんの車が津波に流されたり、津波から逃れて走って逃げる多くの姿を見た。その時の気持ちは茫然自失。気を取り直してすぐに対策本部を設置した。市の職員を集めて今後の対策について協議をしたり、岩手県に状況を報告したり、自衛隊に援助をお願いするために電話をしたり

市長は災害対策本部を立ち上げ自衛隊に救助を要請したことや、学校などに避難所を設置したことなどを紹介し、子供たちに災害時に政治が果たす役割を伝えた。

富丘小の児童
私だったら指示をすることができないと思うので、とてもすごいと思った

別の児童
いろんな状況を把握しながらすばやい行動ができるところが、普通できることではないので、自分もできるようになれば良いと思った

いったん教職を離れ防災教育研究…スペシャリストが企画

震災授業を企画した中川教諭
震災授業を企画した中川教諭

授業を企画したのは、6年4組の担任教師・中川優芽さんだ。
中川さんは4年前、防災教育のスペシャリストを目指していったん教職を離れ、大学院で防災教育を研究しながら、2年間釜石市に移り住んだ経験を持つ。

市長に授業をお願いする中川教諭(2022年6月・釜石市)
市長に授業をお願いする中川教諭(2022年6月・釜石市)

6月18日、中川さんは釜石市役所を訪れ、野田市長と再会した。
持参した小学6年生の社会科の教科書には、被災した釜石市の状況や復興に向けた取り組みが8ページにわたって掲載されていた。
災害と政治の役割を考える授業をおこなうため、市長にリモートでの参加を依頼した。

富丘小・中川優芽 教諭
(震災を)学んだ上で、自分の命を守るための行動につながっていくような授業にできたら

野田市長は「震災の経験を伝えたい」と依頼を快諾した。

釜石市・野田武則 市長
釜石市・野田武則 市長

釜石市・野田武則 市長
災害にあった場合の対処の仕方について、少しでも伝えたいと思っていた。それを発信してくれる方の存在はすごく大事だと思っている

富丘小・中川優芽 教諭
現場の声を聞けるので、子供にも私にも良い授業になると思う

“復興かW杯か” 当時の市の課題を児童が議論

7月5日、富士宮市の富丘小学校で行われた授業では、復興についても考えた。児童らは、市長の話に続き、釜石市の職員で復興担当だった金野尚史さんの話にも耳を傾ける。

釜石市職員・金野尚史さん
今まで10年間で178回の復興まちづくり協議会と、9000人を超える市民が参加して議論をしてきた

市民の声を反映しながら復興を進めたと話す金野さん。授業では子供たちに、釜石市民の立場になって考える時間が設けられた。

テーマは「ラグビーW杯開催か、街の復興か」。
当時釜石市では、復興が道半ばの中で、2019年のラグビーW杯を開催すべきかどうかで揺れていたという。

富丘小の児童
みんなが期待しているのは街の復興だから、みんなで街の復興を進めて幸せになったらラグビーW杯をやれば良い

別の児童
ラグビーW杯をやって観客からお金を集めて復旧に使う

別の児童
でも開催にお金がかかるから、そのお金で街の復興をした方が早い

当時の釜石市の課題について話し合う児童
当時の釜石市の課題について話し合う児童

真剣に話し合う子供たち。
釜石市役所の金野さんは、釜石市がラグビーW杯の開催と復興を両立したことを説明し、市民とともに協議する大切さを伝えた。

釜石市・金野尚史さん
正解はない中で、住民と市役所と議員といろいろな議論をして答えを導き出すことが一番大切だと思う。みんなで答えを導き出すというプロセスが、復興の街づくりには一番大事だと、9年間振り返って思っています

巨大地震に備える防災教育 「公助・共助・自助」を組み合わせる大切さ

南海トラフの地震で、最大約4000棟の建物が全壊すると想定される富士宮市。

南海トラフ地震の被害イメージ
南海トラフ地震の被害イメージ

富丘小の児童
もし富士宮市がこうなった(大地震発生の)場合、自分がすぐに動けたり誰かを助けたりすることができればよい

別の児童
(地震は)いつどこで起きるかわからないので、いろんな訓練をしておきたい

担任の中川さんは、防災教育の大切さを改めて感じていた。

富丘小・中川優芽 教諭
市役所や県の「公助」だけでなく、共に人々で助け合っていく「共助」、自分の命は自分で守り備えも自分たちでしっかりする「自助」を組み合わせていくことが、命を守るために大切。
これからも富丘小学校で避難訓練や防災教育に尽力していきたい

震災から11年以上が経ち震災を知らない子供たちが増える中、震災体験を学び、防災に生かしていくことが求められている。

(テレビ静岡)