鹿児島市にある「旧藤武(ふじたけ)邸」という建物をご存じだろうか。昭和初期に建てられたもので、細部には細かな装飾や遊び心あふれるデザインが施されている美しい建物だ。
鹿児島でも数少ない、戦火を免れた木造建築として、国の登録有形文化財にも指定されている。
しかし、この建物が2022年末にも解体される運びとなっている。所有者が苦渋の決断をせざるを得なかった、その理由とは。
CMのロケ地などに使用…ノスタルジックで雅な「旧藤武邸」の魅力
鹿児島市の上町(かんまち)地区。篤姫の生家や、上級武士の家が多くあったエリアにある旧藤武邸は、1939(昭和14)年、当時、呉服店を営んでいた藤武喜助氏によって建てられた。
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設計には京都の宮大工が携わっていて、建設費は現在の貨幣価値で3億円以上とも言われている。この建物について、1級建築士の池田賢一郎さんはこう語る。
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1級建築士・池田賢一郎さん:
初めて見たときはもう、圧巻ですよね。すごい!って。こんな建物が鹿児島市の真ん中に残っていることがすごいなと
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ノスタルジックなその建物は、コマーシャルやプロモーション動画などのロケ地としても使われている。
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1級建築士・池田賢一郎さん:
廊下の長押(なげし)の部分に、1本ものの木材を使っている。これだけの長さの正目(まさめ=模様が均一)の材料を取るのは難しかったんじゃないか。
ここの特徴は「藤武」さんにちなんで「藤」の欄間が大きくどーんとつくられている。床柱(とこばしら)は竹を丸々1本使った床柱が入っている
藤武さんの名前にちなんで、建物にはいたる所に、藤や竹の装飾が施されている。
![階段部分の天井](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/4/5/700mw/img_453e1752d23360a6db278d6e75db6417357455.jpg)
2階へと続く階段は、自然の木をそのまま取り入れた遊び心あるデザインが特徴。手すりには根元の部分が鋭く曲がった木をそのままはめ込んでいる。
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1級建築士・池田賢一郎さん:
大工さんの仕事としてはとても丁寧できれい。どこか“雅”というか、京都らしさが垣間見えている気がする。鹿児島の造りとはちょっと違う
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鹿児島でも数少ない、戦火を免れた昭和初期の木造建築で、旧藤武邸は後世に残すべき建物として2013年に国指定の登録有形文化財に指定された。建築の専門家もその価値を高く評価している。
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鹿児島大学 工学部建築学科・鰺坂徹 教授:
鹿児島にとって非常に貴重な建物だと思いますね。美しい景観がある場所にあって、そこに戦前からある。鹿児島は空襲を受けていますから、本当に数少ない、唯一に近い建物
しかし、この旧藤武邸、取り壊されることが決まったのだ。
貴重な有形文化財…しかし“取り壊し”へ「苦渋の決断」
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鹿児島県教育会館維持財団はこの建物と、鹿児島市山下町の県教育会館を所有しているが、県教育会館の老朽化にともない、建て替えを余儀なくされている。
移転地を探したものの条件に合う代替地が見つからず、維持費がかさんでいた旧藤武邸を取り壊して、この場所に新たな教育会館を建てることを決断。
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SNS上では市民から取り壊し反対の声が上がっているが、財団は「建物を残す方法を6年間探したが見つからず、苦渋の決断をした。引き返すことは難しい」としている。
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1級建築士・池田賢一郎さん:
取り壊しは残念だが、もし直接見学できる機会があれば、1人でも多くの人に建築美を目と心に焼き付けていただきたいと僕は思います
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鹿児島大学 工学部建築学科・鰺坂徹 教授:
歴史的建築物は壊したら二度と造ることができない。何とか良い知恵を出して、継承することはできないか
様々な声が聞かれる中、新たな県教育会館は設計段階に進んでいる。このまま計画が進めば、2022年の末ごろには旧藤武邸は解体されることになる。
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全国的にも維持・管理費が支払えず、文化財を解体するケースが増えているという。貴重な建造物を残してほしいという市民の声も理解できる一方で、維持する側にも事情があるのも事実だ。
旧藤武邸の一般開放は2022年9月末まで予定されている。
(鹿児島テレビ)