カンヌ国際映画祭で最高賞のパルム・ドールを受賞した『パラサイト 半地下の家族』のポン・ジュノ監督の世界進出を後押しし、最近では是枝裕和監督が初めて韓国で制作した『ベイビー・ブローカー』など数々のヒット作に関わる、韓国の大手エンターテイメント企業「CJ ENM」。“韓国エンタメ界の雄”が最新のスタジオを公開した。世界を見据えるK-コンテンツ生産拠点の実力とは――。

超巨大コンテンツファクトリー
ソウル中心部から車で1時間ほどの坡州(パジュ)市の山沿いにある「CJ ENMスタジオセンター」は、2022年4月に完成した。約21万㎡の広大な土地には、13棟の屋内スタジオが備わっている。中でも広さ約5300㎡の国内最大規模のスタジオは、ドラマや映画の撮影だけでなく、音楽イベントなどにも使えるという。また、自然の山や平地で様々な撮影ができるオープンセットが併設されており、屋内と屋外で同時並行的に撮影が可能だ。広さの数字を並べてもピンとこないかもしれないが、とにかく韓国最大級の巨大コンテンツファクトリーだ。
敷地内には車を使ったドライブショットを撮影できる「マルチロード」(長さ280m、幅20m)も完備されている。道路脇に車と風景を合成させる「クロマキー」用の幕を設置すれば、どんなシチュエーションのカーアクションも撮影可能だ。

背景が一瞬で変わる最新バーチャルスタジオ
広大なスタジオの中でも力を入れているのが「バーチャルスタジオ」だ。
直径20メートル、高さ7.3メートル楕円形のスタジオは360度の壁面と天井に大型の高精細LEDスクリーンが使われていて、映画やドラマのシチュエーションに合わせて、様々な背景を映し出すことができる。

LEDは韓国のサムスン電子の最新技術を集約させたもので画質は36K。これまでで最も完成度が高いディスプレイだと関係者も胸を張る。
【動画はこちら(CJ ENM提供)】
私も立ってみたが確かに鮮やかに映し出された背景に360度囲まれると、その場にいるような没入感がある。
制作スタッフや俳優が背景を確認しながら撮影できるのが利点で、カメラと連動して背景を動かすこともできるため、実際に現場で撮影したりセットを組むより、時間やコストの削減にもつながるという。
CJ ENMは「最大・最高水準の制作インフラが集約されたこのスタジオが、K-コンテンツ制作の最前線拠点となる」としていて、新たな映像作品を世界に送り出す戦略だ。

世界を見据えた「K-コンテンツ戦略」
CJ ENMは放送局が中心となってドラマを制作・編成していた従来の方式とは異なり、制作会社である「スタジオ」が資金調達から企画・制作をし、著作権を自ら持って流通までの全過程を主導する北米映画市場のモデルを韓国に持ち込んだ。
日本でも人気の『愛の不時着』や『トッケビ 君がくれた愛しい日々』など数々のヒット作を生み出し続けている韓国最大規模のドラマ制作会社「スタジオドラゴン」もCJグループの傘下だ。
CJ ENMは「スタジオドラゴン」と、2021年に買収したアメリカのドラマ・映画制作会社「エンデバーコンテンツ」と共に「CJ ENMスタジオズ」を3大制作会社に育て、世界的なコンテンツ制作競争力を強化する方針だ。
さらにCJ ENMは、スタジオドラゴンと日本で電子コミックサービス「LINEマンガ」を運営するラインデジタルフロンティアとの3社で出資し、日本で「スタジオドラゴンジャパン(仮称)」を設立すると発表した。日本のドラマとの差別化を図ったコンテンツを短期間で制作し、日本のドラマ市場の主導権を狙うとみられる。
すでに世界の市場で評価される「韓流」がK-コンテンツとしてさらに世界を見据えている。
(FNNソウル支局長 一之瀬登)