自分の死後、目がよく見えなくて困っている人へ角膜移植のために眼球を提供する「献眼」をご存じだろうか?

広島で献眼の普及に取り組む一人の医師に密着した。

何歳でも提供可能 「角膜提供」は看取りのオプション

広島で、地域に根差した在宅医療に尽力している福井英人医師。折を見て、患者に「献眼」について情報を提供している。

福井英人 医師:
家でいつかお看取りになったときに、目の黒目の部分を目の見えない人にあげることができる。もしそういう希望があったら対応します

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患者の長女:
まさか高齢者があげられるとは思わなかった

福井英人 医師:
150歳でもあげられますよ。本人がいいと言っていても、お父さんが嫌というかもしれないから、また今度家族で話してみて

「角膜」とは、黒目の部分を覆うコンタクトレンズのような透明な「膜」のことを指す。

この角膜が濁ったり変形することで物が見えにくくなる病気があるのだが、亡くなった人から提供されたきれいな角膜でその病気を治すことができる。

大阪や沖縄の病院で救命救急医として働き、亡くなった人が病気の人に臓器提供をする移植医療にもかかわってきた福井医師。移植先進国スペインで研修を受け、ますます移植医療の可能性を感じたという。

福井英人 医師:
臓器移植ができることで、治療の選択肢が増える。移植医療は他の人の善意がないと成り立たない究極の医療

“在宅でも移植医療に貢献を…看取りのオプション提供

3年前、実家の病院を継ぐために広島に帰り、在宅医療でも唯一できる「角膜提供」に取り組み始めた福井医師。この取り組みに対する報酬は一切ないが、思いを持って発信を続けている。

福井英人 医師:
看取りのオプションかなと思っている。ただ何もせずに亡くなっていく方法と、他の人にギフトをあげて亡くなっていくっていう選択肢を作ってあげられている。「角膜をください」というわけではなく、「こういうことができるよ」と逆に教えてあげてるぐらいのつもり

福井医師の取り組みを通じて角膜提供を決めた人は、3年間で17人。広島県の献眼数の約3割を占めている。

角膜提供を決断 家族の思いは…

提供者のひとり、河本武彦さんは自宅で最期を迎えた。

福井英人 医師:
河本さんがお亡くなりになって角膜提供の話をさせてもらったとき、角膜提供の意思表示していたことを忘れていましたもんね

武彦さんの息子・河本成彦さん:
あのときは忘れておりました。そういえば、親父は献眼登録を推奨していたから、しないといけないなと思ってお願いした

父、武彦さんが30年以上前にアイバンクに登録し、提供の意思を示していたことを福井医師の言葉で思い出したという河本さん夫妻。提供を決めると、1時間後には角膜を摘出する医師が到着。20分程度で手術を終え、見た目には分からないよう処置をしてくれる。

成彦さんの妻・河本紀子さん:
大好きな我が家で父が亡くなることができたのは、先生のコーディネートのおかげ。父も信頼を置いていたので、先生に身をゆだねることをきっと望んでいたと思う。なので、家族としては抵抗はなかった

武彦さんの息子・河本成彦さん:
こうやって親父が世の中のために役にたてば、本人も満足だろうし、私たちにとっても一番いいんじゃないかと思う

福井英人 医師:
個人個人色々な考えがあると思う。あげたくないと思う人は、全然それはそれで責めることはないし、それはそれでいい

地道な取り組みに対して眼科医は…

広島大学病院眼科・近間泰一郎診療教授:
福井先生が在宅医療で培ってこられた家族や本人との信頼関係、関係性があってのこと。我々にとってはありがたい

2021年度、全国で角膜の提供を待つ待機患者は1888人。実際に提供した献眼数は505人。
提供者は、まだまだ足りていない。

広島大学病院眼科・近間泰一郎診療教授:
献眼自体の数は10年前からどんどん減っていて、この2、3年はコロナの影響が大きいと推測している。提供してくださる角膜がないとできない医療なので、少しでも角膜の提供が増えて、笑顔になれる人が増えるのが、我々にとって一番の望み

「こんなに見えるんだ」角膜移植を受けて快適な生活に

「円錐角膜症」で、高校生の頃から目が見えづらかったという藤本さん。

藤本喜久さん:
信号機が5つぐらいに見える。ぼんやり5つくらいになって、それが細く繋がっているような見え方だった

症状は次第に悪化し、環境の測定の仕事や自動車の運転にも支障が出るようになった。そんな不自由な暮らしを20年以上続け、ついに45歳のとき、広島大学病院で角膜提供のもと手術を受けた。

藤本喜久さん:
手術後3日くらいで包帯が取れて、そのとき見た景色というのはびっくりした。こんなに見えるんだ、これが読めるんだ、あんな小さいものまで見える!と感動した。献眼してくださったドナーの方には感謝しかない

失明の不安を抱えながら、様々な病院を訪ね歩いていた女性も角膜移植で生活が変わったという。

角膜提供を受けた女性:
必死で探したけど、どこもだめ。名医と言われているお医者さんでもできない。絶望的だった

諦めかけていた約10年前、広島大学病院で移植に辿り着いた。

角膜提供を受けた女性:
見事に鮮明に見える。あの時のうれしさったらないですね。字が読めるというのがうれしかった。生活の質も全然違うし、ありがたいばっかりですね

まだまだ多くの患者が角膜提供を待っている。福井医師は、少しでも自分の取り組みを広げていきたいと語る。

福井英人 医師:
他の在宅(医療)看取りをやっている先生方にも広めていけたら。同じようなことをしてくれれば提供できる角膜の数ももちろん増える

免許証や保険証の裏側にある、角膜提供を含めた臓器提供の意思表示カード。その記入で、一般の人も自分の意思を表明することができる。
移植医療は、人の善意がなければ成り立たない究極の医療。家族で一度話し合ってみてはいかだだろうか。

(テレビ新広島)

テレビ新広島
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