宮城県の南三陸町や気仙沼市で、人気のクレープのキッチンカーがある。クレープを作る23歳の女性は、実は農家。彼女にはクレープと農業で叶えたい夢があった。

クリームたっぷりのクレープは110種類以上

宮城県南三陸町志津川で4月、キッチンカーが並ぶイベントが開かれた。クレープのキッチンカーを出店したのは南三陸町に住む大沼ほのかさん(23)。ほのかさんは3年前から、主に南三陸町や気仙沼市などで、週に1日だけキッチンカーを出して焼きたてのクレープを販売している。

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大沼ほのかさん(23):
クリームをたっぷり入れるのがこだわり

ほのかさんが作るクレープは、ほのかさんのお父さんが町内の農園で平飼いしている鶏の新鮮な卵をたっぷりと使っている。多い時で1日に300個売れる人気店だ。

お客さん:
娘も初めて全部丸ごと一個食べるくらいおいしい。生地もおいしくって

寺田早輪子 アナウンサー:
どんなところが気に入っている?

お客さん:
ほのかちゃんの人柄ですね、完全に。おいしいし

寺田早輪子 アナウンサー:
メニューがいっぱい!何種類あるんですか?

大沼ほのかさん(23):
大体110種類くらい

寺田早輪子 アナウンサー:
覚えきっている?

大沼ほのかさん(23):
かるたみたいに、「チョコバナナ」の「チョ」と言われたら作り始める

寺田アナウンサーも、ほのかさんのオススメ「黒みつきなこバナナクレープ」を頂くことに。

寺田早輪子 アナウンサー:
500円しないのにこのボリューム!食べきれるかしら…この生地、すごく弾力がある。伸びる。でもフワッとしているの。きなこが優しい甘さ。クレープだが和菓子のような落ち着いた甘さ

大沼ほのかさん(23):
色がきれいなきなこ。風味もおいしくて、アオバタマメから作られたので、きれいな若草色に。私の農業の師匠が作った大豆から作られたきなこの特別限定メニュー。本業はそっち。週に5~6日は農業をやって、週に1日だけイベントなどに出店する

震災きっかけに農業の道へ なぜクレープ屋を?

そう、ほのかさんの本業は農家。

寺田早輪子 アナウンサー:
今、何の作業をしているんですか?

大沼ほのかさん(23):
サツマイモの苗を定植しています

ほのかさんは、3年前から志津川の山間にある入谷地区で、畑を借りて桃やサツマイモなどを栽培し、クレープの具材として使っている。この日は、ほのかさんがアドバイスを受けているという農業の師匠たちの畑で作業を手伝っていた。

阿部博之さん(64):
今、高齢化など農業の現場は厳しい。大事に育てたい

阿部勝善さん(71):
南三陸町にとって希望。明るい農村だよ

南三陸町歌津出身のほのかさん。心に残る「故郷の風景」が、農業の道に進むきっかけになった。

大沼ほのかさん(23):
自分が震災前に好きだった田園風景…。今はもう震災のせいで見られなくなってしまったが、田園風景を守ってきたのも農家なんだと気づいて。食料を作るだけじゃない仕事に興味がでて、(宮城県)農業大学校に進学した

寺田早輪子 アナウンサー:
結構広いですね

大沼ほのかさん(23):
3反歩くらい、30アールある。支柱が刺さっているところ、これがクリの苗木

こちらの畑は「クリ園」にしようと、2021年に50本の苗木を植えたが、なかなか上手く育たず挑戦の日々が続いている。

大沼ほのかさん(23):
この粒々がクリの花になる。ちょっと元気がない。葉っぱの色が薄いので、土に肥料があり過ぎちゃダメ。陽が当たりすぎてもダメ。細かく調べていくと厳しい条件があって、枯れやすい品種みたいで簡単ではない。私は大学校入学の面接でも「南三陸町でクリをやりたいです」と言って入って。クリが大好きだった。小学生の時に毎年、近くの山でクリ拾いの行事があった。その時のクリ拾いがすごく楽しくて、入谷地区でまたできたらいいなと思っている

「農家」が本業のほのかさん。副業が「クレープ」の理由は…。

大沼ほのかさん(23):
うちの母が震災当日まで、十何年もクレープのキッチンカーを町内で経営していた

南三陸町志津川で、6年前に営業を終了した仮設のさんさん商店街。ここでクレープが人気のカフェを営業していたのが、ほのかさんの母、大沼あかねさん(当時40)だった。あかねさんは震災前の2004年からクレープの移動販売をしていたが、東日本大震災の津波で自宅と車を流された。

ほのかさんの母・大沼あかねさん(当時40):
「どうしたのか心配だったんだよね」と来てくれるお客さんが結構いらっしゃって。心の片隅にでも置いていてもらったのだなという感動もあった

仮設商店街が閉鎖された後も、「いつか自分の店を持ちたい」と頑張ってきた。

大沼ほのかさん(23):
母が一人で朝早くから準備して、毎日のように出かけていく姿を見ていたので、忙しそうだけど楽しそうだなと思いながら見ていました

夢は農園直営のカフェ 母とともに…

あかねさんは2020年、仙台市青葉区五橋で念願だったカフェを開店した。今は6人の従業員を抱え、クレープ作りの指導もしている。カフェ開店の夢を叶えたあかねさん。これからは夢を応援する存在になりたいという。

ほのかさんの母・大沼あかねさん(46):
「ゆくゆくは自分の移動販売車や店舗を持ちたい」と働きに来る子は多い。私が移動販売車を始める子に教えるコンセプトが「夢のために、生活を支えるための移動販売車」。娘の場合は一番やりたいのは農園の仕事で、下手すると10年くらいは収入がない状態が続くので、移動販売をやるしかないねと2人で話し合って始めた。だいぶ厳しく指導した。親子だから余計に厳しく、険悪に…。「甘えてんじゃないの!?」と怒ったこともあるし

大沼ほのかさん(23):
たまに母が食べに来るんですけど、「あれが足りない!」「焼きが甘い!」と指導が入る

寺田早輪子 アナウンサー:
お母さん直伝の味は守れている?

大沼ほのかさん(23):
…と思います。何なら超えていると思います

ほのかさんの母 大沼あかねさん(46):
今はもう信頼している。世代交代みたいな…。気仙沼エリアは「大沼農園」「娘の農園のクレープ屋」という感じ

お客さん:
ほのかちゃんが移動販売する前、お母さんがやっていた時から買っている

大沼ほのかさん(23):
母がやっていた当時、中学生だった子が、いまママになって私のところに「懐かしい」と来てくれるのがすごくうれしくて。地元の人に愛されているクレープ屋だったんだなと誇らしく感じている

この日、農園を訪れた母のあかねさん。ほのかさんが作る作物をクレープに使っている。

ほのかさんの母・大沼あかねさん(46):
今年はトウモロコシを作るって言っていたから

大沼ほのかさん(23):
クレープに使うとしたらどうなるの?

ほのかさんの母・大沼あかねさん(46):
なんか、ちょっと考えていた。

大沼ほのかさん(23):
この景色が入谷は素敵なので、景色が見える場所に、皆がくつろげるような農園直営のカフェを作りたいという夢がある。ちょっと母にライバル意識がある。うちの母もいろいろなことをやりたがる。どんどん行っちゃうので、私もそのスピード感を真似したい。超えたい

(仙台放送)

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