長野市に本社を置く「額縁のタカハシ」は、コロナ禍も業績を伸ばしている。キーワードはオーダーメイド。思い出やこだわりを大切にしたいというニーズに応えている。好業績の舞台裏を取材した。
数少ない額縁専門店 客の要望に応え

客:
絵が額に入ると、また一つイメージが変わる
木材を加工し、組み立てる。出来上がったのはおなじみの「額縁」。長野市に本社を置く「額縁のタカハシ」は、県内では数少ない専門店だ。

社長は3代目の高橋淳さん(47)。2代目の父・均さん(72)は経営を息子に任せる一方、今も額縁づくりを担当している。
額縁のタカハシ・高橋均会長:
褒章というサイズの賞状を入れる額。普通の方はこれだけ見ていてもどこを組んでいるかわからないと思うけど、全体ができたのを見ると、なるほどと

男性が持ち込んだのは大きな絵。高校時代に描いた油絵だそうだ。
客(上田から):
一回、額から外して丸めてしまった。それが後悔というか、また写真を撮って収めたいので、額に入れたいなと

絵に合わせて額縁の色や形を選ぶ。
従業員:
どんな色がいいですか?金にしますか?
客(上田から):
あの絵ならどれが似合う?

従業員:
これは茶色の縁がついていてここがゴールド、こういう感じが優しいですかね
10代、20代前半からの問い合わせも
多くの業種がコロナ禍で苦戦を強いられているが、こちらは無縁。10年ほど前から売り上げを伸ばしていて、2021年度は過去最高となった。好調の理由は…。

額縁のタカハシ・高橋淳社長:
海外旅行のお土産のレリーフみたいなものを額に入れるというご要望だったり、競馬の馬につけているゼッケンだったり

店は絵画や写真に限らず、立体的なものも収めるさまざまな「額縁」を求めに応じて作っている。つまりオーダーメイド。
最近、多かった注文がこちら。アニメ「呪術廻戦」のキャラクターが描かれたコーヒー缶のコレクションを飾る額縁だ。

額縁のタカハシ・高橋淳社長:
今まであまりかかわりのなかった10代、20代前半の方からの問い合わせが増えた

工場長:
消防局に勤めていた方が、退職された記念にいただいたもの。お客さまの手元に渡るまで落ちてはいけないので、しっかりと留めるのが大事
客のニーズに応えらえるのは、自社工場で手作りしているから。技術の確かさは店のルーツからも伺える。
創業の精神「何でも作れる」 ネット事業も展開
店の歴史は94年。創業者は祖父の仁市郎さんで、昭和3(1928)年に「建具屋」としてスタートした。

額縁のタカハシ・高橋均会長:
(初代が)たまたまお客さまのところへ行って写真を額装してあげたら、とっても喜んだと
建具師の技が生かされた額縁が評判となり2代目の均さんが店を継いだころ、専門店へと業態を変えた。
額縁のタカハシ・高橋均会長:
おやじがやっている額縁の仕事がなんかおもしろそうだなと。当時も建具屋やってましたから、「何でも作れるんだ」というのを売りにして。「作る店」だとスタートした
絵や写真を趣味で楽しむ人はいつの時代にもいて、一定のニーズがあった。時には注文が殺到したことも。

1998年の長野オリンピック。当時、流行したのがピンバッチ交換だ。コレクションする人から注文が舞い込んだ。
額縁のタカハシ・高橋均会長:
(五輪が)終わった途端にピンバッチですね。大変な繁盛で忙しくてどうにもならないと
その後、安い既製品が量販店やインターネットで手に入るようになり、店の売り上げに陰りが見え始めた。そこで2006年、店もインターネット事業に乗り出した。3代目の淳さんは、店が得意とするオーダーメイドを軸に事業を展開。さまざまな要望に応えてきた。

ボクシングのグローブに車のハンドル、さらに…。
額縁のタカハシ・高橋淳社長:
タラバガニだったかズワイガニだったか忘れたけど、殻を入れたり。すごく多いのが蛇の抜け殻。その都度、営業の者と工場の者で「これどうする?」と言って何とか形に

現在、ネットの注文だけで月に3000点から4000点を作って発送している。
額縁のタカハシ・高橋淳社長:
「よく額縁で商売できるよね」と言われる。本当は額縁ってもっと魅力があるし、力もある。それをもっと発信するのがうちの会社の使命かなと
夫婦で集めた御朱印、長男遺品のホワイトボード
額に入れるのは、思い出やこだわりだ。都内から来た夫婦が持ち込んだのは「西国三十三所」巡りで集めた御朱印。25年かかった巡礼の思い出が詰まっている。

客(都内から):
簡単に行けない場所が多かったので、達成感を味わうと違う。きちんと残しておきたいというのと、25年かかったので大事にしておきたいと
千曲市の矢嶋さん夫婦が持ち込んだのは、8月の予定が書かれたホワイトボード。

矢嶋康さん:
ホワイトボードでちょっとこすれると消えちゃうので(持ってきた)。これが最後にうちの子が書いた字だと思う

ホワイトボードは長男の「遺品」だ。2020年8月、自転車事故で当時高校生だった長男の律希さんが亡くなった(享年16)。
2人はこれまでも、律希さんが好きだった寺や仏像の絵を店で額装してもらい飾っている。お気に入りの自転車の写真もその一つだ。
矢嶋康さん:
この子が生きていた証になるので、日々見て「ああ、きょうもここにいるね、おはよう」という感じで。思い出の品というか

妻・恭子さん:
一緒にいる感覚だよね
ホワイトボードは、律希さんが所属していた高校の弓道部で使っていたもの。8月の予定に昭和20年の歴史的な事柄が書き込まれている。律希さんが最後に書いた文字ということで、仲間が保管してくれていた。

妻・恭子さん:
どうでもいいことが楽しかった雰囲気が伝わる。心地の良かった居場所があったんだなと伝わるものなので、大事にしていきたいなと

亡き人の面影も、楽しい思い出も…。店はこれからもオーダーメイドで客に寄り添う。

額縁のタカハシ・高橋淳社長:
持ってきていただいたものの後ろには、いろんなドラマがあるので
額縁のタカハシ・高橋均会長:
仕事を広く深く、客に寄り添った形で進めていかなければならない。本当に頑張ってやらなくちゃという感じ
(長野放送)