「社会人サークルに入りませんか?」
「おいしい居酒屋知りませんか?」

街中で、2人組の若者にこういった声掛けをされたことはないだろうか?実は同様の声掛けが、大阪や東京で多く確認されている。

取材で浮かび上がってきたのは、若者の人生を狂わす「脱法マルチ」組織だった。謎の声掛け集団についていくとどうなるのか…ツイセキした。

「社会人サークル」の勧誘? 友達探し? 謎の男女2人組

金曜日の夜、大阪・京橋駅は多くの人が行き交う。その中で不自然な動きをする若い男女2人組がいた。次々と若い女性に声を掛けていく。

声を掛けられた女性によると、「社会人サークル」の誘いだったという。

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1時間以上なぜ声掛けを続けたのか、聞いてみた。

――関西テレビなんですけど、金曜の夜に男女2人でたくさん声を掛けているのはなぜですか?

声掛けをする2人組:
友達普通に探していただけです。地方から出てきたんで…

――どんな友達を探しているんですか?

声掛けをする2人組:
普通の…

実は、同じような声掛けを行う集団は、大阪や東京で多く確認されている。それが「事業家集団」や「環境」と呼ばれる集団だ。

駅や「街コン」などで声掛けをして連絡先の交換を持ち掛ける集団で、この集団に関わって多額の借金をしたと訴える人もいる。

元メンバーが取材に応じ、集団の実態を話してくれた。

夢をかなえるため…甘い言葉で誘う「集団」

24歳のAさんと26歳のBさんは、それぞれ仕事に対して不安を抱えている時に、街コンで声を掛けられた。

1年半所属していたAさん:
自分のやりたいこととか何だろうと聞かれて、答えられなかった。そこで考えるきっかけにはなったので、きっかけを与えてくれるいい人なんだなと話をのめり込んで聞いていました

3カ月所属していたBさん:
私の場合は、お金を稼ぎたいっていうのもあったんですけど、信頼できる仲間と一緒に仕事をして、稼げる環境が良いなって思ったのがかなり大きくて…

最初は出会いを求めていただけだったのに、気付けば将来の夢や欲しい年収を聞き出された。そこで「夢をかなえるために起業する勉強をしないか」と持ち掛けられ、「事業家集団」に入ることになったのだ。

「事業家集団」には全国に約3000人のメンバーがいると言われているが、正式な名前はない。「環境」「チーム」「クラブ」など、呼び名は様々だ。

「カリスマ」と呼ばれるトップの下に、飲食店や小売店などを経営する「師匠」がいて、それぞれの師匠が50人以上のチームを作っている。

ここに所属すると、どんなことを勉強できるのだろうか?

ツイセキ班は、「事業家集団」が毎週末開いているセミナーの音声を手に入れた。

セミナーの音声:
見た目が成果を決めるとしたら、見た目が大事ですよね。理想のボディ目指すための簡単ダイエットサプリです。ガンガン使いましょう。3粒ずつ飲んでいたら1カ月でなくなります。自分にたくさん先行投資をするんですけど、自分への投資、自己投資です。それが事業に発展すると、先行投資が事業投資に変わります

このセミナーは、所属すると毎週末の出席が義務になる。そこで説明された「自己投資」とは一体何なのだろうか。

Aさん:
自己投資の額が15万円で。内容はエナジードリンク大体30本で、シャンプーやサプリとか。健康への投資や、あとは日用雑貨がメインでした

弟子たちには「自己投資」として、「師匠」が経営する店でサプリメントやシャンプーなど15万円分を、毎月購入することが課せられる。

そして、自分の勧誘した人が「自己投資」をすると、10%(=1万5千円分)が師匠の店限定で使えるポイントになって還元される。

さらに、自分の下に50人を付けることができれば、晴れて自分も「師匠」になってオーガニックショップを出店することができる。

これまで自分がしてきたように、自分の下のメンバーに「自己投資」してもらうことで、もうけが生まれる。

セミナーの音声:
SUHW。スーパーウルトラハードワーク。何が言いたいかというと、むっちゃ働くということなんですよ。仕組みを構築するために「チームビルディング(=勧誘)」を実践したり、「資金調達」を実践したり

集団では、勧誘を「チームビルディング」、合コンを主催して店に払う実際の料金と会費の差額でもうけることを「資金調達」と呼んだりして、意識を高めている。

Bさんは、正社員の仕事から休みに融通が利く派遣社員に転職した。

師匠や仲間と近い場所で生活し、意識を高めるために引っ越しもしたが、一向に具体的な経営ノウハウを教えてもらえないことに違和感を覚えていた。

Bさん:
「事業じゃなくて、まずは一緒に仕事したいなって思う人を集めることだよ」と言われたことに最初はすごく戸惑いがあったんですけど、ただ私はもう転居も転職もしている身だったので、後に引けない

集団では、起業を成功させるためには経営術よりも集客力が大切だとされている。そのため「チームビルディング(=勧誘)」が最優先なのだ。

Bさんは毎日深夜まで声掛けをし、師匠に毎日報告メールを送り、土日のセミナーにも参加した。精神的にも体力的にも限界になり、思考能力が低下していったと言う。

Aさんは所属していた1年半で、自己投資などで約300万円の借金をした。

Aさん:
前職で貯めていた貯金もすべて切り崩さないといけないぐらい生活がきつかったのと、バイトして睡眠時間1時間にしないと本当に生活できなくて、お金はすぐなくなりました

なぜ、このような状況になるまで拒むことができなかったのだろうか?

Aさん:
当時はそこまでの判断能力も鈍っていたのと、あとはお世話になっているし、買うしかないでしょっていう感じ。周りからの同調圧力で、買わざるを得ない状況にずっと持っていかれていたので

Aさんは、師匠の勧めでメンバーと共同生活をした。

「今思うと、監視状態に置いて、毎日集団のことだけを考えるようにさせられていた」とAさんは振り返る。

「事業家集団」に入って抜け出せなくなる心理について、マインドコントロールやカルト心理に詳しい専門家は…

立正大学心理学部 西田公昭教授:
サラリーマンは今、特に給与が上がっていかない現実がある。社会人になって数年がたって現実が見えてきたときに、勝ち組になるには起業しかないのかなと思いやすい。マインドコントロールの最終段階が、自己犠牲を払わせることなんです。仕事を辞めさせたり家族との縁を切ったりお金をつぎ込んだりすると、それに対して無駄じゃないと信じたい。だから余計につぎ込んではまってしまう。宗教団体のカルトと全く構造的に違いはないです

セミナーの情報を入手! メンバーに取材を試みるも、なぜか全員…

大阪市福島区。リーズナブルながらもオシャレでおいしい飲食店が多く、若者に人気のエリアだ。

記者リポート:
複数の元メンバーによりますと、ここが「環境」の本拠地のビルです。この中でセミナーを行ったり、オーガニックショップを経営したりしているということです

とある週末、50人規模のセミナーが開かれるという情報を入手した。2時間ほどのセミナーが終わった後、メンバーに直接話を聞こうとしたが…

メンバーA:
急いでるのでいいですか

メンバーB:
急いでるので

メンバーC:
申し訳ない、急いでるので

メンバーD:
急いでます

声を掛けた全員が、急いでいた。セミナー会場に直接出向き、取材を交渉するも「急いでいるので」と断られた。

入会したメンバーが毎月サプリメントの購入や勧誘をさせられる、この実態について専門家は「脱法マルチ商法」だと指摘する。

消費者問題に詳しい 紀藤正樹 弁護士:
連鎖販売取引(マルチ商法)規制をどうやって脱法するか。どうやって自分たちを行政規制や警察規制から逃れるかを考えて、計画的に自分たちをグレーにしていると思います

マルチ商法を規制するため、勧誘目的だと告げない声掛けの禁止や、クーリングオフの告知などが法律で義務付けられているが、事業家集団は「起業サークル」と主張して、それらを行っていないとみられる。

実態に則した規制は、なぜできないのだろうか?

消費者問題に詳しい 紀藤正樹 弁護士:
自分たちの名前も明らかにするものがなく、組織の実態自体が明確ではないんですよ。そのために行政の規制や警察の規制が遅れたということで、被害者が今続出している

「師匠」「カリスマ」への質問と回答

「師匠」の一人である大阪の人物に、「自己投資で借金をした人がいることについてどう思うか」と質問すると、メールで回答が来た。

“師匠”からの返信:
私自身としては、そんなはずはないという思いが強いです。中には支出が収入を上回りそうになっている方もいましたが、その方もアルバイト等で収入を補っており、借金はしていなかったと思います。万が一、それで借金をした方がいたとすれば大変遺憾なことです。そのような事態を招かないように、これまで以上に、資金契約や財務管理の把握、助言を徹底し、借金をすることのないように注意していきたいと思います

また、「師匠の教えに従って、仕事や住所を変えてしまった人についてはどう思うか」質問すると…

“師匠”からの返信:
私は、時間の効率化の観点から職住接近の話をしていますが、こちらで強制したことは一切なく、変えるなら自分で決めて変えようということを言い続けております。仕事や住所を変えた方からは、転職により収入が上がったり、職住接近を実現して自分の時間が増えたりして、良い状態になったという話を聞きますが、仕事や住所を変えて悪い状態になったといった不満は耳にしておりません。ただ、仮に、仕事や住所を変えて悪い状態になった方がいらっしゃるとすれば、とても残念なことです

また、「カリスマ」として集団のトップに位置するとされる人物に取材を依頼すると、集団に知人や友人はいるものの、直接関係していないという主張がメールで返ってきた。

トップとされる人物:
私は、かつて関わっていたマルチ商法の仕事を辞めた後、弁護士などの専門家にも相談して、コンプライアンスを重視しながらビジネスをしております。仮に、私や私と関連性のある会社や事業者が違法なことを行っているようであれば、 それを是正し、コンプライアンスを図っていきたいと考えております

また、自己投資で購入するサプリメントなどを販売しているとされる会社などにも取材を依頼したが、いずれも「事業家集団」と関係はないという返答だった。

集団を抜けた後に起こった不審な出来事

次第に不信感が募っていったAさんとBさんは、集団を抜けることができた。

その後、AさんはSNSで集団の実態を発信していた。

すると、集団に入会したときに登録したのと同じ個人情報がインターネットに流出し、不審な出来事が相次いだ。

Aさん:
家の玄関ポストにお面を入れられたりもした。(勤務先に)毎日のように嫌がらせの電話があった。会社に突撃してきて、僕を辞めさせるような方向にさせたりして、本当に転職もさせられたりしていて

複数の元メンバーによると、集団には、批判的な人を特定し、インターネットなどを使って攻撃する「プロジェクト」が存在するという。

他に誹謗中傷を受けた人も複数いて、名誉棄損で訴える準備を進めているということだ。

集団に入ったことで多くのものを失った2人は、こう訴える。

Aさん:
時間もお金も将来も全て失ってしまった。一番信用できる両親だったり、親友だったりにちょっと相談した方が一番かかりづらい。絶対に何か相談はしてほしいというのがあります

Bさん:
私はそんな事に引っかからないからと思っていたのに、私は結局引っかかっているのがあるので。何事も自分ごとに考えてやるのが大切かなというふうに思いました

要注意! 元メンバーが語る「狙われやすい人」

Aさんたち元メンバーは、以下の特徴に当てはまる人は狙われやすいので気をつけてほしいと、注意を呼び掛けている。

【1】新社会人
入社してみたら思っていた業務内容と違っていたり、給料が安かったりして、理想と現実のギャップに悩みやすく、起業や副業に興味を持ちやすいため。

【2】地方出身者
交友関係が少なく、孤独を感じていると人の集まりに魅力を感じやすい。また、街中で声を掛けられた経験が少ないため。

【3】体育会系
師匠と弟子という上下関係を受け入れやすい。また、部活の後輩など勧誘相手が多いため。

さらに…

・おいしい居酒屋やカフェを尋ねてくる
・社会人サークルやフットサル、BBQに誘ってくる

このような声掛けには、気を付けて欲しいと呼び掛けている。

謎の声掛け集団の実態は、法律の規制をすり抜ける「脱法マルチ」組織でだった。言葉巧みに勧誘を続ける「事業家集団」は、あなたにも声を掛けるかもしれない。

(関西テレビ「報道ランナー」2022年5月12日放送)

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