シリーズ「名医のいる相談室」では、各分野の専門医が病気の予防法や対処法など健康に関する悩みをわかりやすく解説。今回は消化器外科の専門医「みさと中央クリニック」の髙橋公一理事長が胃潰瘍について解説。

なぜ春に胃潰瘍になりやすいと言われるのか、その原因と症状。また治療薬や予防法などを詳しく解説する。

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胃潰瘍とは

胃潰瘍は単なる胃炎ではなく、少し病状が進行した状態になります。

胃の粘膜の一層目(一番上の部分)が潰瘍と言って表面が削れたような状態で、下の組織が見えている。これが胃潰瘍です。

胃が痛い、特にみぞおちの少し左側、肋骨の下・季肋部の辺りが痛くなることが多いです。

何もお腹に入っていない状態で胃酸が出る空腹時の痛み。もしくは食後に胃酸がいっぱい出た後の食後の痛み。これらを訴える方がいます。

放置した場合どうなる?

胃潰瘍を放置すると、胃に穴が開いて完全に突き抜けてしまいます。大きく分けて2つあります。

穿孔」といい、お腹の前側で穴が空き、そこから胃液が出て、お腹の中の臓器に炎症が及び大変痛い状態。

穿通」といって、胃の背中側に穴が空き、後ろには膵臓などの臓器があるので実際にはお腹の中に突き抜けませんが、他の臓器と繋がってしまったりして、めちゃくちゃお腹が痛くなります。これもかなり重症な状態です。

それから穴が開くかもしれない場所の粘膜に大きな血管を含んでいると、そこから出血し「胃潰瘍出血」という状態になります。

お腹が痛いだけでなく、血圧が下がったり、意識がなくなったり、吐血したり、薄い血液がじわじわ出て血便が出る。胃から出血して小腸と大腸を通って便として血が出ると、血液は赤くなく真っ黒の状態の黒色便とかタール便になります。

つまり、血液の中の水分だけが吸収され、血液の成分だけが残り、お尻から出てくる時は真っ黒という状態です。これもすぐに治療しないと治り辛かったり、治療が長引いたりします。

胃潰瘍の原因

胃潰瘍の最大の原因は「ヘリコバクター・ピロリ菌」というばい菌の感染症です。

これによって胃の粘膜が常に刺激され、さらにストレスなどがかかると胃が痛くなったり、胃炎を起こしたり、その先の胃潰瘍になったりするわけです。

ピロリ菌の感染は、いわゆる井戸水川の水など、生の水を消毒しないで飲んでいた時代の水の中にピロリ菌がいて、特に免疫がまだ完成していない子供の頃に飲んでいたことでピロリ菌を保有するという見解が統一されています。それ以外の一部感染症についても研究が継続されています。

我々の年代だとすでに消毒された水を水道から飲んでいるのでピロリ菌感染症はグッと減っています。70~80歳を超えてきた方のピロリ菌感染率が上がる訳ですが、傾向としては減少傾向にあることは間違いないです。

それに伴って胃がんの発症率もどんどん下がっています。そこは安心して頂きたいです。逆に言えば、ピロリ菌用の薬さえ飲めば今の時代はピロリ菌をやっつけられるので、そこは対策を取った方がいいと思います。

胃潰瘍は春になりやすい?

胃潰瘍に季節的な差があるのかどうかについては、いくつか論文レベルのスタディがされています。

3~5月ぐらいの春の時期に胃潰瘍が他の時期よりも多少多いのではないかと言われています。大きな環境の変化などを含むストレスが1つ原因ではないかと言われていますが、そこに関しての正確な判断基準はまだ実は出ていません。

人間がストレスを感じると副腎という臓器からストレスホルモンが出ます。

このストレスホルモンが大量に出ると、免疫力が下がり、治癒能力も落ちていろいろなばい菌に感染しやすくなると言われています。その結果、胃炎が起こったり、それがなかなか治らず治癒が進まず胃潰瘍に進展することがあります。

さらにストレスが高く、長くかかっていると緊張した状態が長く続くわけです。

そうすると交感神経の作用が長く続き、胃の血流が多くなったりして胃炎や胃潰瘍になりやすいと言われています。ストレスによってホルモンと神経のバランスが刺激されると胃炎や胃潰瘍が治り辛くなるということが起こり得るわけです。

胃潰瘍の治療薬

胃潰瘍の治療はいくつかの胃薬があります。

胃の粘膜を保護する粘膜保護薬や粘膜を刺激するものから守る防御因子を守る薬。これが一番軽い薬です。

ガスター10は、「H2ブロッカー」といって胃の粘膜の胃酸が出る細胞のH2というチャンネルをブロックすることで、胃酸の分泌を抑えることができます。これが次に強い薬になります。

さらにはH2のチャンネルを持った細胞から出る胃酸の分泌を完全に止めてしまうプロトンポンプインヒビターという薬があり、この薬はほぼ完全に胃酸の分泌を抑える作用があるため、それにより胃潰瘍を治療する方法があります。

ただこれらの薬は胃の粘膜を保護したり胃酸の分泌を抑える薬です。

胃潰瘍の9割以上はヘリコバクター・ピロリ菌感染症によるものなので、根本的な治療となるとピロリ菌をやっつける薬を飲むということになります。

胃潰瘍の予防法

自分で気を付けられることと言えば、きちっとしたリズム正しい食生活

それから生活環境、十分な睡眠

過度のコーヒーアルコールなどの嗜好品をある一定以上は摂らない、胃を刺激しないような生活を送ることで、胃炎や胃潰瘍を起こさないで済むかもしれません。

ただ、僕もコーヒーばかり飲んでしまったりするんですが、それによって心が安定するようであれば、それもまた(予防法の)1つかなと思ったりはします。

繰り返しになりますが、ピロリ菌がいる患者さんはどうしても胃潰瘍になりやすい。ストレスがあっても無くてもなりやすい。

さらにその後、胃がんになりやすいので、ご家族とか血の繋がりのある方の中に胃潰瘍、胃がんの方がいらっしゃる場合には、是非一度胃の中にピロリ菌がいるかどうかを、50歳を過ぎてきたら胃カメラを1年に1回はやることをお勧めします。

髙橋公一
髙橋公一

医療法人社団 高栄会 みさと中央クリニック 内科(胃腸・循環器)・外科・肛門外科・小児科 専門分野:消化器外科 埼玉医科大学病院 第一外科入局。消化器・一般外科、心臓血管外科、呼吸器外科、乳腺内分泌外科、移植外科、脳神経外科、小児科などを経験。 平成13~15年 アメリカ ジョンスホプキンス大学 外科留学し、移植免疫学を学ぶ。帰国後埼玉医科大学消化器一般外科に復職し、チーフレジデントをつとめる。 その後、池袋病院外科医長、 行田総合病院外科医長を経て、 平成20年 みさと中央クリニック 開院 平成29年5月 「医療法人社団 高栄会 みさと中央クリニック」として法人化 令和 2年4月  分院「みさと中央在宅クリニック」を大宮に開院

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