シリーズ「名医のいる相談室」では、各分野の専門医が病気の予防法や対処法など健康に関する悩みをわかりやすく解説。

今回は麻酔科・総合医療の専門医、タムス市川リハビリテーション病院の出口亮院長が、不眠症について解説。 日本人の5人に1人が不眠に悩まされていると言われる中、不眠の治療法や睡眠の質の上げるポイントなどを解説する。 

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不眠症の4タイプと国内での傾向

不眠症というのは、睡眠の質や量に問題があり、「入眠しにくい」「眠りが浅い」「よく眠れない」という苦痛が続き、それが原因で日中の体のだるさ、疲労、集中力低下が現れ、日常生活に支障をきたす状況です。

不眠症は以下の4つのタイプに分けられます。
・寝ようと思っても寝られない、寝付きが悪いという「入眠障害
・眠りが浅くて途中で目が覚める「中途覚醒
・朝早く目が覚める「早朝覚醒
・寝ている時間は確保できているが、体は休めていない「熟眠障害

日本人の大体5人に1人が不眠に悩まされていると言われています。また、過去に不眠に悩まされたことがあるという人も含めると3人に1人ぐらいと言われています。

ただ、それがすぐに「不眠症」という病気に繋がっていくわけではなくて、治療が必要な不眠症の状況になる日本人は大体20人に1人ですが、それなりに確率の高い症状だと思います。

不眠の原因をまず探ることから

不眠症の原因はいろいろなものがありますが、一番多いのは心的ストレス、それ以外だと加齢といった年齢の問題、夜間頻尿は特に男性だと前立腺肥大が進んでいくことで、どうしても頻尿になりますし、ご高齢の女性の方だと過活動膀胱が非常に多くなったりします。

あとは、精神的な不調を抱えていたり、睡眠時無呼吸症候群だったり、悪性腫瘍になった結果、なかなか夜眠れないとか、もともとの病気によって入眠できない、睡眠時間が長く取れないということもあります。

また、薬の副作用で途中で起きてしまう、寝付きが悪いという原因になる薬もあるので、まずは身体疾患ですね。病気が背景にないかとか、眠れなくなるような薬を飲んでいないかを探った上で、それ以外の原因を探るのがいいと思います。

さらに、精神生理性といって、ベッドに入って寝なきゃと思っているんだけど眠れないという悪循環に陥っていくものがあります。

不眠症の治療法…薬を使わない方法も

まずは薬の治療、心療内科やかかりつけの内科でも処方してもらえるので、自分で判断せず、不眠だなと思ったら、病院にかかっていただいて判断を仰ぐのが原則になります。

日本でよく使われている薬は3種類あります。

まずはベンゾジアゼピン受容体作動薬というのがあります。これは中枢神経の働きをグッと抑え込む脳内物質GABAを強めて、脳の働きを緩やかにして睡眠を促す睡眠薬です。

2つ目がメラトニン受容体作動薬で、睡眠を促すメラトニンという脳内物質の働きを強化していくイメージで、体内時計を作るホルモンに作用することで自然な睡眠リズムを作っていく薬になります。

あと、もう1つあるのがオレキシン受容体拮抗薬。オレキシンは覚醒を促すホルモンになるので、拮抗薬で、その働きを妨げて頭の働きを眠りの方に持って行くイメージの薬です。

一般的に使われているのはこの3つで、どれを選ぶかは、お医者さんの指示になります。

薬以外の治療法では、認知行動療法というのがよく言われています。精神疾患や痛みの治療にもよく使われますが、自分の行動や物事をどう受け取っているのかとか、考え方を自分でしっかり認識して、それをどう変えていくかを行動で示して、行動を変えていくことで、治療効果に繋げていく療法になります。

具体的にはまず自分がなぜ眠れないのか?どれくらい眠れていないのか?眠れない原因となる悪い習慣はないのか?といった生活リズムを見返すところから始めます。今までと同じような行動をしていたら不眠は良くならないので、自分にとって良いであろうと思われる別の行動を試してみる。

基本的には自分がリラックスできる食べ物飲み物音楽照明などの環境を整えて、眠くなったときに寝室に行くという行動をやってみるのがいいと言われています。

うまく何か1つ成功体験ができたら、それを定着させてルーチン化するイメージです。

「これをすれば自然と眠くなっていき眠りにつける」という行動のルーチン化まで定着させていくのが認知行動療法の1つの流れになります。

睡眠の質を上げるポイント…お酒で寝るのはOK?

質の良い睡眠をとるためには、基本的にはしっかりとした生活サイクルを作っていくことが大事です。

朝決まった時間に起きて、太陽の光を浴びて、決まった時間に朝ご飯を食べて、日中は仕事や学校など普通に活動して、夜は夜ご飯をしっかり食べて、決まった時間に寝る、というサイクルを作っていくのが大事です。

夜の睡眠だけでは足りなくて、日中どうしても眠気が来る場合は、20~30分の昼寝の時間を設けるのも、日中のパフォーマンスを上げる意味でも非常に良いと言われています。

あとは寝る前の行動で、寝る前3時間ぐらいはカフェイン、刺激物、アルコールなどは控えること。

アルコールは適量であればリラックス効果や入眠作用はあると思いますが、分解されていく過程で中途覚醒だったり、朝早く起きちゃったりすることに繋がるので、質の良い睡眠という意味ではあまりお勧めは出来ません。

しかもアルコールを飲まないと眠れないとなると、アルコール依存の問題が出てくるので、眠るための道具として使うのはあまりお勧めできないと考えます。

出口亮
出口亮

タムス市川リハビリテーション病院 病院長 
2010年東京医科歯科大学医学部卒業、帝京大学麻酔科学講座で麻酔、集中治療、ペインクリニック領域の臨床に従事
2020年より城東桐和会、タムス市川リハビリテーション 病院長。麻酔科専門医、医学博士。
手術麻酔、ペインクリニック、リハビリテーションが専門、また「痛みと睡眠」をテーマに臨床および基礎研究を行う。