「令和の渋谷」に本社を構える

もともと「IT企業の聖地」として知られていた渋谷。

一度はIT企業が他の地域に離れていく時期もあったが、いま渋谷に再び集結する動きが活発になっている。

その原動力となっているのが、東急不動産の主導する「渋谷の再開発」だ。駅周辺だけでなく、原宿、代官山など渋谷駅から半径2.5kmエリアを「広域渋谷圏」として、新たな渋谷の街づくりを行っている。

2019年に開業した「渋谷フクラス」に第2本社を構えたGMOインターネットグループも“聖地・渋谷”にこだわる大手IT企業だ。それを誘致したのも、東急不動産。

本来は土地に縛られないIT企業が、なぜ渋谷を目指すのか?

FNNプライムオンラインの清水俊宏が「『令和の渋谷』はどう変わるのか」を探るシリーズ企画の第2弾。東急不動産とGMOインターネットの担当者に、「渋谷に拠点があることの強み」や「オフィスがあることの本来の意味」などについて聞いた。(取材日:2020年3月11日)

左から 稲守貴久(GMO)、村西俊郎(東急不動産)、清水俊宏(フジテレビ)
左から 稲守貴久(GMO)、村西俊郎(東急不動産)、清水俊宏(フジテレビ)
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村西俊郎(東急不動産株式会社 都市事業ユニット事業戦略部 まちづくり共創グループ 課長補佐)

2007年東急不動産に入社し、渋谷の再開発事業や渋谷フクラスにおけるGMOインターネット株式会社を含む同エリアのオフィスビルリーシング業務を担当。2018年より現職である渋谷エリアのスタートアップエコシステム構築に向けてスタートアップ企業やベンチャーキャピタルとの協業を担当。

稲守貴久(GMOインターネット株式会社 次世代システム研究室 大阪研究開発グループ アシスタントマネージャー)

2006年にGMOインターネットに入社し、クリエイティブディレクターを担当。その後、GMOクリック証券でウェブマスターとして従事。2010年からはGMOインターネットの現部門でグループ会社や新規事業の技術支援を行いながら、技術PRや新卒エンジニア採用、育成に取り組んでいる。

【第1弾:「東急不動産社長の街づくり論」はこちら】

「渋谷で働く」という利点

ーー東急不動産が特にこだわっている「渋谷」の強みは何でしょうか?

村西(東急不動産):1つは交通アクセスの良さですね。実際に会いに行きやすいほどコミュニケーションを取るチャンスが多くなる。社内も社外も、色々な情報交換ができます。

その上で、多種多様な属性の方がいらっしゃるというのが、渋谷の大きな強みだと思っています。

稲守(GMOインターネット):渋谷区のコピーは「ちがいを ちからに 変える街。」なんですね。まさに多様性、色々な人がいて新しい価値を生み出していきましょうという空気がとてもある。

インターネットって、20年くらい前はよくわからないものと思われていたと思うんですよね。今はインターネットって空気のように当たり前で、なくなったらみんな困ってしまうものになったんですけど、渋谷という街は20年前も変わらず「インターネットウェルカムです」「いろんなものウェルカムです」と迎えてくれていたかなぁと思います。

村西:イノベーションを起こすには、“距離の遠い方”が混ざり合うのが1つの源泉になるんですよね。多種多様な方が交差していく渋谷の街の属性から大きなチャンスに結びつくことがあるかなと思います。

稲守:SNSなどで「今日夜飲める人?」みたいなノリで呼びかけたら、すぐに集まろうと動けるのは、メリットかなぁと思います。僕らが近くの同じIT企業のランチに行って意見交換したり、逆に来てもらって何かしたりということもあるので、やっぱり近くにいるメリットはとても大きいかなと。

たまたま僕が飲んでいたところに友達がふらっと入ってくるなんていうのはよくある光景で、そういうのは本当に渋谷の魅力なんじゃないかなぁと思っています。

ーー集まろうと思わなくても集まれるんですね。

稲守:自然と「お?お?いる?」みたいな。

村西:お店で情報交換みたいなこともありますし、私はスタートアップ企業の方とよくお付き合いするんですけれども、スタートアップ同士だけでなく、成功起業家とも交流があったりですとか、いろんな形で情報交換が昼も夜もできたりするのは、なかなか他の街ではないかなぁと思います。

ーー渋谷にスタートアップやGMOのような大きな会社が一緒に存在しているというのは、東急不動産として戦略で考えているんですか?

村西:そうですね。もともとIT企業が興って、成長していく街であったと思っていますし、これからもそういう側面はあると思っていますが、これまで渋谷フクラスのようなビルができるまでは、スタートアップが成長を遂げると、渋谷のオフィス不足を理由に、他の街に移っていってしまうという課題があったんです。

けれども、大きな建物をつくって、成長した企業に入っていただけるような街に渋谷は変貌しつつあるかなと思っています。

GMOさんのように創業時からいらっしゃって、どんどんステップアップしていって、こういった駅前のビルに入っていただくという、まさに成功の象徴のような企業がいらっしゃるというのは、街の魅力につながっていると思います。

GMOインターネットグループのうち13社が入居する「渋谷フクラス」
GMOインターネットグループのうち13社が入居する「渋谷フクラス」

稲守:スタートアップの人とコミュニケーションしていると、やっぱり彼らはとてもハングリーだし、僕自身もすごく刺激と新しいアイデアをもらえます。何より互いに技術力を切磋琢磨できるのは、本当に魅力かなと思っています。

ーー働く場所としての話を聞いてきましたが働き方という点で見ると、リモートワークの取り組みはいかがですか?

村西:弊社は、従業員に対して「いろんな場所で働いていいよ」と提案していて、街中にあるコワーキングスペースなど、家で働く人も自宅の近くでリモートワークできるような環境を整えています。

稲守:やっぱりリモートワークに向いている作業と向いていない作業があるなぁというのは見えてきました。

我々IT技術開発担当で言うと、すごく集中してやれることがメリットかなぁと思っています。

一方で、弊社の場合はリアルで会うことをとても重要視していて、社内のカフェスペースですれ違った時に「あの時の、あの話さぁ」といったコミュニケーションからコラボレーションが生まれているのですが、その部分に対してはデメリットあるのかなぁと思っているところですね。

村西:我々は昨年夏、渋谷に戻ってきたのですが、本社に来なくても働くことができるとなると、「だからこそ集まって働くことの意義ってなんだろう」と。不動産会社として何ができるのか、新しいオフィスで実践しているところです。

ーー渋谷に本社を置いて働き方を研究していらっしゃるとお聞きしましたが、渋谷の一等地のビルは、他社に貸したほうが儲かるのではないですか?

村西:そうなんです(笑) 不動産業で言うと、良いビルはお客さんに貸すのが基本なんです。

ですが、社会の流れを踏まえて不動産業のあり方も変わっていくと考えたときに、我々が先んじてそういったことを考えられる態勢や環境を作らないと、商売の源泉が失われていくと思っています。新しいことをどんどん自分たちに取り入れていくべきだろうと。

色々な方が色々な働き方をする状況がどんどん生まれてきていますので、そんな働き方を受け止められる街にならなければ生き残っていけないと思っています。

ビルとしても街としても色んな選択肢を設けたい。誰であっても「ここに来たい、これをしたい、こうありたい」ということが叶えられる選択肢を持った街が、許容性に繋がっていくんじゃないかと思っています。

働き方改革に取り組む東急不動産本社(渋谷ソラスタ)のオフィス
働き方改革に取り組む東急不動産本社(渋谷ソラスタ)のオフィス

これからの渋谷

ーー課題や今後やりたいことはありますか?

稲守:IT技術の開発者が足りないというのは日本全体と言われていますが、そこは我々も課題感を持っています。特に日本の課題としては高度IT人材が足りない。そのためにはどうしたらいいのか、我々が育てますということで、昨年末から「GMO Developers Night」という名前で、グループ内外のエンジニアを対象としたイベントを「渋谷フクラス」で開催しています。

いろんなエンジニアが集まって、ブレストをして、意見交換して、新しい何かコラボレーションが生まれないかなと。

皆さんとてもポジティブに参加していただいているので、やっぱりリアルで会うことのメリットはあるし、そこはうまく使い分けをしていきたいなぁと思うところです。

2019年12月に渋谷フクラスで開催した「GMO Developers Night」
2019年12月に渋谷フクラスで開催した「GMO Developers Night」

村西:私がやっているスタートアップのサポートで言うと、エンジニアをはじめとした人材がいないことが非常にボトルネックになっている部分があります。

我々としてもエンジニアないしはスタートアップの成長に資するような人が集まる場づくりをとにかくしたい。いまは「GUILD(ギルド)」という名称で渋谷にいる方と共に新しい価値を創造していく共創施設をいくつも手がけていて、エンジニアもそうですし、CTO人材、CXO人材みたいな方が共に切磋琢磨しあえるような場づくりを目指しています。

いろんな方がただ集まるだけではなくて、そこで何が行われているかを本気で考えていますので、同じ思いかなと感じています。

東急不動産が運営する「GUILD Dogenzaka(ギルド道玄坂)」
東急不動産が運営する「GUILD Dogenzaka(ギルド道玄坂)」

稲守:いわゆるBTC人材と言われている人ですね、ビジネス・テクノロジー・クリエイティブ。そこをできる人材は本当に足りないなぁと思っています。

2018年からは、GMOを含む渋谷に拠点を置くIT企業4社で「BIT VALLEY」プロジェクトという取り組みもしていて、若者に対して未来を見てもらって考えてもらいたいと思っています。そして、将来的な働き方の1つとして、我々のような働き方も考えてもらう。結果として日本全体の活力がどんどん上がっていったら本当にいいなと思っています。

ーー東急不動産が場所やビルを用意するだけではダメで、どういった価値創造ができるのかまでパッケージにした場づくりが必要なんですね。

村西:パッケージするにしても、一つ一つかなりオーダーメイドで作り込まなきゃいけないなと思っていますし、我々だけではそれがなかなかできないので、それを一緒にやってくれる仲間を渋谷の街にうまく呼び込んでいきたいと思っています。

いろんな方と話をしながら、「この人となら渋谷の街で何ができるだろう。どういう価値を東京に提供していけるだろう」と日々考えていますね。

ーーこれからの渋谷はすごく楽しみですね

村西:ぜひ期待していただければと思います。

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