議論される「二幹二国」の必要性

自公二幹二国(2021年11月)
自公二幹二国(2021年11月)
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かつて自民党と公明党の連立の象徴と見られていたのが「二幹二国」だ。自民党と公明党の幹事長と国会対策委員長が、国会開会中の毎週水曜日に朝食をともにしながら意見を交わす。2つの党の幹事長と国対委員長による会合なので、「二幹二国」(にかんにこく)と呼ばれている。以前は、都内のホテルオークラの「山里」で開催。この会合が両党にとっては重要な役割を担ってきた。

ただ、岸田政権が2021年10月に発足してからは定例化されておらず、年明けの1月14日、通常国会の召集以降に、この枠組みでの会合を定例化することを確認した。二幹二国を巡っては、毎週定例ではなく、案件や必要に応じて開催する形式でよいのではないか、という意見が自民党内にあり、調整が進められてきた経緯がある。

二階幹事長が見せた「心意気」

二幹二国が歴史的に果たしてきた役割について一言で語るのは難しい。官邸と党のパワーバランスや政治情勢による与野党の構図、またメンバー次第で、性質や役割もずいぶん違った。「週一回はお互いの顔を見て結束を確認しましょう」という象徴的意味合いが強い時もあれば、野党対策など国会運営を決める重要な場面もあった。定例の枠組みで議論が収まらない場合は、定例日以外に集まることもあったし、記者に見つからないように夜にこっそりと集まることもあった。

自民・二階幹事長(当時)公明・斉藤幹事長(当時)
自民・二階幹事長(当時)公明・斉藤幹事長(当時)

興味深いエピソードがある。自民党が二階俊博幹事長、カウンターパートの公明党の斉藤鉄夫幹事長という枠組みがスタートした時、二階という自民党の大重鎮を前に恐縮しきりな斉藤に、二階はこう語りかけた。

いつ何時でも、遠慮なく、なんでも言ってください

斉藤の緊張が少し和らいだ瞬間だった。ほどなくして、二階と長年の交流がある公明党の漆原良夫(元国対委員長)は「二階さんとちゃんと会って話してるのかい」と尋ねた。斉藤は「はい、朝の二幹二国でしっかり話をしていますので」と応じたが、漆原は表情を曇らせた。

定例で会っています、じゃなくて、今度一杯いかがですか?と、自分から誘わなきゃダメじゃないか

二階は、自民党の歴代幹事長の中でも、二幹二国の定例開催の重要性を主張し続けた一人だ。会合の形骸化を指摘する意見がちらほら出た時も、二階が一蹴した。公明党の国対委員長として「ねじれ国会」を経験した漆原も、安定した政権運営のためには、自公が一糸乱れぬ連携を維持することの大切さを理解していた。だから「遠慮なくなんでも言ってほしい」と斉藤に言った二階の心配りをよく理解していた。「公明党のような小さな政党が巨大な自民党と対等に話をするのはとても大変なこと。だから自分から懐に飛び込まないとダメなんだ」という考えを持つ漆原。そして、二階の考える方向性も同じだった。

自公が顔を合わせて会っているってことに意味があるんだ。話す内容はどうだっていい

実際、朝の会合では、森山国対委員長が実質的な進行役を務める中、早朝から対応するのが苦手な二階は出席はするものの、実務的な話は林幹事長代理が聞き置くことが多かった。ただ、「二階がその場にいる」ということこそが大切だった。

二階幹事長が公明党を“冷たくあしらった瞬間”

ところが、その二階も、大きく変化した。

2020年4月、新型コロナ感染が拡大している最中に、安倍政権では、国民への現金給付が大きな焦点になっていた。様々な給付案が乱立するなかで、安倍首相は、公明党が主張する「所得制限なしの10万円一律給付」を行うため、異例といえる補正予算案の組み替えの検討を指示した。「収入が基準以下の世帯へ30万円を給付」する案から、「国民一人当たり一律10万円を給付」する方向へかじを切ったのだが、これが自公に禍根を残した。

経緯としては、政府が経済対策の第1弾として準備した30万円給付案に対して「制度が複雑だ」という批判が沸き起こると、二階は、30万円給付のあとの第2弾として、「所得制限付きで一律10万円を給付」する案を突如ぶち上げた。これを聞いた公明党幹部は「二階さんのネコパンチの威力は凄まじい」と舌を巻いた一方で、自公の関係にしこりを作ることになる。

二幹二国で、二階さんから何の話もありませんでした

斉藤は公明党の山口代表にこう説明したが、公明党としては「自民党にしてやられた」と感じた。さらに、自民党は10万円に関する政府への申し入れを「自民党単独で行う」と主張したため、公明党の不信感は増すことになる。

そもそも10万円を主張していたのは公明党なのに

巻き返しを図ろうとする公明党は、この「二階案」に対して、「30万円給付の取り下げ、所得制限なし、予算の組み換え」で対抗しようとする。山口は安倍首相に電話で要望し、実現できなければ「予算案に賛成できないかもしれない」と迫った。

ところが、今度は自民党の怒りに火をつけた。

二階さんの顔に泥を塗るのか(自民党幹部)

最終的に安倍首相が公明党案を呑む形で決着したが、公明党幹部はため息交じりにこう話した。

今回のことで、二幹二国が何も機能していないことがよく分かった

二階さんが最近『公明党』とは言わなくなったんだよな

与党であっても政策の方向性が異なることは多々ある。その調整弁としての役割を果たしてきた二幹二国が機能不全に陥っているのではという疑念が、双方から噴出した。人と人との付き合いも一筋縄ではいかないが、20年を超える自公連立のなかで、双方の距離感が大きく変化していることは間違いないと言える。

安倍首相に詫びの電話

公明党・太田前代表
公明党・太田前代表

この給付を巡る自公のゴタゴタが続く中で、双方の間を取り持とうとしていた人物がいる。公明党の太田昭宏前代表だ。太田は、給付を巡って自公が「ガチンコ」でぶつかり合う姿はみっともないと考えたが、同時に、二階が公明党を跳ねのけて動き回る姿に「昔の自公ならあり得ない」と驚いた。ただ、自民党の幹部とやり取りを重ねるうちに、自公がぶつかる背景には、公明党の現執行部が自民党と「関係性を深めていないこと」が一因としてあることも理解していた。だから、二階の動きを公明党は「聞いていない」のではなく、「聞かされていない」ということを理解していた。太田は安倍首相に詫びの電話を入れた。

両党の幹事長のケミストリー

ただ、石破幹事長と井上幹事長時代は、「蜜月と言っていいような関係だった」(公明党関係者)。と話す。「朝の定例の二幹二国でも、二人がずっと話し込んでいる状態」(自民党幹部)で、自民党関係者は「2人とも理屈や理論が好きだからケミストリーが合ったのではないか」と解説する。

さらに遡ると、伊吹幹事長と北側幹事長時代は、全くと言っていいほどケミストリーが合わなかったようだ。京都選出の伊吹氏と大阪選出の北側氏。お互いを意識し合ったのか分からないが、互いが互いにやっていることが気に食わない様子だった。それでも、党内きっての「政策通」と言われる二人、しかも幹事長という重要ポストだから「気が重いなぁ」とぶつぶつ言いながらも意思疎通はマメに行っていた。馬が合わなくても大人の対応をする一つの例だ。

どうなる今後の二幹二国

今後、自公の関係はどうなっていくのか。茂木幹事長は“形式的な会合”を敬遠する。

「話す必要があれば、すぐ集まれるようにしておくことが大事だ」というのが基本的な考えだ。しかし、この通常国会では二幹二国を再び定例開催することで合意した。何かしら開催するメリットがあると考えているからだと思うが、一方の公明党は過去の苦い教訓を踏まえてどう対応していくのか。官僚出身の石井幹事長は、党内で「政治家というよりも官僚そのもの」という評価があり、話をしても面白みに欠けるとの指摘もあるが、将来の党代表候補と目されいているだけに、自公連携強化の要として手腕を発揮する必要がある。夏の参院選を前に、候補者の相互推薦を巡るさや当てなど、自公の関係がまた、ぎくしゃくしているようにも見える。双方の溝が顕在化してしまうと、二階や漆原がかつて懸念したように、野党に付け入る隙を与えることになる。定例会合という、否応でも顔を合わせる場を通じて、形式的でない関係、日頃から本音で話せる関係性に発展できるかもカギになる。

政権交代により民主党政権が誕生し、自民党が下野していた時代。当時の石原伸晃幹事長と井上幹事長が、夜の会食を終えて車に乗り込む直前に“抱擁する姿”をFNNは偶然キャッチした。あの当時も、自公の対応が割れて関係がややギクシャクしていた頃だった。あとになって、「あれは自公の結束は固いということを確認するために開催した会だった」と聞いた。あの光景をまた見る日は来るのだろうか。

(政治部官邸キャップ・鹿嶋豪心)

鹿嶋豪心
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フジテレビ 報道局 政治部 官邸担当キャップ

政治部
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