「イスラエルの安全」に不可欠な「中国の支援」
(イランの核開発をめぐる)ウィーン会議の合意をはかれるのは中国だけだ、と(イスラエルの諜報機関)モサド元長官が語る
イスラエルのニュースサイト「JNS」が12月16日に配信した記事の見出しを見て、胸のつかえが下りる思いがした。
この記事の画像(5枚)その記事によると、モサド元長官のエフライム・ヘイルビー氏はイスラエル・中国交流促進会議(SIGNAL)の年次総会で講演し、中国について次のように語った。
「イランはその経済のほとんどを中国に依存していると言っても過言ではない。中国は他の諸外国よりもイランに対して影響力を持つことは確かだ。今日、中国がウィーン会議に与える影響力は、かつて世界の安定のために中国が果たした重要な貢献のどれよりも大きな意味を持つだろう。」
つまりヘイルビー氏は、イランの核開発を阻止しイスラエルの安全をはかるためには中国の支援が不可欠だと言ったわけで、それがイスラエルでも情報の裏表を知りつくているモサドの元長官の発言となると説得力がある。
イスラエル外交の“したたかさ”
イスラエルは最近中国との接近を積極的にはかり、9月にはハイファ港に中国資本でコンテナターミナルが完成した。
イスラエルは、米国と最も絆の強い同盟国と言える。米国のユダヤ人が政治、経済的に大きな影響力を持つことから、1948年の第一次中東戦争以来イスラエルの存亡のかかった場面で米国は惜しみなく支援を繰り出してきた。
その米国が中国との対決姿勢を強めている時に、イスラエルが中国に接近するのが私の理解を越える「胸のつかえ」だったのだが、「イラン牽制のため」だと分かって理解できたのと同時に、イスラエル外交の“したたかさ”を改めて思い知らされた。
独自に行動する「余地」
米国は我々の同盟国だ、(だからと言って)中国は我々の敵ではない
イスラエルのエフード・オルメルト元首相は、イスラエルが中国に接近することについて米国で懸念の声が高まり始めた2021年9月2日に、英字紙「エルサレム・ポスト」電子版にこのような見出しの論評記事を投稿していた。
記事の中で元首相は、米国が中国の台頭を不安視するのは理解できるしイスラエルとしても同盟国として戦略的な支持を果たすことを約束するが、それでもイスラエルが独自に行動する「余地」が残されているとする。
その好例がイラン問題だ。オバマ政権やバイデン政権の米国はイランの核の脅威に対して我々が考えているような行動をとることは正当化できないとして、2015年の核合意のような協定を設けようとしている。
オルメルト元首相は、イスラエルの存続がかかっているような問題では同盟関係を離れても独自に行動する自由があるはずだと論じているのだが、これは正論ではあっても現実に実行するには相当な知恵と勇気が求められるだろう。
今、米国の同盟国の中には、米国に倣って北京五輪を政治的にボイコットすべきかどうか米国の顔色を伺いながら悩んでいる国があるようだが「我々にも独自に行動する余地があるはずだ」と言ってみてはどうだろうか。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】
追記(12月23日):内容を一部修正しました