新潟・長岡市与板地区で、500年に渡って作られてきた伝統工芸「越後与板打刃物」。
後継者不足により技術の継承に危機が迫る中、2020年に一人の若者が職人に弟子入りした。
修業開始から1年。順調に成長する一方、壁も立ちはだかっている。

300軒あった鍛冶屋が今は10人ほどに…

鉄を打つ音が響く長岡市与板地区の工場。

杉本一機キャスター:
今日この工場には地元の高校生が訪れています。地域の伝統産業である打刃物作りについて学びます

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職業について学ぶ総合学習の一環で訪れた地元の高校生が見つめる先で作られていたのは、「かんなの刃」。
500年の歴史を持つ与板の打刃物。「かんな」や「のみ」などの大工道具は、伊勢神宮でも使われるなど品質の高さから全国の大工に愛用され、国の伝統的工芸品に指定されている。

似鳥透さん:
鋼というやつを地金の上に乗せたが、こっちが実際に刃物になる方。こっちはただの柔らかい鉄。それにくっつける

高校生にかんな作り、そして打刃物の魅力を熱く伝える似鳥透さん。

似鳥透さん:
1年経ってかんなの作り方は一通りわかるようになったし、いい経験になった

多い時には300軒の鍛冶屋が軒を連ねたものの、今では10人ほどにまで職人が減った与板の打刃物。

深刻な後継者不足の中、伝統を守ろうと2020年に職人の有志が、国や市の補助金を活用して始めた弟子の募集。応募してきたのが、北海道出身で海外青年協力隊員などを務めてきた似鳥さんだった。

ものづくりの世界に惹かれて与板に移住し、ベテランかんな職人・水野清介さんのもとに弟子入りした似鳥さん。一人前になるまでに通常20年かかるとも言われる中、水野さんの付きっ切りの指導の下、5年間で独り立ちすることを目指すが…

かんな職人・水野清介さん(2020年時):
今叩いたときに、ここだけ黒くなったじゃん?

似鳥透さん(2020年時):
なりました?見えなかった

かんな職人・水野清介さん(2020年時):
ってことは、ここばかり打っているってことなんだよ

修業開始当初は、初めてのかんな作りに苦戦していた。
あれから1年。当初下宿していた水野さんの自宅から今は県営住宅に移り、一人暮らしをする似鳥さん。

(Q.似鳥さんにとって与板の町は?)
似鳥透さん:

生活しやすい

与板での生活はすっかり馴染んだよう。では肝心のかんな作りはというと…。多少のぎこちなさはまだ残るものの、一通りの作業を1人でこなせるようになった。そのかんなの出来に師匠の水野さんも…

かんな職人・水野清介さん:
まぁまぁ、いいんじゃない

杉本一機キャスター:
高評価ということで?

かんな職人・水野清介さん:
“今回は”良かったんじゃない

似鳥透さん:
ふふふ

修業開始当初に作った刃と比べてみると、確かに差が表れている。初期の刃で見られた表側の反りが、最近の刃では抑えられている。

(Q.細かいですね?)
似鳥透さん:

細かいです。変な叩き方すると、どっちかだけが反ったりゆがんだりするので

この細かい差が、かんなを使う大工にとって大きな違いになるという。

かんな職人・水野清介さん:
台に入れたときに先っぽが隙間が空いてしまう。そうすると空間ができて、がたがたしてしまう。削っているのが数ミクロンの世界じゃないですか、それが動いただけでもだいぶ違う

「商品」として卸せるまで成長

一歩一歩成長する中、うれしいことがあった。この日、似鳥さんが自分で作ったかんなの刃を持って向かったのは、大工道具などを職人から仕入れ、全国の小売店に卸す問屋。

似鳥透さん:
裏の研ぎ具合はこんな形で?

石弘・石黒勝久社長:
裏はだいぶ良くなった。これだったらいいね

修業開始から1年が経ち、自分のかんなを仕入れてもらえることになった。

石弘・石黒勝久社長:
商品として通じる形になってきていますね、あとは切れ味をもっと追及してもらいたい。打刃物の世界で若い人が頑張ってくれているのは非常にうれしいんで、応援したい

似鳥透さん:
うれしいですね。買ってもらえないと作れないので

まだまだ単価は低いが、今後使用する大工からの評価が上がれば価値も上がっていくという。

長い時間がかかる修業

ここまで順調に進んできた似鳥さんの修業。
しかし、大きな問題も。

かんな職人・水野清介さん:
一応、国には5年間という申請は出したんだけど、突然1年で打切りっていうのがあって。これからはもう俺の稼ぎでやってくしかない

修業開始にあたり、指導の時間を確保するため自身の受注を減らしてきた水野さんは、減収分を補填する経産省の補助金を受給していた。

この補助金について、2020年から5年間の受給を見込んでいたが、予算の都合などもあり2021年は採択されなかった。そのため工場の存続に向け、再び水野さんの受注を増やす必要があり、似鳥さんへの指導時間の確保が簡単ではなくなっている。

かんな職人・水野清介さん:
機械が1つしかないんで、どっちかが使うとどっちかが使えない。似鳥に「やめろ」っていうわけにはいかないし

今は水野さんが休日を返上し、なんとか自らの仕事と修業との両立を図っている。
5年での独り立ちという、ただでさえ簡単ではない目標。さらに厳しい環境となる中似鳥さんにとって、無駄にできる時間はない。

似鳥透さん:
適当に過ごしてしまったら、5年…あと4年はあっという間に過ぎてしまう。この技術を途絶えさせてしまうのはもったいないので、そこは続けていけるように頑張っていきたい

立ちはだかる壁を乗り越え、伝統の継承へ。地域の期待を背負う師匠と弟子二人三脚の修業は続く。

【取材後記】
歴史ある寺社仏閣の修繕など、今も与板の打刃物は日本の伝統建築を支えています。
長い時間をかけて職人が培ってきたこうした貴重な技術。
しかし、「需要が減る中、後継者が見つからず大事な技術が途絶えてしまうかもしれない」…こうした声は、ほかの多くの伝統産業に関する取材現場でも耳にしてきました。

今回、まだまだやれるにもかかわらず自身の仕事を減らして、弟子に技術を引き継ぐ決断をした水野さん。
その大きな期待を背負い北海道から移住し、5年という期限を定め技術を学ぶ似鳥さん。
そして2人の修業を支える地域の人たち。
国の補助金やクラウドファンディングなどを活用したり、活用できなかったりしながら、試行錯誤する師弟の挑戦を見ていくことで、多くの伝統産業の今後に繋がるヒントが見えてくるのではないかと考えています。

(NST新潟総合テレビ・杉本一機キャスター)

杉本一機
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