米好景気を支えたFRB議長を再任
バイデン米政権の重要政策に“トランプ化”が目立ち始めた。
まず11月22日、バイデン大統領は米連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長の再任を発表した。

パウエル議長は、トランプ前大統領に任命され、金融緩和を促進しトランプ時代の米国の好景気を支えたと言われている。
その一方で、民主党左派はパウエル議長の金融政策は米国社会の格差拡大をもたらしたと批判しており、エリザベス・ウォーレン上院議員(マサチューセッツ州選出)は、パウエル議長を「危険人物」呼ばわりして再任に反対していた。
それにもかかわらず議長を再任したバイデン大統領は、その理由を次のように述べた。
「米国経済を力強い回復軌道に載せるのにジェイ(パウエル議長の愛称)は確実で果敢な指導力を一貫して発揮してきた。(中略)インフレの脅威に対処しつつ、最大限の雇用を実現し、米経済の回復を完遂させるのにジェイは適任者だと私は信じている。」

これを言い換えると「トランプ時代の成功者に、経済の立て直しを任せる」ということではないのか。
トランプ時代の移民政策が復活
次に米政府は、トランプ前大統領が導入し、バイデン大統領が撤回した移民政策「メキシコ待機」政策を再開すると2日発表した。
この政策は、米国移住希望の移民を申請手続きを行う間メキシコ側に待機させるというものだが、バイデン大統領は移民たちが置かれる環境が非人道的だと大統領就任直後に大統領令で撤回していた。

その結果移民たちが米国国境へ殺到することになり、テキサスなど国境州が「撤回の撤回」を求めた裁判で勝訴し、連邦最高裁もそれを支持したため再開したものだが、それについて英BBCの3日の解説記事はこう分析している。
移民たちが米国国境へ殺到している現状と、それによるバイデン大統領の支持率への影響を考えると、米政府は喜んで裁判所の判断に従い『メキシコ待機』を再開させるようだ。
ある意味で裁判所の判断は、バイデン政権がトランプ前政権の政策を踏襲するのに“渡りに船”だったようだ。
アフリカ8カ国からの渡航制限
さらに、バイデン政権は新型コロナウイルスの「オミクロン株」の感染拡大防止策として11月26日、南アフリカ共和国やジンバブエなどアフリカの8カ国からの渡航制限を発表した。
日本をはじめイスラエルなどが全外国人の入国を制限しているときに当然とも思える措置だが、実はバイデン大統領は大統領候補時代の2020年2月、トランプ前大統領がコロナウイルス感染防止のために中国からの渡航制限を発表したときに前大統領を「外国人嫌い」と非難していた。
バイデン大統領のツイッター(2020年2月):
「我々はコロナウイルスによる危機の真っ只中にある。これは科学で解決しなければならない問題で、ドナルド・トランプのヒステリーや外国人嫌い、それに恐怖の扇動に左右されてはいけない。彼は米国を世界的な健康問題の危機に対処させるためには最悪の指導者だ」
We are in the midst of a crisis with the coronavirus. We need to lead the way with science — not Donald Trump’s record of hysteria, xenophobia, and fear-mongering. He is the worst possible person to lead our country through a global health emergency.
— Joe Biden (@JoeBiden) February 1, 2020
当時このようにツイートしていたのだが、今回自らがその「外国人嫌い」の政策を実施する羽目に陥ってしまった。
こうして、バイデン大統領は直面する重要な政策課題の「インフレ対策」「移民問題」それに「新型コロナウイルス対策」で、言ってみれば“トランプ化”を進めているようなことになった。
それが「正しい政策」である限りは問題ないようにも思えるが、2022年の中間選挙を控えて共和党との対立の構図や、民主党内での意思統一に影響を及ぼすことも考えられるので、今後の成り行きに注目すべきだろう。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】