「無罪評決」の可能性

黒人問題をめぐる殺人事件の裁判で無罪評決になる可能性が出てきため、暴動に備え全米で厳戒態勢が敷かれている。

この裁判は、2020年8月25日ウィスコンシン州ケノーシャで黒人問題の抗議デモが行われていた際、デモ隊の2人が銃で殺害され1人が重傷を負った事件をめぐるもので、事件の翌日逮捕された当時17歳の少年カイル・リッテンハウス被告を計画的殺人を犯した第一級殺人罪などで審理していた。

10日の裁判(ウィスコンシン州ケノーシャ)
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カイル・リッテンハウス被告

リッテンハウス被告はかねて警察に関心を示し、この時はデモ隊によって放火されたり店が略奪されるのを防ぐために現場で警戒に当たっていたといい、身を守るためにAR-15型自動小銃を持っていたことを認めた。

こうしたことから検察側は、リッテンハウス被告が不法な自警行為で殺人を犯したと追及してきたが、その証人喚問では起訴事実と矛盾する問題が明らかにされてきた。

デモの様子(ウィスコンシン州ケノーシャ・2020年8月25日)
武装した市民やデモ参加者の姿も
炎上した車両
警察とデモ隊が対峙

発砲は“正当防衛”だったのか

まず当時のさまざまなビデオから、リッテンハウス被告はデモ隊に追いかけられており数人に押し倒されて殴られていたことが分かった。その1人が同被告の銃を奪おうとして銃身を握った時に射殺されていたのだ。

また、もう1人はスケートボードを振りかざし銃を奪おうと襲った時に被告に発砲され死亡していた。

さらに、重傷を負った人物は当時拳銃を持っていて、リッテンハウス被告に向けて銃口を向けた時に撃たれたことを法廷で証言した。

こうしたことから、リッテンハウス被告が発砲したのは正当防衛ではなかったかという疑いが強まり、さらにあわてた検察側が証拠採用されなかった問題を証人調べで持ち出して裁判官に叱責されるということもあって、審理は被告に有利な状況で12日結審し、15日に検察の最終論告と弁護側の最終弁論が行われる運びになった。

またここへきて検察側は、陪審員に第一級殺人より下位の罪状での判断も認めるという申し立てを行い、このままでは無罪か審理無効になるのではないかという観測がSNS上で広がっている。

被告人質問中に泣き崩れたリッテンハウス被告(10日)

判決は15日以降 暴動のおそれも

この事件の発端になった抗議デモは、黒人男性が警官に背後から銃撃されて重傷を負った事件に抗議したもので、この裁判も人種問題に関わるものと考えられて関心を集めていた。

そこでこの裁判が無罪となると、かつてロサンゼルスで黒人に暴行を加えた警察官が無罪になったのに抗議したデモが、暴動に広がったようなことにならないか懸念が広がっている。

地元のケノーシャでは警察だけでは安心できないので、ウイスコンシン州が州兵500人を15日から動員して警備にあたらせているほか、他の地域への飛び火も心配されるので、シカゴの警察は警察官の休暇を取り消して待機させた。このほかロサンゼルスやワシントンDC、オレゴン州のポートランドなど黒人問題で暴動があった都市の警察も、厳戒態勢に入っているという。

判決は15日(現地時間)以降に言い渡される予定だ。
 

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】