ニューヨーク・タイムズ紙とワシントン・ポスト紙は、ロシア疑惑問題で受賞したピュリツァー賞を返上すべき時なのではないか。

5日、保守系の新聞『ワシントン・エグザミナー』電子版に、こんな刺激的な見出しの論評記事が掲載された。

筆者は同紙編集委員のベッカー・アダムス氏。トランプ前大統領が在任中、当時の野党・民主党や民主党支持の主要マスコミが追及したいわゆる「ロシア疑惑」問題をめぐって、その情報源とされたロシア人が逮捕され、ことの真偽が危ぶまれる事態になっていると指摘する。その上で、この問題で米国ジャーナリズムで最も名誉のあるピュリツァー賞を受賞した両社は賞を返上すべきだと主張する。

ピュリツァー賞公式HPより
ピュリツァー賞公式HPより
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疑惑のロシア人が虚偽供述疑いで逮捕・起訴

この問題の捜査を続けているジョン・ダーラム特別検察官は4日、ロシア人のイゴール・ダンシェンコ容疑者が連邦捜査局(FBI)に対する虚偽の供述を行った容疑で逮捕・起訴されたことを明らかにした。

米司法省の広報文(米司法省HPより)
米司法省の広報文(米司法省HPより)
起訴状の一部(米司法省HPより)
起訴状の一部(米司法省HPより)

起訴状によると同容疑者は、トランプ前大統領がモスクワで不純な行為をしたのをロシア当局に知られロシアの意のままに操られているとした、いわゆる「スティール文書」の情報源と疑われているが、この問題でFBIの捜査を受けた時に虚偽の供述をしたという。

損なわれた「スティール文書」の信憑性

「スティール文書」は、元英国情報員のクリストファー・スティール氏が民主党やヒラリー・クリントン陣営の法律事務所から調査会社「フュージョンGPS」を通じて依頼を受け、トランプ前大統領のロシアとの関係を調査した文書で、2016年11月の大統領選前にFBIやマスコミに流されてトランプ陣営の選挙戦に不利な材料となった。

トランプ氏が当選した後もこの疑念は解消されず、ロバート・ムラー特別検察官が任命されて捜査を続け、2年後に報告書を提出して終息したが、ことの真相は明らかにされなかった。

そこで、トランプ前大統領が改めてダーラム氏を特別検察官に任命して捜査を行っているものだが、情報源の人物が虚偽の供述容疑で逮捕・起訴されたことで「スティール文書」の信憑性は根本的に損なわれたと言える。

ピュリツァー賞返上?

この間、米国の主要マスコミは「スティール文書」を前提にトランプ前大統領の「ロシア疑惑」の追及を続け、2018年ニューヨーク・タイムズ紙とワシントン・ポスト紙は次のような理由でピュリツァー賞を受賞した。

2016年の大統領選におけるロシアの干渉と、トランプ陣営、次期大統領の政権移行チーム、そして最終的な政権とのつながりについて、深い情報源と執拗なまでに報じた公益性の高い報道で国民の理解を劇的に深めた。

トランプ前大統領
トランプ前大統領

しかし、ロシアとトランプ氏との「つながり」を証言した人物が虚偽の供述容疑で逮捕・起訴された今、ピュリツァー賞受賞の根拠もなくなったので賞を返上すべきだという声が保守派の中で高まっている。

誤報であったことが明らかになり、ピュリツァー賞を返上した例は過去にもないわけではない。

はたしてニューヨーク・タイムズ紙とワシントン・ポスト紙はどうする?
 

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。