トランプ前大統領に対するいわゆる“ロシア疑惑”をめぐり、虚偽の証言をした罪でヒラリー・クリントン選対の弁護士が起訴され、この問題の追及が5年を経て本格的にはじまった。

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FBIに虚偽証言 クリントン陣営弁護士を起訴

起訴されたのは、5年前の大統領選挙当時、クリントン氏の選挙対策本部の弁護士をしていたマイケル・サスマン容疑者で、9月16日に連邦大陪審から起訴され、全27ページの起訴状がウェブ上に公開された。

その起訴状によると、罪名は「合衆国法典第18編1001(a)(2) (虚偽の証言)」で、罪状について次のように述べている。

2016年10月下旬頃ー2016年の大統領選挙の約1週間前、ドナルド・トランプが所有するトランプ・オーガニゼーションと特定のロシアの銀行との間に秘密の情報回路とされるものがあるという疑惑について政府機関が訴えを受けて捜査をしていると、複数メディアが報じた。

米司法省が公開した起訴状(米司法省HPより)
米司法省が公開した起訴状(米司法省HPより)

その一つで、米国の大手新聞に掲載された記事によると、情報当局はトランプ・オーガニゼーションとロシアの銀行の間の謎のコンピューター間の通信回路があると、インターネット利用問題の専門家が指摘する情報を掌握している。

また、連邦捜査局(FBI)は、トランプ・オーガニゼーションのサーバーに送信された奇妙な情報の流れを示すコンピューターのデータについて数週間をかけて調査しており、さらに大手新聞が得たコンピューターの記録では、ロシア銀行とトランプ関連のサーバーの間で、その年の春以来2700回以上に及ぶやりとりが交わされていたとする。

別の記事によると、この情報は氏名不詳のコンピューター研究者が、俗名「Tea Leaves」というソフトを使って集めたものだという。

事実、FBIは、有力な弁護士事務所に所属するマイケル・サスマンとの面会の後、この疑念について捜査を始めていた。
サスマンはFBIとの面会を求め、2016年9月19日ワシントンのFBI本部でFBIの法務部長に3種類の事実を述べた書類と、秘密通信回路の存在を証明するというデータ・ファイルを提出した。

FBI本部(米・ワシントン)
FBI本部(米・ワシントン)

この面会でサスマンは、彼がどのような資格でこの問題を提起しているかについて嘘をついた。
具体的には、サスマンは前述の疑惑について“特定の顧客”のために働いているわけではないと述べ、FBIの法務部長はサスマンが弁護士業務や政治的調査員としてではなく、善意の一般市民として情報を提供しているものと受け止めた。

しかしながら、この問題を追求する過程で、サスマンは米国のインターネット企業の役員とヒラリー・クリントン大統領選挙対策本部を顧客としていたにもかかわらず、故意にこの事実を隠しFBIの判断を誤らせたことが明らかになった。

大手マスコミにも“偽情報”提供

時を経ずしてFBIはその判断を正したようで、起訴状はこう続けている。

FBIは捜査の結果、ロシア銀行との間の秘密の通信回路の存在を証明するに足る証拠はないと判断した。それだけでなく、トランプ・オーガニゼーションで使われたとするサーバーは、大手のメールサーバー企業のもので、トランプ・ホテルの業務などに利用されるものだった。

トランプ前大統領(ニューヨーク・9月11日)
トランプ前大統領(ニューヨーク・9月11日)

つまりサスマン容疑者は、トランプ陣営がロシアの銀行を通じてロシア当局との間で秘密の通信を行っているという話をFBIに持ち込んだのだが、それが事実無根であるだけでなくクリントン選対を顧客にしていたことを隠していたことで罪に問われたのだった。

実はサスマン容疑者は、FBIだけでなくマスコミにも偽の情報を持ち込んでおり、起訴状はサスマン容疑者が大手新聞の記者に会い、その結果、10月31日にロシア銀行疑惑の記事になり、その手数料を「秘密プロジェクトに関わる秘密会合」としてクリントン選対に請求していたことを明らかにしている。

この大手新聞の記事とは、ニューヨーク・タイムズ紙10月31日の「FBIはトランプのロシアとの関係を明らかにできず」という否定的な報道と見られるが、同日、進歩派のニュースサイト「スレート」は「トランプのサーバーはロシアと交信していたのか?」と懐疑的に伝えた。

それは、2016年の大統領選投票日の9日前のことで、翌日ヒラリー・クリントン候補は「スレート」を引用して「トランプはロシアとの関係に関わる疑惑に応える時が来た」とツイートして選挙に利用していた。

今回の起訴は、トランプ政権時代に特別検察官に任命されたジョン・ダーラム氏が捜査を続け、サスマン容疑者に関わる「虚偽証言」の公訴時効が5年と迫っていたので訴追したもので、今後はいわゆる“ロシア疑惑”の核心に触れる問題に追及が及ぶことが注目されている。

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。