ある条件で色彩が変わる「盃」が話題

3月も半ばを過ぎ、穏やかな春の日差しが降り注ぐことも多くなった。

東京では14日に桜の開花宣言がされ、例年であれば花見に繰り出すには絶好の季節が到来しつつある。

だが今年は、新型コロナウイルスの影響でそのような場所にも出かけにくいところ。桜の下で開かれる宴会について東京都が自粛要請するなど感染拡大のリスクがある現状では気が引けてしまうだろう。

こうした状況もあってか、自宅で桜を楽しめる「陶磁器」がTwitterで注目を集めている。
 

一見すると枯れ木のようにも見えるが...
一見すると枯れ木のようにも見えるが...
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その陶磁器の正体とは、お酒を飲むために用いられる「盃」。

一見すると、枯れ木が描かれているように見えるが...。液体が注がれた瞬間、盃にピンク色が広がっていく! 描かれた枝葉の隅々まで色づき、まさに桜の花が開いたかのように姿を変えてしまった
 

液体を注ぐとその姿は一変!
液体を注ぐとその姿は一変!

まるで魔法がかかったかのような変化に、Twitterユーザーからは「桜満開」「素晴らしい」といった反応や、「どういうしかけ?」などと驚きの声が多数寄せられている。

ユーザーが疑問に思うのはもっともで、確かにその仕組みは画像を見ただけではよくわからない。なぜ、液体を注ぐだけで変化したのだろう。そして、どのように作られているのだろうか。

この盃を製造・販売する、岐阜県多治見市の「丸モ高木陶器」の社長、高木正治さんが取材に応じてくれた。
 

温度が17度以下で「満開の桜」に

――この陶磁器はどんな商品なの?

2020年2月1日に発売した陶磁器の盃で、商品名を「冷感桜 白平盃」といいます。特殊加工により、本体の温度が17度以下になるとピンクに色づく仕掛けを施しています。お酒などの冷たい飲み物を注いだとき、満開の桜が咲いている光景を表現できればと開発しました。


――ピンクに色づく仕組みをもう少し詳しく教えて

色彩が変わる仕組みは企業秘密のため、詳細は明かせません。ただ、温度で色彩が変わる顔料などの特殊素材を使用することで、一部分だけが反応するようにしています。
 


――開発の過程でこだわった点などはある?

職人が手作業で製作していること、専用の窯を新たに作って焼いていることですね。
陶磁器は通常、約800度に熱した窯で色彩や絵を焼き付けます。ですが「冷感桜 白平盃」は使用素材の違いなどにより、通常の温度の窯では思うように発色しませんでした。

そこで専用の窯を作り、温度や焼成時間(高温で加熱する時間)の試行錯誤を繰り返して、絵の焼き付けと温度変化での色彩の変化を、両立できるようにしました。

このほかシビアな工夫も多いので、通常の盃と比べると約2倍の手間がかかりますね。
 

温度変化で楽しめる作品があってもいい

――温度変化で色が変わる陶器は、これが初めて?

シリーズとしては、2019年春に発売した「温感盃」シリーズが最初です。こちらは温かい飲み物を注ぐなどして本体が45度以上になると、描かれた黒いシルエットが違う柄に変わります。
 

これが「温感盃」。黒一色に見えるが...
これが「温感盃」。黒一色に見えるが...
45度以上になると、鮮やかな色彩に変化する
45度以上になると、鮮やかな色彩に変化する


――なぜ、このようなシリーズを開発しようと考えた?

もともと「温度をデザインにしたい」というコンセプトを持っていて、2018年の秋ごろから構想を進めてきました。陶磁器業界は長らく、大きさや重さといった要素で価値を区別する時代が続いていたので、温度変化が楽しめる作品があってもいいのでは?と考えました

また、高齢者らが熱いお茶などでやけどする様子をよく見ていたので、飲み物の熱さを可視化できる陶器があれば、そうした事故の予防にもつながると思いました。


――温度変化ではないもので、面白い陶磁器の作品はある?

当社が製造・販売するもので、二つをご紹介できます。

一つは、陶磁器内部の水圧と空気圧から生まれる音を活用した「サウンドシリーズ」です。本体に小さな穴を開けたり、形状を工夫することで、小鳥のさえずりを表現しました。傾けて注いだり飲んだりする度に「ぴよぴよ」と音が鳴る、楽しい陶磁器です。
 

サウンドシリーズの「徳利」と「盃」。注いだり、特定の位置から飲むと音が鳴る
サウンドシリーズの「徳利」と「盃」。注いだり、特定の位置から飲むと音が鳴る


もう一つは、陶磁器の底に富士桜などの絵を描いた「浮絵盃」です。底部にはレンズがはめ込まれていて普段は見えませんが、液体を注ぐとレンズの焦点が合い、絵が浮かびます。
 

こちらは「浮絵盃」。普段(左)は見えないが、液体を注ぐ(右)と絵が浮かぶ
こちらは「浮絵盃」。普段(左)は見えないが、液体を注ぐ(右)と絵が浮かぶ


――なぜ、このような製品を作っている?

多治見市はもともと“盃のまち”として有名で、サウンドシリーズや浮絵盃につながる技術・発想も古くからあったものです。昔は娯楽が少なかったので、お酒を楽しく飲めるような技術やアイデアを生かした作品が作られていたんですね。

ですが、そのような陶磁器が作られることも近ごろは少なくなりました。そこで、昔の技術・発想を生かしたものを今の時代に作れば、技術などの再評価につながると考えたのです。
 

“手のひらに咲く満開の桜”を楽しんで

――「冷感桜 白平盃」はどのように使うのがおすすめ?

桜ということもあり、花見の時期に使っていただくのがふさわしいと思います。
祝宴での乾杯に使用してもいいですし、歓送迎会の贈り物としてもお勧めです。桜は日本のシンボルでもあるので、海外向けのお土産としても喜ばれるのではないでしょうか。


――ネットで話題を集めたことについて、思うことはある?

おかげさまで、全国からご注文をいただいています。手作業のために大量生産が難しく、1カ月はお待ちいただくことになりそうです。温度変化で色彩が変わる技術は、ガラス製品などにも応用できるので、日本の季節の魅力を広げて行ければと思います。


「冷感桜 白平盃」は二枚一組のペアセットで、価格は3,300円(税込)。丸モ高木陶器のネットショップで注文できるが、入荷待ちとなる可能性もあるという。

新型コロナウイルスの影響で外出もしづらく、ストレスが溜まってきている人もいるはず。今年は盃に浮かぶ桜を見る形で、花見酒を楽しむのも一つの方法かもしれない。

(画像:丸モ高木陶器)

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。