「白人女性行方不明症候群」という言葉を最近米国のネット上でよく目にする。

白人の若い女性が行方不明になるとマスコミが大きく取り上げる一方で、非白人の、あるいは若くない、それとも男性が行方不明になった場合には無視したり、良くても扱いが小さいことを指す言葉だ。

ほとんど報じられなかったヒスパニック系女性の死

フロリダ州オレンジ郡の保安官事務所は3日、同郡内のアパートを捜索して行方不明になっているミヤ・マルカノさんと思われる遺体を発見したと発表した。

マルカノさんはヒスパニック系の19歳のバレンシア大学の学生だったが、9月24日以来行方が分からなくなっていた。保安官事務所はその後、マルカノさんのアパートの工事担当のアルマンド・カバレロ作業員を容疑者として捜査中に同作業員が自殺し、スマホの記録からアパートを特定して遺体を発見したという事件で、これまで米国の主要マスコミで報じられることはほとんどなく、遺体発見のニュースもテレビの全国ニュースでは30秒ほど触れられたに過ぎない。

大きく報じられた白人女性の死

その代わりに3大ネットワークをはじめ有力マスコミは、同じフロリダ州で起きた若い白人女性ギャビイ・ペティートさんの行方不明事件については連日大きく報じていた。

ペティートさんは22歳で、婚約者のブライアン・ランドリー参考人と大陸横断の旅に出た後、家族との連絡が絶え、その後ランドリー参考人が1人でフロリダ州の実家へ帰ってきたというもので、警察が事情聴取中にランドリー容疑者は行方をくらましましたが、9月19日ワイオミング州の森の中でペティートさんの遺体が発見されたというもの。

こうした事件の展開を、ニューヨークの大衆紙「ニューヨーク・ポスト」は一週間に3回も一面トップの扱いで伝え、ニューヨーク・タイムズ紙も「速報」で扱い、ワシントン・ポスト紙、全国紙のUSAトゥデー、テレビのABC、CBS、NBC、CNNのニュース。バズフィードなどネットのニュースサイトは勿論トップ記事として取り上げた。

ニューヨークの大衆紙「ニューヨーク・ポスト」はこの事件を大きく報じた(画像:ニューヨークポストより)
ニューヨークの大衆紙「ニューヨーク・ポスト」はこの事件を大きく報じた(画像:ニューヨークポストより)
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「国中の、特に我々の読者を夢中にさせるこのような話題は一面で伝える価値があると思います」

ニューヨーク・ポスト紙の広報担当者はこう弁明しているが、ティックトック上の#gabbypetitoの投稿は8億回以上閲覧されているという事実が、この弁明を裏付けているとも言える。

失踪者と人々の関心について専門家の見解

こうした失踪者と人々の関心について、カリフォルニア州立大学サクラメント校で犯罪とメディア問題の研究をするダニエル・サルコフ助教授はニューヨーク・タイムズ紙にこう語っている。

「白人の犠牲者は比較的安全な環境にいると考えられるので、事件が起きるとショックなのかもしれない。逆に黒人やラテン系の犠牲者はもともと危険な環境にいると思われているのである種驚かれないとも考えられる」

根底にあるのは人種差別

しかし、その根底にはやはり人種偏見があるという見方が根強い。

その急先鋒と言われたのがMSNBC放送のキャスターで自身もアフリカ系アメリカ人のジョイ・リードさん。テレビでペティートさんのニュースばかりが取り上げられることについて再三苦言を呈していた。

しかし、マルカノさんの遺体が発見された日、保守系のワシントン・エグザミナー紙電子版の論評欄に「彼女は有色人種のマルカノさんの失踪事件については全く取り上げていない」と指摘された。

「白人女性行方不明症候群」は、人種を問わず感染する病のようだ。

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。