“迷走答弁”の北村大臣VS番記者 会見でのやりとり詳細
“大臣の資質”。これまで国会で幾度となく言及されたこの言葉をめぐり、また新たにターゲットとなっている大臣がいる。内閣府特命大臣である北村誠吾地方創生相だ。
2月7日の衆議院予算委員会では、「桜を見る会」に関連する公文書管理についての北村大臣の答弁が不十分だとして野党が猛反発。一部の委員が退席した結果、そのまま審議が終了する大荒れの展開となった。
またこれに先立ち、7日の午前中に行われた閣議後の記者会見でも、私たち番記者との間で激しいやりとりが繰り広げられた。通常、北村大臣の会見は、比較的短く終わることが多い。大臣から発表事項を話し、記者からの質問も2、3問で終わる。ところが、この日は一転、20分近くにも及ぶ会見となった。冒頭に自身の出張予定について述べた後は、「桜を見る会」の推薦者名簿を内閣府が国会に提出する際に、部署名を消す「白塗り」が行われたことに関連した自身の国会答弁についてのやりとりが続いた。以下にその一部を紹介する。
記者:
いわゆる白塗り文書について(中略)公文書が適正に管理されていたかどうか説明する責任があると思うが?
北村誠吾地方創生相:
公文書管理を所管する立場にある私からのコメントは控えたいが、あえて申し上げれば、一般論としては、国の行政事務を遂行する中で、ある行政文書に記録されている内容を修正して、別の行政文書を新たに作成し、それらが別のものであることをわかるように保存しておくことは、ありうるものと考えている
記者:
新しく作成したものにおいて白塗りを施したので、決裁文書改ざんではないから、公文書管理法の改ざんとは関係ないということか?
北村誠吾地方創生相:
本件は国会への説明が不足していたという問題であると認識しており、公文書管理法との関係では、ある文書を修正して別の文書を新たに作成したことになるので、公文書管理法のそれぞれの規定との関係で問題が生じるとは考えていない
北村大臣が認めた「勉強不足」
このように、やりとりは今ひとつかみ合わない。そして、いつもは淡々と事務方が用意したメモに目線を落とし、安全運転にすることが多い北村大臣だが、この日は珍しく、やや語気を強める場面もあった。
記者:
白塗り文書は、別の公文書から新たに作成した文書であるから、公文書管理法上の改ざんではないということを言いたいのか?
北村誠吾地方創生相:
だから、あなたは白塗りにしたことが、改ざんと言えるのじゃないかと、いうふうにお尋ねなんですね?(※中略)ある文書を修正して別の文書を新たに作成したことになるので、公文書管理法のそれぞれの規定との関係では、問題が生じると私は考えていないと。新しい文書を作ったのですということ
記者:
昨日の国会でも、このように答弁されたらよろしかったじゃないかなと思うが、なぜ昨日の国会では、このように答弁されなかったのか?
北村誠吾地方創生相:
私はほぼ、今の答弁に限りなく近い答弁をするつもりであったし、したつもりであった。ただ、お聞きになる方々によって、委員会の部屋でもそれぞれいろいろな音もあり、いろんな聞こえ方があったんじゃないかなあと思ったり、少し悲しい思いをしている
北村大臣は、自身の答弁が迷走したのは、物音がしたので伝えたいことが伝わらなかった結果だと主張した。私も何度も実際に予算委員会を見に行った事があるが、確かにヤジなどが多く、発言が聞き取りづらい事も多い。ただ、大臣の答弁には当然、マイクが使われており、物音が原因で伝わらなかったというのは少々疑問が残る。
そして北村大臣は、会見の終盤に自身の勉強不足があったかどうか尋ねられ、「あったと思うね」と、あっさりと勉強不足を認めた。その上で、「普通の大臣としての仕事ができるように、努めて参る」と述べた。去年9月の就任以来、約5カ月が経つが、いまだに勉強不足ということでは、厳しく追及されても仕方ないと言えるだろう。
番記者から見た北村大臣
では、北村大臣とはどんな人物なのか。その人柄について周囲の関係者に尋ねると、総じて「いい人」という声が返ってくる。私たち記者に対しても、挨拶に行くと「出身はどこか」などと聞き返してきて、気さくにいろいろな話をしてくれる。口調も穏やかで、偉ぶることもない。
その一方で、やや耳が遠いということもあり、周囲とのコミュニケーションには苦労しているときもあるようだ。記者会見でも、記者からの質問を聞き取れず、聞き直す場面が度々見られる。
身内からも厳しい声…本人だけでなくサポート役の官僚にも
迷走する北村大臣の答弁だが、政府与党内からは北村大臣を擁護する声もあがっている。
菅官房長官は7日、北村大臣の予算委員会での対応を問われ、「北村大臣は、北村大臣らしい味をしながら、答弁されていたんだろう」と述べている。さらに「まさに適材適所だと思っている」と人事に関しても問題ないという旨を強調した。
また、自民党の世耕参院幹事長は「人によっては得手、不得手がある」として、「ご高齢であるから、瞬発力は難しいと思う」と、73歳の北村大臣をかばい、「きちっと答弁できる態勢を構築していくことが重要だ」と閣僚経験者としてのアドバイスを送った。内閣府の関係者も「公文書管理法の何条か、みたいな話はふつう役人も知らないし、答えが欲しいなら政府参考人に聞けばいい」と、野党の追及を批判している。
だが、身内である自民党関係者の中にも、厳しい目を向ける者は多い。北村大臣と同じ、岸田派の閣僚経験者は「あれは後ろの役人どもがダメだよ。北村さんができないのはわかってるんだから」と、秘書官らサポート役の官僚に対して厳しい指摘をしつつ、北村大臣の答弁能力不足を認めている。
実際、北村大臣の発言は官僚が事前に用意した文書を読み上げることが多い。ある内閣府の官僚は「役人側から見ると、こちらが用意した答弁をそのまま読んでくれるのはありがたい」と話している。しかし、いつまで経っても官僚の答弁を読むだけでは、自らの見識のない大臣だとの批判をまぬがれる事はできないだろう。
番記者との激論再び
週末を挟んで迎えた10日、この日も引き続き、閣議後の記者会見で番記者との激論が繰り広げられた。北村大臣は、前週の予算委員会で、自身が答弁に窮したことについて問われ「国会の場で当然、丁寧な説明ができるよう努めて参らなければいけない」と反省した一方で、「具体的な質問そのものを、事前にいただいていたわけではなかった」と、野党側の質問通告に対しての不満も口にした。
さらに、大臣としての資質に関して問われると「引き続き、真摯に職責を果たしてまいりたい」と、続投の意思を強調した。その後も、記者団による北村大臣への厳しい質問は続いたが、およそ10分が経過すると、国会日程を理由に司会者が打ち切って終了した。
その後、予算委員会に臨んだ北村大臣だが、実は前日に予定していた秋田県への出張を国会対応のためとして急遽取りやめていた。委員会での答弁の準備の時間にあてたということだが、内閣府関係者によれば、こうした対応は「前代未聞」だという。
予算委はまたも紛糾…「一生懸命やったけどな」
こうして臨んだ予算委員会。今度こそ野党を納得させられる答弁ができるのか、といった期待を込めて見ていたが、それはあっさりと裏切られることになる。トップバッターである立憲民主党の黒岩宇洋衆院議員の質問にあたっては、大臣の答弁を補佐する政府参考人の出席を巡りいきなり紛糾。さらに夕方の山井和則衆院議員の質問時には、北村大臣の答弁が不十分だとして野党が猛反発して一時退席し、再び混乱することになった。
そして北村大臣は国会を出る際、集まった大勢の番記者らに当日の答弁について聞かれると、疲れた表情を浮かべながら「一生懸命やったけどな…」とぼやき、それ以上は語ることなく車へと乗り込んでいった。
北村大臣の“迷走答弁“には今後も野党からの激しい追及が予想される。果たしてそれに対応できるかどうか…安倍首相の任命責任とも絡むだけに、この国会の1つの焦点となっている。