根強く残る“東京信仰”
この記事の画像(4枚)政府は11月22日、「まち・ひと・しごと創生会議」を首相官邸で開いた。この会議は、人口急減や超高齢化を受け、各地域が、特徴を活かした自律的で持続的な社会を創生することを目指すものだ。そして会議で年内にとりまとめる予定の第2期総合戦略で、重要な課題の一つとなるのが、東京一極集中の是正である。
安倍首相は会議の中で「若者をはじめ地方にチャンスを見いだす人たちの背中を力強く押していく」と決意を語った。ただ、これまで都会で生活していた人間が、いきなり地方への移住を決断するというのはやはり、不安が大きいのも事実である。そのため首相は「最初は都市に住んだまま週末だけ地方で兼業・副業するという何らかの関わりを持つことからはじめ、少しずつ地方に愛着を持ってもらい、最終的な移住に備えていく」として、地方の関係人口を増やしていくことの重要性にも触れた。
政府も、東京から地方への移住を支援すべく、U・I・Jターンにより地方で起業・就業する人に最大で300万円を支給するなど、地方と都市のマッチングの仕組み作りに取り組んで来た。
それでも、東京一極集中は是正されたとは言いがたく、やはり若者を中心に“東京信仰”は根強いものがあるようだ。果たしてイマドキの若者は、「地元」についてどう思っているのだろうか。実は、地方や東京に住む若者の本音に迫った興味深い調査がある。
進路の分岐点は高校2年生
内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局は、今年6月~8月にかけて地方(新潟、福岡、名古屋)と東京に住む若者を対象に、グループインタビューを行った。
対象のうち、地方に住む若者については、新潟、福岡、名古屋それぞれの場所で①地元に残った大学生・専門学校生②東京の大学・専門学校への進学を考えている高校3年生。東京に住む若者は①地方出身の大学2・3年生②東京出身の高校3年生で、それぞれ男女6人ずつにグループインタビューした。
その結果、ある傾向が見えてきた。進路を検討するプロセスは、ほぼ全国共通であり、高校2年生の9月頃を境に地方の高校生の東京志向が強まっていくことがわかったのだ。
高校入学後の1年生では、地元に残るか、東京を目指すのかについて、当初の希望と比べあまり変動はみられない。しかし、進路指導が本格化していく2年の夏頃から、地方に住む高校生は徐々に東京志向を強めていく傾向があるという。その理由として、大学や学部・学科の選択肢の多さ、東京の大学のオープンキャンパス、一人暮らしの憧れなどが挙げられている。
ちなみに、筆者も新潟県出身であるが、確かに新潟県内の大学は、東京に比べれば数が圧倒的に少ない。それゆえ、偏差値や学部などから自分に合った大学を選ぼうとしても、東京に比べて選択肢が限られてしまうのが現実である。
さらに、私自身は元々東京への思いが強かったが、高校生の時、オープンキャンパスで東京を訪れた際、大学はもとより東京駅から大学に行くまでの間に、華やかな街並み、立ち並ぶビルを見て東京への思いが一層強くなり、絶対この大学へ入るのだという思いを強くしたものである。もっとも、受験には失敗したため、それ以来憧れた風景を見ることはなかったが・・・
地元に残ることを選んだ人の理由としては、家計の経済状況や経済的負担の検討、親・家族の存在、一人暮らしの不安などが挙げられている。東京に憧れる高校生が多い一方で、不安を抱える高校生が多いのもまた事実である。ただ「積極的に地元がいいという声はなかった」と担当者は話しており、やはり東京への憧れは強く、地元志向といっても後ろ向きの理由が多い傾向がうかがえる。
地元の魅力を考える
そして今回のグループインタビューの参加者の多くから「日常生活の中で、自分の生き方について考える機会はなかなかないし、友人と話し合うこともない。今回のグループインタビューであらためて自分たちの地方の良さに気づくこともできた」といったような声があがったという。
また、大学生からは「このような機会はできれば大学生になる前に経験しておきたかった、そうすれば大学の選択の方法がかわっていたかもしれない」といった声もあがっている。
確かに、受験に追われ、自身の偏差値や希望の大学を考えるのに必死な高校生にとって、東京に行くべきか、地元に残るべきか、じっくりと考える余裕がない、というのが現実だろう。
そのため、模試などの結果を基に進路を考えると、どうしても選択肢の多い東京に目が向きがちになってしまう。さらに、人口減少や東京一極集中が問題になっていると言っても、それを踏まえて進路を考える学生はほとんどいないだろう。
地元ならではの魅力というのも、本来は大きなものであるにも関わらず、若者に浸透しているとは言いがたく、考える機会がないのも現実である。地方の若者が視野を広げられ、自らの地元について考える機会を作ること。東京一極集中の是正は、そうしたことから始めていくことが大切だと感じる。