2021年8月24日午後、アフガニスタンに残る日本人や日本大使館などで働いていたアフガニスタン人スタッフらを退避させるため、自衛隊の輸送機が現地へ向かった。アメリカを始め各国は取り残された人々の救出を急いでいる。

そんななか、ユニセフ(国連児童基金)の広報官ジェイムス・エルダー氏は、FNNのインタビュー取材に対し、アフガニスタン全土で活動する約330人のスタッフが、今も現地にとどまり活動を続けていることを明かした。さらにタリバンとの間で協議を継続しているとした上で、「タリバンはスタッフの安全を保障する必要がある」と強調。

ユニセフ(国連児童基金)の広報官ジェイムス・エルダー氏
ユニセフ(国連児童基金)の広報官ジェイムス・エルダー氏
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アフガニスタンでは2021年1月から7月の間に、468人の子どもたちが紛争に巻き込まれ死亡したという。8月のタリバンの侵攻による政権崩壊により、被害はさらに拡大する恐れがある。
インタビュー全文を掲載する。

タリバンとの協議を継続

――ユニセフはタリバンと接触しているのか

ユニセフ広報官 ジェイムス・エルダー氏:
ユニセフは人道上の原則に従って、その国のすべての当事者と協力する。現在の危機の前から、タリバンは国の一部を支配していて、ユニセフはタリバンと協力関係にある。私たちの仕事は、アフガニスタンの子どもたちのためにあり、子どもたちは今まで以上に私たちを必要としている。この国の子どもたちにとって、状況はとても厳しいものだ。

例えば、2021年には、100万人もの子どもたちが重度の急性栄養失調に陥る可能性がある。国を支配しているどの勢力とも協力していくのは、私たちの責任だ。タリバンとの接触について、正確な場所や時期、内容は申し上げられないが、アフガニスタンで支援を必要としている子どもたちに対応できるよう、話し合い、必要なものを提供していきたい。

進歩を保護するだけでなく拡大する必要

――女性への人権蹂躙的な支配が再び行われる懸念について

ユニセフ広報官 ジェイムス・エルダー氏:
2021年8月18日に国連主催で行われた記者会見で「現場での証拠を見る必要がある」と説明したように、私たちは状況を見極めている。これまでアフガニスタン全土で人権への厳しい制限を目の当たりにしてきた。

アフガニスタンでの私たちの第一の目標は、国中の少女や女性の権利を守ることだ。アフガニスタンでは過去10年間で何百万人もの少女が学校に通うようになった。この進歩を保護するだけでなく、さらに拡大する必要がある。

カブール国際空港 ビザを持たない人々が一縷の望みにかけて集まり混乱状態となっている
カブール国際空港 ビザを持たない人々が一縷の望みにかけて集まり混乱状態となっている

――タリバン側から女性の教育支援について表明はあったのか

ユニセフ広報官 ジェイムス・エルダー氏:
タリバンによる会見では前向きなレトリックがあったが、今はアフガニスタンの過渡期であり、次に何が起こるかは誰にも予測できないし、私たちも予測しようとは思っていない。私たちがしようとしているのは少女たちに何が起こるか、その結果に影響を与えることであり、私たちが求めているのは人権が守られることだ。少女たちが学校に通い続けることができるようにしたい。

アフガニスタンの一部地域では、少女たちが学校に通う様子を確認しているが、残念ながらすべての地域がそうではない。ユニセフは今後もあらゆるレベルで(女性や少女の人権の保護を)提唱していく。今後、アフガニスタンのどこでも人権侵害の証拠を目の当たりにすれば、もちろんそれを明らかにすることもできる。

首都カブール スプレーで黒く塗られる女性の顔のポスター タリバンによるイスラム原理主義統治を懸念する動きだ
首都カブール スプレーで黒く塗られる女性の顔のポスター タリバンによるイスラム原理主義統治を懸念する動きだ

過去最悪の年・・・スタッフの安全保護が必要

――タリバンによる子どもへの人権侵害が行われる可能性について

ユニセフ広報官 ジェイムス・エルダー氏:
2021年は、「紛争による子どもの死」という点ではアフガニスタンで過去最悪の年となった。何百人もの子どもたちが道路脇で戦闘に巻き込まれ、爆撃の被害に遭っている。重傷を負った子、ひどい火傷を負って亡くなった子もいる。ベッドで寝ていた子どもたちが、命を落としている。これが紛争の恐ろしい現実であり、罪のない子どもたちが苦しんでいる。

子どもたちは紛争と何の関係もないことを忘れないでほしい。だからこそ、私たちが前進していく上で本当に重要なのは、安全が維持されることだ。人々の人権が尊重され、ユニセフをはじめとする多くのパートナー団体が安全で途切れることのない人道的アクセスを得ることで、すべての人々に支援の手を差し伸べることが可能になる。アフガニスタンは、今回の危機が起こる前から、子どもたちにとって本当に困難な場所だったが、それがさらに厳しくなった。

だからこそ、ユニセフのような組織が現地で活動している。私たちはアフガニスタンに留まった。支援を必要としているすべての女性や子どもたちに手を差し伸べるために、タリバンは、私たちがこれらの人々にアクセスするために、私たちのスタッフが安全であることを保証する必要がある。

タリバンは「女性と少女は労働と教育の権利を維持するだろう」と強調する。しかしそれは“イスラム法の下”という「ただし書き」付きだ。
タリバンは「女性と少女は労働と教育の権利を維持するだろう」と強調する。
しかしそれは“イスラム法の下”という「ただし書き」付きだ。

約330人が“活動中”

――ユニセフ アフガニスタン事務所の陣容を教えてほしい

ユニセフ広報官 ジェイムス・エルダー氏:
現在、アフガニスタンには約330人のスタッフがいて、全土で人命救助に当たっている。私たちはこの国で非常に大きな足跡を残していて、これがユニセフであり、人道的仕事だ。私たちは、たとえ扉が閉まっても、新しい窓を見つけて、そこにアクセスする。

だから私たちはアフガニスタンで大きな存在感を持ち続けられ、世界中の人々から支援を受けている。世界中のユニセフがアフガニスタン事務所を支援していく。世界中のユニセフが、アフガニスタンの子どもたちや女性たちに寄り添いたいと思っている。またユニセフのスタッフの安全確保は、国連にとって常に絶対的な優先事項だ。

両親は壁の内側にいる西側諸国兵士に幼い我が子を託すその後、医療ケアを受け家族の元に戻ったという(2021年8月19日 カブール国際空港)
両親は壁の内側にいる西側諸国兵士に幼い我が子を託す
その後、医療ケアを受け家族の元に戻ったという(2021年8月19日 カブール国際空港)

――アフガニスタンで活動する上での障害は

ユニセフ広報官 ジェイムス・エルダー氏:
このような場所で活動すること事態が困難で、タリバンからの安全保障が必要だ。それが実現すれば、私たちの活動は今後も継続していける。私たちは活動を拡大させたい。例えば、安全な水をトラックで運んで人々に提供する活動が必要だ。

アフガニスタンでは干ばつが多く、重度の急性栄養失調で命の危険にさらされている何十万人もの子どもたちに手を差し伸べなければならない。これは私たちの大きな優先事項だ。

また私たちには、信じられないほど的確な対応をとれる経験豊富な医療チームがいる。このチームは遠方まで行き、出産を控えた母親、体調の悪い子どもたちに手を差し伸べ、治療する。こうしたチームを増やして、最も弱い立場にある人々がいる地域に派遣できるようにしなければならない。このような危機的状況下だが、ユニセフは子どもたちや女性のための活動を拡大したいと考えている。

支援を得て活動を拡大していく

――アフガニスタンの状況について

ユニセフ広報官 ジェイムス・エルダー氏:
子どもたちにとって非常に厳しい状況だ。アフガニスタンは現在の危機が起こる前から本当に困難な場所だったが、この1カ月間に状況はさらに悪化した。何十万人もの子どもたちが避難している。眠っていた子どもたちが、突然、ロケット弾や銃撃の音に起こされ、取る物もとりあえずパジャマのまま家を出て、避難民キャンプにたどり着いている。

ユニセフは彼らにアクセスする。信じられないようなトラウマだ。新型コロナウイルスによる社会経済的な危機に加えて、干ばつが悪化し、さらにこのような状況になってしまった。高い栄養失調率に加え、学校に通えない子どもたちはいまだに多くいる。

過去10年間で学校に通う子どもたち、女の子が増えたことは、アフガニスタンのお母さんやお父さん、そして国際社会が誇りに思うべきことで、私たちはこの状況を守らなければならない。本当に厳しい場所であり、子どもであること、生きることがより困難になっている。だからユニセフは現地に留まり、国際的な支援を得て、アフガニスタンの母子のために行う活動を拡大していく。

“7月までに”468人の子どもが死亡した

――タリバンにより殺害された子どもたちについて分かっていることは

ユニセフ広報官 ジェイムス・エルダー氏:
一体「誰が」子どもたちを殺害したのかという点について、正確なことはわからない。分かっているのは、何人の子どもが亡くなったかということだ。正確には468人の子どもたちが紛争に巻き込まれ死亡した。これは1カ月前の数字だ。

1週間ほど前、ベッドで寝ていた男の子が迫撃砲に見舞われ、ひどい火傷を負う悲惨な事件があった。小さな家に迫撃砲が落ち、寝ている間にひどい火傷を負ってしまった。子どもたちが死亡し、さらに多くの子どもたちがひどい怪我をしている。学校に行くために仕事をしていた子や、ベッドで眠っていた少年にとって、それがどのようなものであるか。想像するに余りある。

このような状況下では、国際法が守られ、子どもたちの学校や病院が常に保護され、ユニセフのような組織が自由に安全にアクセスできるようにすることが重要だ。死を目の当たりにした子ども、怪我をした子どものために。また心理的なサポートも必要であり、これらはすべて、ユニセフが行う。

【執筆:FNNバンコク支局長 百武弘一朗】

百武弘一朗
百武弘一朗

FNN プロデュース部 1986年11月生まれ。國學院大學久我山高校、立命館大学卒。社会部(警視庁、司法、宮内庁、麻取部など)、報道番組(ディレクター)、FNNバンコク支局を経て現職。