「近代シカゴ史上最も不人気な市長」と評された政治家が、新駐日大使に指名された。

バイデン米大統領は8月20日、次期駐日大使に前シカゴ市長のラーム・エマニュエル氏(61)を指名すると発表した。

前シカゴ市長のラーム・エマニュエル氏
前シカゴ市長のラーム・エマニュエル氏
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エマニュエル氏は連邦下院議員出身で、第一次オバマ政権では首席補佐官をつとめ、当時の副大統領のバイデン氏とはじっこんの間柄だったこともあり今回の指名になったと考えられている。

「大統領の寝室にも電話できる大使」ということにもなるわけで、日本では歓迎する見方が多いようだが、米国内ではエマニュエル氏の政治手腕は必ずしも高く評価されているわけではない。

第一次オバマ政権では首席補佐官をつとめたエマニュエル氏とオバマ元大統領(2017年)
第一次オバマ政権では首席補佐官をつとめたエマニュエル氏とオバマ元大統領(2017年)

黒人少年射殺事件での“隠蔽”疑惑

まず、その政治的立場が民主党でも左寄りだということにある。オバマ政権のリベラルな政策を遂行したことに、当然共和党側の反発は強い。保守派だけでなく、民主党左派からもエマニュエル氏に対しては抵抗感がある。

同氏がシカゴ市長時代の2014年、白人警察官が黒人少年を射殺した事件が起きたが、捜査の決め手になるビデオが1年間開示されなかった。実はその間にシカゴ市長選挙が行われエマニュエル市長は再選されたのだが、問題のビデオは選挙に不利になるために隠蔽されたのではないかという疑惑が持ち上がり、民主党左派の急先鋒アレクサンドリア・オカシオコルテス下院議員(ニューヨーク州)は2020年暮れにツイッターで「ラーム・エマニュエルは公職に就く資格はない」と非難していた。

オカシオコルテス氏のツイッターより(2020年11月)
オカシオコルテス氏のツイッターより(2020年11月)

中国企業との関係も“不人気”の材料に?

また、やはりシカゴ市長時代の2019年、エマニュエル氏がシカゴで行われた国際会議の基調演説を行なった際、司会のアジア系の女子高校生に人種差別的な言動で接し、地元のアジア系住民の団体に抗議されたこともあった。

(関連記事:新駐日アメリカ大使がアジア系蔑視発言 黒人少年射殺事件の証拠も隠蔽か

さらに、エマニュエル氏は市長時代の2016年にシカゴの地下鉄近代化事業を、中国の人民解放軍と関係のあるCRRC(中国中車)と情報漏洩が問題にされている電子関連企業ファーウェイに委託して「米国民の税金と情報が人民解放軍に流れないと考えるのは世間知らずとしか言いようがない。」と、共和党上院のジョシュ・ホーリー議員(ミズーリ州選出)が批判している。

こうしたことから、エマニュエル氏は地元の評判ははかばかしくなく、シカゴの雑誌『シカゴ』電子版は2016年2月1日に冒頭のような見出しの記事でシカゴ市民の間で同氏の辞任を求める声が高まっていると伝えていた。

支持者らを前に演説するエマニュエル氏(2015年)
支持者らを前に演説するエマニュエル氏(2015年)

「東京からできるだけ遠ざけなければならない」

米国だけでなく、日本にもエマニュエル氏に対する拒絶反応がある。東京在住のジャーナリスト、ウィリアム・ぺセック氏は、2021年5月17日の『ニッケイ・アジア』に寄稿し、エマニュエル氏の政治手法は日本にはそぐわないと指摘し「ラーム・エマニュエルは、東京からできるだけ遠ざけなければならない」と論評した。

ある意味「四面楚歌」にも見えるエマニュエル氏だが、それでも日本は同氏を歓迎するのだろうか?もっともそれは米上院で同氏の任命が承認されての話で、それまでにもいろいろと屈折がありそうだ。

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。