今月アメリカ国務省から「人身売買と闘うヒーロー」に選ばれたのが、日本の外国人技能実習制度や入管問題に取り組む指宿(いぶすき)昭一弁護士だ。指宿さんは名古屋入管で収容中に亡くなったスリランカ人女性ウィシュマさんの問題でも政府に真相解明を求める活動を行っている。

指宿さんに日本にいる外国人の人権問題について聞いた。

指宿昭一弁護士は米国務省から「ヒーロー」に選ばれた
指宿昭一弁護士は米国務省から「ヒーロー」に選ばれた
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奴隷制度のあった国だからこそ選ぶ

――アメリカ国務省の人身売買に関する報告書の中で、指宿さんを「ヒーロー」に選びました。日本人では2013年以来2人目ということですね。

指宿氏:
外国人技能実習生の問題に関して、実習生の救援救済と制度自体の廃止に向けた取り組みが評価されたのだと思っています。私個人へというよりも私の仲間みんなの活動に対する評価ですね。

「なぜアメリカの国務省が選出するのですか?」とよく聞かれますが、かつて奴隷制度のあった国が奴隷制度や人身取引は間違っているという理念をもとに報告書を出し、ヒーローの選出をしているのです。

――技能実習生を含む在日外国人労働者を巡る問題については、最近まで決して大きな注目を集めてきませんでした。

指宿氏:
そうですね。我々は以前からずっと問題提起していますが、広く社会に認知されたのは2018年の入管法改正議論の時だと思います。当時は新たな受け入れ制度として特定技能制度を設けようとして、「技能実習制度をこのままにして新しい制度を設けていいのか」という声があがりました。また、技能実習生自らが国会に行って声をあげました。

当時の動きは今回の入管法の問題と似ている面があります。入管法はウィシュマさんの死亡が大きく取り上げられることで世間に広く認識されました。しかし実はこれまで2007年以降だけで17人の外国人が収容中に亡くなっています。いま始まった問題ではないのです。

過酷な環境で働く外国人技能実習生

――外国人の技能実習制度は、外国人を日本に呼んで技能を学んで帰国してもらうという主旨なのに、実体的には行動の自由を制限され“ただ働き”同然の扱いを強いられていますね。

指宿氏:
制度の建前は技能実習で、技術を学ぶためだから1つの工場で3年間働きなさいという建て付けになっています。だから職場移動の自由がありません。

しかも基本給も含めて賃金がきちんと支払われていない。支払っているところでも最低賃金ギリギリという企業が殆どで、中には寮費や水道光熱費を水増しして天引きし、最低賃金を違反していないように見せているところもあります。残業代は時給300円などという違法な状態がいまも続いていますし、安全基準もでたらめなところが多いです。

――技能実習生が作業中に事故に遭うケースはよく聞きます。

指宿氏:
実習生が機械の操作を始めて1日目か2日目に大事故に遭うケースが多いです。安全教育をきちんとやっていないのが原因です。日本人労働者だと企業側に労働災害の責任が発生しますが、外国人の場合は責任を追及されることはほとんどありません。

また言葉の壁があるので、コミュニケーションが取れないとすぐ暴力を受けたり、女性に対してセクハラや性的暴行が行われるケースも多いです。

日本の入管の現状を国会で説明する指宿氏(6月4日国会内にて撮影)
日本の入管の現状を国会で説明する指宿氏(6月4日国会内にて撮影)

後を絶たない悪質な企業や監理団体

――こうした過酷な労働環境にありながらなぜ外国人は日本に来るのでしょう?

指宿氏:
日本で順調にいけば借金を返してそれなりのお金を稼いで帰国できるからです。借金を返せないまま帰国する人もかなり多いのですが。ベトナムの貧しい農村部に行ったときに、日本の実習制度で上手く稼げた人は家を改築して豊かに暮らしていました。だからこうした村では若者が実習生として稼いで親を少しでも楽にさせようと思うのですね。

――こうした国では実習生がブローカーへの支払いのために多額の借金をしてくるそうですね。

指宿氏:
現地では送り出し機関といいますが、ベトナムではかつては国営だったのがいまは民営化されています。技能実習法の施行により、監理団体は許可を受けなければ受入れができないことになりました。しかし現地の送り出し機関が日本の悪質な監理団体を現地の夜の街で接待したり、キックバックをするという動きがあります。

良心的に実習生のことを考えて、受け入れている企業や監理団体ももちろんあります。しかし良貨を悪貨が駆逐するといいますか。

ビデオ公開を求める署名が4万筆に

――実習生からこうした実情を訴え出るケースもありますか?

指宿氏:
かつては実習生が逃亡したり日本人と接触させないようにするために、携帯電話を禁止したり、パスポートを取り上げて預かることが当たり前でした。いまはスマホを持っている実習生も多く、Wi-Fiのあるスポットに出かけていってSNSを使って母国の友人や支援者に相談をするケースが多いです。

日本政府としては法務省と厚労省が所管する外国人技能実習機構が受け入れ企業と監理団体のチェックをしています。しかし、受け入れ企業は3年に1回程度、監理団体は年1回程度でしかも十分なチェックができているかどうかは疑問です。

ウイシュマさんを偲ぶ会での指宿弁護士。右はウイシュマさんの妹たち(5月29日都内にて撮影)
ウイシュマさんを偲ぶ会での指宿弁護士。右はウイシュマさんの妹たち(5月29日都内にて撮影)

――最後にウィシュマさんの死亡問題について伺います。指宿さんは映像公開を求め続けていますが、その後法務省に動きはありますか?

指宿氏:
ビデオ映像は出さないつもりでいると思います。ただこちらも公開を求める署名数が増えているので(7月7日開始。7月21日現在4万筆)、そういう声を背景にもう一度国会議員に動いてもらって公開せざるをえない状況をつくれる可能性は充分あると思っています。野党議員はもちろん与党議員の中にもビデオを出すべきだという声があると聞いています。問題の真相解明と入管収容施設で繰り返される人権侵害を止めるため訴え続けていきます。

――ありがとうございました。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。