新型コロナウイルスの感染拡大はいまだに終息の兆しが見えない。
シリーズ「名医のいる相談室」では、各分野の専門医が病気の予防法や対処法など健康に関する悩みをわかりやすく解説。

今回は、脳神経内科、福島県立医科大学の井口正寛先生に、“突然やってくる脳の病気”という意味をもつ「脳卒中」について話を聞いた。

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早期発見のための予兆「BE FAST」

脳神経内科・井口正寛先生:
脳卒中は、「突然 当たる 脳の病気」という意味です。

「卒」は「突然」、「中」は「当たる」という意味が含まれています。

症状は、Face(顔)、 Arm(腕)、 Speech (言葉)、Balance(バランス)、Eyes(目)に現れ、頭文字をとって、『BE FAST』 とも言います。
早期に病院で受診するための標語として、海外でしきりに言われています。

脳卒中には、次のような症状があります。

○バランス:うまく歩けない、足に力が入らない
○目の障害:視野が欠ける、ものが二重に見える
○顔の障害:顔が歪んで笑顔が作れない、口の片側から飲食物がこぼれる
○腕の麻痺:手をうまく挙げられない、挙げても落ちてきてしまう
○言葉の障害:ろれつが回らない、言葉が出てこない、他人の話している内容が理解できない(自分の知らない言語で訴えられているようなイメージ)

これらの症状が急性に生じたのなら、脳卒中の可能性が高いです。
すぐに病院で受診してください。

脳卒中のタイプ

脳卒中のタイプには、血管が破れて発症する「出血性脳卒中」と、血管が詰まって脳細胞がダメージを受ける「虚血性脳卒中」があります。

主な「出血性脳卒中」には、「くも膜下出血」と「脳出血」があります。

○くも膜下出血:血管が破れ、脳の表面を覆う膜の隙間に出血が起こる

○脳出血:血管が破れ、脳の中に出血が起こる

(イメージ)
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虚血性脳卒中」には、「一過性脳虚血発作」と「脳梗塞」があります。

○一過性脳虚血発作:脳梗塞の前触れで、脳の血管が詰まって血流が来なくなるが、脳細胞が死ぬ前に血流が再開して助かり、症状が24時間以内に消失する状態

○脳梗塞:脳の血管が詰まって、その先の脳細胞が死んでしまうもので、「ラクナ梗塞」「アテローム血栓性脳梗塞」「心原性脳塞栓症」「その他の脳梗塞」がある

「ラクナ梗塞」・・・1.5cm以下の小さな脳梗塞で、高血圧と関係が深い

「アテローム血栓性脳梗塞」・・・動脈硬化を背景にして起こり、やや太い血管に起こることが多い

「心原性脳塞栓症」・・・不整脈や弁膜症などで心臓に血の塊ができて、脳に飛んで詰まるもので、急に大きな血栓が脳の太い血管に詰まるので重篤化することが多い

「その他の脳梗塞」・・・足の静脈にできた血栓症が心臓の小さな穴を通して脳に飛び詰まる「奇異性脳塞栓症」などさまざまなものがある

また、新型コロナウイルス感染症でも脳梗塞が起きることが報告されています。

脳梗塞の治療

脳梗塞の治療は、発症直後の「超急性期治療」、数週間以内の「急性期治療」、それ以降の「慢性期治療」の3段階に分けられます。

脳細胞は人と一緒で、死んだら生き返らない。
死にかけても、血液さえあれば助かる細胞を救うのが治療の一番の目的です。

数時間以内に行われる「超急性期治療」は、血流を再開させることで、死にかけている脳細胞を助けることが目的。
点滴で血管に詰まった血栓を溶かす「血栓溶解療法」と、血栓をカテーテルで取り除く「血管内治療」があります。

カテーテルで回収した血栓
カテーテルで回収した血栓

この画像は、脳血管の中の血栓をカテーテルに引っかけて回収したものです。

カテーテルの先についているのが血栓。
カテーテルは数ミリなので、血栓も横幅は数ミリですが、長くあることがわかります。

「超急性期治療」、「急性期治療」を経た後の「慢性期治療」では、脳梗塞の再発を防ぐために血液をさらさらにする薬を使ったり、脈硬化を進ませないように生活習慣病に対する介入などを行っていきます。

場所によって変わる症状

脳卒中で出た症状は、時間とともに改善し、治りきらないところが後遺症として残ります。

死んだ脳細胞は生き返らないので、脳卒中は良くならないと思うかもしれないが、生き残った脳細胞が死んだ脳細胞の肩代わりをするので、半年から一年かけて症状は徐々に改善します。

脳は場所によって機能が決まっています。
どの場所が詰まったか、壊れたかによって出る症状は変わります。

例えば「言語野」の場所だと、言葉がうまく出せなくなったり、他人が何を言っているのかわからないといった症状がでます。

「小脳」という場所だと、ろれつが回らなかったり、バランスが取れず千鳥足のような歩き方になります。

普段機能を持っていない場所が詰まる場合は、「無症候性脳梗塞」と呼ばれています。

危険因子は高血圧、高脂血症、糖尿病、たばこ

脳卒中で一番の危険因子は高血圧
血圧が高い場合は放置しないことが大事で、家庭血圧計を買って朝起きたときの血圧を記録。
塩分を控えて、血圧が下がらない場合は薬での治療になります。

(イメージ)
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高脂血症糖尿病も、「アテローム血栓性脳梗塞」という動脈硬化を背景にして起こる脳梗塞の危険因子になるので、検診で指摘されたら放置しないでください。

たばこも良くない。
5年くらい禁煙すれば、脳卒中のリスクは吸っていなかった人と同じレベルまで戻ると言われています。

脳卒中は近年、緩やかに減少傾向です。
ただ、コロナが流行り始めた以降の公式な統計は出ていないので、はっきりしたところはわかりません。
諸外国では受診控えが少し起きていて、軽症の人の受診が減っているとの報告もあります。

新型コロナウイルスワクチンの問診票には、血液をさらさらにする薬の服用にチェックを付けますが、飲んでいても接種は可能です。
危険なことはないので、過剰に恐れず受けてください。

今の時期、病院に行くのが怖いと思う方もいると思いますが、生活習慣病を自分の判断で放置しない。症状が出た場合は、治療のチャンスを逃さないことが大事です。
 

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