アジア系住民への差別解消までは踏み込まず

米国のバイデン民主党は、アジア系住民への暴力行為を非難しながらも、その背景にある偏見と差別にまで踏み込んで対処はしないことを投票行動で示した。

米上院は22日、アジア系住民に対する「ヘイトクライム(憎悪犯罪)」に対処する法案を94対1と超党派の賛成で可決した。

「ヘイトクライム」に対処する法案を94対1で可決したバイデン政権だが・・・
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法案は下院に送付されて可決成立すると見られるが、その内容は司法省にヘイトクライム担当者を置くことや、一般市民の啓蒙活動を広げるなどというもので、罰則規定もなくアジア系住民におもねる建前論にすぎないように読める。

実は、この法案には修正条項を追加する提案が行われていた。テッド・クルーズ議員(テキサス州選出)ら二人の有力な共和党議員の提案で、次のような条文だった。

「本御法案の他の条項にかかわらず、1962年の高等教育法第102条に定める高等教育機関(大学等)がアジア系米国人に対して学生の募集、願書の審査、入学許可をめぐって差別的な制度が存在したり、行為があった場合は、いかなる連邦政府の資金も受け取ることはできないこととする」

しかし、この修正条項案は民主党側の反対にあって49対48で否決された。

「人種差別を終えることを主張しながらも民主党は、アジア系住民の差別に対してリップ・サービス(口先のサービス)をするだけで、米国の大学が彼らを標的に差別することを許している」

提案者の二人の議員はこう非難する声明を発表した。

大学入試の「人種割当制」という構造的偏見

今回アジア系住民に対して暴力事件が相次いだのは、トランプ前大統領が新型コロナウイルスを中国製と非難したことに刺激されてのこととも報ぜられているが、その背景には大学入試の「人種割当制」で具体化したアジア系住民に対する構造的偏見があるというのが通説だ。

アジア系住民は子供たちへの教育に熱心なため、放っておくとアジア系の入学生が多数を占め、黒人やヒスパニック系の入学者が居なくなるというのが割当賛成派の主張だが、実はそれ以上にアジア系住民に対する構造的な偏見があるという見方がある。

米国の名門大学のハーバード大学は、1920年代にユダヤ人の入学生を制限したことがあった。その理由について当時のローレンス・ロウエル学長はこう言ったと伝えられる。

「ユダヤ人は大学を破滅させる」

アジア系学生を対象に再び入学生の制限を行っていると指摘されるハーバード大学

そのハーバード大学が今、アジア系学生を対象に再び入学生の制限を行なっている。

「ハーバード大学は、かつてユダヤ人の学生数を制限したのと同様に、アジア系学生に対して不公平な人種的分類を行なっている」

アジア系学生の支援団体は同大学をこう糾弾して提訴し、マサチューセッツ州連邦地裁は2019年「ハーバード大学の入試に人種割当制はないが、入試選考に当たって人種的な配慮を加えている」と判断した。

「アジア系学生は大学を破滅させる」と考えたからではないのか。

アジア系住民は「第二のユダヤ人」か

米国では、ユダヤ人が勤勉で事業で成功するものが多いことに怨嗟の念があり、宗教観もキリスト教とは異なることが偏見の背景にあるとされるが、これはアジア系住民にもそのまま当てはまることだろう。

同様の差別は、やはり名門のエール大学でも行われているとされ、トランプ政権の司法省が公民権法違反で大学を訴追していたが、バイデン政権の司法省は2月、この訴訟を取り下げた。
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「バイデン政権のエール大学訴追取り下げは根本的な間違いであり、危険な前例を作ることになった」

初の韓国系の女性下院議員の一人のミシェル・スティール議員(共和党・カリフォルニア州)はこう非難したが、今回の上院での与党民主党の投票行動は、同議員の懸念を証明したようだ。

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】