エール大学の訴訟取り下げ

バイデン政権は「結果平等」の社会主義的路線に大きく舵を切った。

バイデン政権の司法省は3日、エール大学に対して起こしていた訴訟を取り下げる手続きをした。

エール大学に対して起こしていた訴訟を取り下げる手続きに入ったバイデン政権
エール大学に対して起こしていた訴訟を取り下げる手続きに入ったバイデン政権
この記事の画像(5枚)

訴訟は、エール大学が入試に当たって人種差別を禁じた公民権法に違反しているとするもので、2020年10月にトランプ政権の司法省が大学の所在地のコネチカット州地裁に提訴していた。

訴えによると、エール大学では入学生の人種的なバランスをはかり、入試では学業成績だけでなく受験生の人種も考慮に入れている。このため黒人やヒスパニック系の受験生が優先的に合格し、白人やアジア系の受験生は成績が良くても不合格となる差別があるとしていた。

これは、黒人などの社会的弱者を救済するために積極的に是正措置をとる「アファーマティブ・アクション」の一環としてオバマ政権時代に推奨され、エール大学だけでなく米国の多くの大学で採用されている。

アジア系の受験生には「逆差別」

しかし、結果的には白人だけでなくアジア系の受験生が「逆差別」を受ける形になるため数多くの訴訟が起こされ、ハーバード大学もアジア系の団体から訴訟を起こされ、トランプ政権も支援していた。

この制度が適用されると、1600点満点のSAT(大学進学適性試験)で黒人は1100点で入学できるのに対して、白人は1410点、アジア系の受験生は1550点取らなければならないという分析もある。

(イラスト:さいとうひさし)
(イラスト:さいとうひさし)

黒人やヒスパニック系受験生の採点に「下駄を履かせる」わけで、社会主義的な「結果平等」の社会正義観に根ざしており米民主党左派に根強く支持されている。

一方、トランプ政権のような共和党保守派は「機会平等」を支持していたわけだが、政権奪回を果たしたバイデン政権は直ちに「結果平等」を復活させると宣言していた。

「Equity」か「Equality」か

バイデン政権の国内問題担当補佐官に任命されたスーザン・ライス氏は、先月26日に記者会見を行い新政権の政策方針を次のように述べた。

「バイデン政権の全ての行政機関は、政策遂行にあたってEquityをその根幹に据え、弱者に救済の手が届くように配慮してゆきます」

会見するスーザン・ライス国内問題担当補佐官
会見するスーザン・ライス国内問題担当補佐官

Equityを辞書で引くと「公平」とあるが、「公平」にはEqualityという言葉もある。その違いをネットで調べて行くと、ある漫画を見つけた。

壁越しに野球の試合を見る三人の後ろ姿で、いずれも同じ高さの箱の上に乗っているが、背の低い子供はそれでも壁の上に届かず隙間からしか見ることができないという図で、それにはEqualityとある。

一方Equityとある図は、同じ野球観戦でも一番背の低い子は箱二つ、中背の子は箱一つに乗り、大人は箱無しで三人が同じ高さから観戦している。

つまり、Equityは「結果平等」Equalityは「機会平等」というわけだが、エール大学の場合なら黒人とヒスパニック系受験者には箱、白人は箱無し、アジア系の足元には穴を掘って全員の背丈を同じにしようということに他ならない。

(イラスト:さいとうひさし)
(イラスト:さいとうひさし)

バイデン大統領は民主党中道の立場と言われていたが、党内の左派勢力の支援で大統領選を勝ち抜いた経緯もあり今後社会主義的な政策を取り入れると考えられており、大学入試に限らず様々な場合に人種的、性差的あるいは収入的に「結果平等」的措置が取られることと予想される。

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン+図解イラスト:さいとうひさし】

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。