「ケーキのクリーム」でサプライズ

男の子か、女の子か。生まれてくる赤ちゃんの性別を知る瞬間は、多くの親にとってドキドキワクワクする一瞬だろう。

性別お披露目パーティ(=gender reveal party)」をご存じだろうか。10年ほど前から、アメリカではその瞬間を“サプライズ演出”をする人たちが増えている。生まれてくる子供の性別を知らされていない家族(場合によっては妊婦本人も)が、ケーキなどをカットして、出てきたクリームの色が“青”なら男の子、“赤”もしくは“ピンク”なら女の子であるということをその場ではじめて出席者らとともに知るというサプライズ演出だ。

もともとは「ケーキのクリーム」でのサプライズだったものが、披露する舞台装置は年を経るごとに大掛かりなものとなっていく。

飛行機墜落に山火事…ついに犠牲者も

11月、ある事故調査報告書が全米の注目を集めた。アメリカ国家運輸安全委員会が、9月にテキサス州で起こった飛行機墜落事故の原因を発表したのだ。

友人の赤ちゃんの性別お披露目パーティでサプライズのために、1300リットルの“ピンクの水”を空から降らせる演出をしようとしたが、高度があまりに低く墜落。飛行機に乗っていた人が負傷した。

出典:Turkey Volunteer Fire Department and EMS
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10月には犠牲者が出る悲劇も起きた。アイオワ州で、性別のお披露目のために火薬を使った装置を作った家族。この装置が爆発し 、破片が体にあたった親戚の女性(56)が死亡した。

2年前には、アリゾナ州の家族が標的を銃で撃って青い煙が噴き出す仕掛けを作り性別のお披露目しようとしたところ大規模な山火事に発展。1万8000ヘクタールが焼失し、多額の損害賠償も発生したという。

銃でこの標的を狙うと・・・? 出展:USDA Forest Service
銃でこの標的を狙うと・・・? 出展:USDA Forest Service
標的から青い煙が噴き出すという仕掛けのはずだったが・・・ 出展:USDA Forest Service
標的から青い煙が噴き出すという仕掛けのはずだったが・・・ 出展:USDA Forest Service

“創始者”が語る「複雑な気持ち」

演出がエスカレートし、死傷者まで出る事態となった、この「性別お披露目パーティ」。そもそも、だれがいつ、始めたのだろうか?

今年の夏、ある母親のSNS投稿が話題となった。

このパーティの“創始者”とされる、ジェナ・カルビナイディスさんだ。
「私がしたことが周囲に与えた影響について、とても“複雑な気持ち”だわ。銃発砲に、山火事…赤ちゃんの性別を必要以上に強調している。文字通り、クレイジーさが“爆発”したように見える」

ジェナさんは2008年、娘のビアンカさんを妊娠中に、はじめて「性別お披露目パーティ」をしたことで注目された。当時の写真をジェナさんに見せてもらった。ケーキのスポンジに挟まれたクリームが、ピンク色となっていて、おなかの赤ちゃんが女の子であることが家族らにお披露目された披露された。この当時のパーティをブログに掲載し、インタビューに答えているうちに、どんどん広まっていったというのだ。

「性別お披露目パーティ」で出されたケーキ(ジェナさん提供、2008年)
「性別お披露目パーティ」で出されたケーキ(ジェナさん提供、2008年)

“創始者の娘”が、身にまとう服とは

そして11年後。ジェナさんはSNSにこう続けた。
「赤ちゃんにとって、性別が、なんだっていうの?」
そして、生まれた娘ビアンカさんについて、
「世界で初めて性別お披露目された娘は今スーツを着ています」とつづり、家族写真を掲載した。ブルーのスーツを着たビアンカさんが真ん中に映っている。

ジェナさんの現在の家族写真。中央が娘・ビアンカさん
ジェナさんの現在の家族写真。中央が娘・ビアンカさん

また、ビアンカさんも自身のインスタグラムで、「世界で初めて性別お披露目された、スーツを着る女の子」と自己紹介している。

ピアンカさんのインスタグラムより
ピアンカさんのインスタグラムより
ピアンカさんのインスタグラムより
ピアンカさんのインスタグラムより

ビアンカさんは、青い服だけでなくピンクの服も、実に様々な服を着た写真を掲載している。「着たいモノを、好きなように着こなしている」という印象だ。

「将来、黒い髪なら黒い煙を出すの?」

いま、一部の性別お披露目パーティが疑問視されている理由は大きく二つある。

まずは大掛かりな演出により被害が発生してしまうという“やり過ぎ演出”への批判。もう一つは、「男の子は青、女の子は赤やピンクを着るもの」という古すぎる考えが、2019年のこの現代にまかり通っている点だ。

さまざまなアイデンティティと、自己表現の多様性が認められている現代のアメリカで男女を色分けで示すことに抵抗感を持つ人は少なくない。男に生まれたら/女に生まれたら、こうあるべきだ」という考え方に結び付くと考えられるからだ。

おそらく、“創始者”ジェナさんはそういった理由から「複雑な心境だ」と発信し、ビアンカさんの現在の姿を公表したのではないだろうか。私たちは、ジェナさんに、このSNS発信後も、性別お披露目によって被害や犠牲者が相次いでいることを受け、改めて取材を申し込んだ。

「みんな、SNSで“いいね!”をしてもらうことに夢中になりすぎだと思う」

ジェナさんは、こう指摘した。そして、パーティをすること自体は悪いことではないとしたうえで、今の思いを語った。

「赤ちゃんの足の間にあるものは、体の一部にすぎない。黒い煙を出すサプライズをしたら、将来黒髪の子になるというの?ばかげているでしょう。性別に注目しすぎることはもうやめましょう」

【取材:FNN ニューヨーク支局 中川真理子柳川晶子

中川 眞理子
中川 眞理子

“ニュースの主人公”については、温度感を持ってお伝えできればと思います。
社会部警視庁クラブキャップ。
2023年春まで、FNNニューヨーク支局特派員として、米・大統領選、コロナ禍で分断する米国社会、人種問題などを取材。ウクライナ戦争なども現地リポート。
「プライムニュース・イブニング元フィールドキャスター」として全国の災害現場、米朝首脳会談など取材。警視庁、警察庁担当、拉致問題担当、厚労省担当を歴任。